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戦略と、その外にある楽しみ

2022年10月23日、昨年落第した「総合旅行業務取扱管理者試験」に再挑戦した。自己採点も済ませたところ、無事リベンジに成功したようである。

博士課程修了の成否を巡って佳境にある今(※)、あまり余裕のある勉強はできなかったが、嬉しいことに得点には余裕があった。
※ ノリでドラマチックな表現を選んでみたが、冷静に考えてみると、これは今に限った話ではなかった。

ユーキャンの自動採点サービスより

実は今回の試験、ぶっちゃけ十時間くらいしか勉強できなかったのである。この幸運な結果は、もっぱら、これから述べる「戦略」の賜物である。なお、国内旅行実務については科目免除があり、今回は受験していない。

戦略について語る前に、とりあえず、総合的な勝因(と思われるもの)について整理しておく。
①業法・約款には昨年も合格していたため、あまり不安がなかった。
②国内旅行実務の免除があったため、この分野の勉強のために時間を割く必要がなかった。私のように短時間の勉強で挑戦しようとする(無謀な)人間にとっては、科目一つ分の勉強時間の影響はかなり大きい。
③「海外旅行実務(200点満点)の合格点は120点だから、もし観光地理(40点満点)をすべて落としても、他の問題で75%(120/160)得点すれば合格できる」と考え、観光地理には一切時間を割かなかった。観光地理の勉強を始めると、ついつい楽しくなってしまって、何十時間あっても足りない。

今年の挑戦では、大原の『旅行業務取扱管理者試験標準テキスト』シリーズから、『2 旅行業法・約款』と『4 海外旅行実務』の二冊を使った。観光地理のテキストは初めから用意しなかった。また、結局問題演習をする時間がないことは目に見えていたので、問題集も用意していない。テキストは毎年新調したほうが安心だろう。実際、今年もいくつか改正点があった。

テキストのレビューも短く書いておく。大原のテキストは、基本的には講座のために書かれたものなので、記述が素直であり、勉強の仕方が定まっている者にとっては非常に扱いやすいと思う。記憶すべきポイントなどの案内が丁寧な方がよければ、ユーキャンのテキストがよいかもしれない。

私の勉強法は相変わらず単純である。今回も「読む」勉強に終始した。火曜日と金曜日にそれぞれ二時間ほど、土曜日に五時間ほど、試験当日に一時間ほど、計十時間程度は集中して取り組む時間があった。この時間で、ちょうど二周、しっかり読み込むことができた。(このほかにOAGコードなどを覚えようとした時間はあったのだけれども、結局OAGコードの問題は取り落しているので、残念ながらこれは全く無意味であった。)

今回の試験に向けて勉強の際に心掛けた基本戦略は「差分に注意すること」である。旅行業には様々なシーンがあるけれども、規則として定められている内容は、シーンを跨いで似通っていることが多い。しかし、あくまでも似通っているだけであり、国内と国外、宿泊と運送、運送機関の別などによって違いは沢山ある。これらの相互の差分に注意して読めば、試験で聞かれそうなポイントは自ずとわかってくる。一回目は全体像の理解に努めて、二回目は気付いたポイントを書き込みながら読み進めていく。テキスト内にリファレンスをつけて、頭の中にネットワークを作っておく。特に約款については、このような勉強法で十分対応可能であると確信している。

一方、旅行業法については、似通った規則を比較しながら勉強できるような性質のものではなく、一連の内容を淡々と理解して記憶するしかない。私自身も点数が伸び悩んだところである。基本的な知識の抜け漏れで点数を落とすリスクがあり、実際、かなり取りこぼしがあった。この科目で要求される知識の絶対量は必ずしも多いわけではないのだから、もう少し注意して勉強しておくべきだった。

海外旅行実務も、特に法令や手続きについては「差分に注意する」戦略が有効であり、適切に意識して勉強すればそれなりの高得点に繋がるハズである。あとは当日の集中力の問題で、運賃計算や英語問題で取りこぼさないように心がけておけば何とかなる。実際、なんとかなった。後半の観光地理(40点)とそのほかの実務知識(40点)は取れなくてもよい。前半(120点)で満点に近い点数を取ることを目標として、合格ラインのすぐ近くまで寄せておき、後半はボーナスステージと考えよう。今回は観光地理で26点も取れてしまったため、全体としては八割近い得点率になっているが、試験対策としては、万が一ここがゼロ点でも構わないように準備しておく方が効率的であると考えているし、今回の私の得点も実際にそういう具合であった。

私は海外観光地理が嫌いなわけではない。むしろ、こういう分野は面白すぎるからいけないのである。手を付けたら時間が溶けてしまうことがわかっているから、試験対策としては敢えて避けてきた、ということに過ぎない。今回の試験の観光地理では、ハンガリー料理のグヤーシュが問われる問題があった。ふと食べてみたくなり、近くにお店がないかと調べてみたら、日本国内でハンガリー料理を食べられるお店はあまり多くないそうである。そういえば先日、友人とのやりとりで、ガリシア名物のケイマーダというお酒の話題が出たことがあった。日本では経験しがたい食文化の一つであったと記憶している。食のローカリティはこのグローバリズムの時代にも確実に保たれている。もちろん食だけではない。今なお旅行が楽しまれる理由の一つはここにある。そういう固有性を孕んだものに親しみながら日々を送りたいと願う。目の前の試験を無事に終えて、戦略の外にある楽しみを享受できることを喜びたい。

ちなみに、この記事のアイキャッチ画像の料理は「グラーシュ」というらしい。ハンガリーのグヤーシュは、ドイツ語圏に伝播してグラーシュとなっているそうである。ローカルな文化も、そこに留まるばかりではなく、時には広く展開して違いを生じる。さっき、試験のための基本戦略として「差分に注意する」ということを言ってみたけれども、こういう視点が有意義に働くシーンは色々ある。そういうことを考えてみると、タイトルに書いた「戦略と、その外にある楽しみ」という二項対立はあまりきれいじゃないかもしれない。戦略を応用することで、従来の戦略のあり方を乗り越えて、外にある楽しみに辿り着く。こういう姿勢で取り組めば、一本筋の通ったきれいなナラティブをつくることができそうだ。

以下、蛇足。改めて落ち着いて勉強してみると、旅行業務取扱管理者の試験範囲には、自分で法令・通達などを整理しておいたほうがよい分野というのが散見される。特に、検疫関連の分野ではそのような傾向が強い。そもそも市販教材の記述には総じて法学的観点が欠けている。旅行業法は民法に対する特別法なのだから、何がどう特別なのか、ということを意識して勉強できると面白いのだろうと思うのだが。また、政策的背景の記述も欲しい。そういえば、ファイナンシャルプランナーの勉強の際にも同じようなことを感じた覚えがある。いずれも国家試験とはいえ、もっぱら実務者のためのものであり、民間委託によって実施されている。そのような背景を思えば、こういった法的整理や政策的背景が試験の問いに反映されず、したがって教材にも現れてこない、というのは仕方のないことなのかもしれない。観光学部などでは、こういう視点をもって学びを深める機会があったりするのだろうか?

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