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死のWi-Fi

またホラーです。創作です。

いつの時代も「死のダイヤル」みたいな怪談話、ありますよね。小学生の時はちょうどネット黎明期でFlashの「赤い部屋」とか好きでした。
もし現代のホラーがあったとしたら…的な発想で書き始めたものです。

不倫相手のA子に子供ができたという。

お互い割り切った関係だったはずなのに面倒な事になった、と思った。
昇進がかかっているこの時期に問題を起こすわけにはいかないので示談の話しあいと称して自室に呼び出して殺した。



遺体は山に埋めて証拠隠滅した。





ーーー

その後、俺は無事昇進して平穏な生活を送っていた。


ネット回線を新しく切り替えてから
Wi-Fiの接続が悪く、度々途切れる事が多くなった。

「ちっ、またかよ」

iPhoneのWi-Fiの通信設定を開くと、いつも使っているSSIDの下になぜか昔A子が貸してくれたポケットWi-Fiのネットワークが表示されていた。



「この部屋のどこかにあるのか?」




俺は気味が悪くなり、A子のポケットWi-Fiを探した。

あの時、俺はあいつの所持品は全て山に処分したはずだ。

ーー鞄も、携帯も、人としての、心も。

あちこち探しても当然見つかるはずもなく、徒労に終わっただけだった。

次第に気味の悪さと少しの好奇心と、両方がないまぜになった感情が芽生え始めていた。

「これ、まだ使えるのか?」

まだ、A子と恋人のような甘い時間を過ごしていた時の事だ。
ものぐさな俺は度々通信料を払い忘れて通信制限がかかってしまい、A子のWi-Fiを借りる事があった。

きっと、その時の物がまだ履歴に残っていたに違いない。



興味本位でA子のネットワークを押してみた。
するとあっさりと接続完了してしまったではないか。

驚いた事にまだA子のネットワーク回線は生きていたのだ。


まるで、この世にまだ存在を示すかのように。


ぞくっと背筋が凍るのも束の間、SMSが届いた。








「ゆるさない」





「ゆるさない。」ただ一言だけA子からのメッセージの通知がポップアップ表示されている。




首筋を冷たい手でなぞられるような感覚に怯えた俺はとにかく電源を切ろうとした。



しかし、どれだけボタンを押し続けても反応しない。


「ゆるさない」

「ゆるさない」

「ゆるさない」

「ゆるさない」

「ゆるさない」


矢継ぎ早にやって来る通知に慌ててiPhoneを床に放り投げた。

ゴン、と音を立てて転げるiPhone。






しばしの静寂が流れた。






恐る恐る画面を覗いてみる。



ひび割れた画面は暗く、静かに床に横たわるだけだ。



ほっと胸を撫でおろす。
なんだ、最初から簡単な事だ。
さっさと壊してしまえばよかったのだ。


安堵した拍子に笑いが込み上げてきた。

ひょっとすると誰かのイタズラかもしれない。
こんな子供じみた手に自分が引っかかるどころかあまつさえ大の大人が震え上がっていたなんて。


はははは、とふと天井を見上げたその瞬間だった。


バラバラにひび割れた顔のA子が視界いっぱいに覗き込んでいる事に気づいたのは。




「うわぁぁぁぁぁぁ!!」



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