医学生コミュニティにおける「創造的勉強会」の趨勢に関する所感

先程、久々にTEAM関西の勉強会にお邪魔した。2022年度幹部にバトンを渡してから初めての参加である。「問うチカラ」というテーマで、内容はもとより、皆さんの創造的な勉強会づくりに改めて感心させられた。会の内容については公式の報告投稿を待つことにして、ここでは「創造的勉強会」ということについて少し考えてみたい。もちろん、創造性のある会を実現するためには、それをリードできる人材が必要である。それゆえに「このような会を運営できるのは誰々の企画力、構想力の賜物である」などの言説が生じる。これは一面において疑いようのない真実であり、会を運営されている皆さんへの賛辞は惜しまない。同時に、ひとつの大局観として、「創造的勉強会」の企画実現を容易にしている(そしてそれを志向させている)必然的事情があることを指摘しておきたいと思う。

一年前、「医学生にとっての課外勉強会」というタイトルで所感を書きまとめたことがある。このときの私は、TEAM関西について以下のように書いている。

私は、2020年の秋頃からTEAM関西の副代表を務めている。まさにオンライン勉強会全盛の時代。症候学や診断学に関する勉強会は十分たくさん開催されている。地方の壁を越えて先鋭化したコンテンツを提供するところがある一方で、いささか食傷傾向を訴える人も見かけるようになった。我々には、地方団体としての「顔の見える関係性」を意識しつつも、何らかの独自性を持った勉強会を企画することが求められていた。

くらむぼん「医学生にとっての課外勉強会」(2021/2/20)
https://note.com/kuramubon/n/ne8543d6c8ecc

この時点で既に、TEAM関西において「創造的勉強会」を志向していること、その背景としてオンライン勉強会が盛んに行われていること、などを指摘している。実はこの時期、まさにオンライン環境を生かして、医学そのものを学ぶことに焦点を絞らない医学生の集まりがいくつか現れていた。私自身が運営に携わっていた「いがくせいの森」は勿論であるが、より幅広いコンテンツを提供することを意識した「楽し樹」なども知られていた。これは神戸大学六年生(2020年度当時)の山地翔太さんという方が運営されていたものであり、彼が卒業されてしばらく経ってから解散することになったのだけれども、当該コミュニティのつながりをひとつの起点として、現在「ちいここ」という地域医療サークルが活動している。いずれも、いわば「創造的勉強会」を繰り返し実施している。その創造性が高まるにつれて、「医学/医学以外」のような従来的区別は次第に意味をなさなくなりつつある。

そもそも、オンラインによる集まりは勉強会の内容そのものに大きな影響を与えている。たとえば、複数団体による「共催企画」の実施が非常に容易になった。個人レベルでも同様の現象がある。「楽し樹」では、医学生に留まらない多様な分野の参加者を募ってお互いに幅広い話題を提供することで、常に独自の内容を展開していた。異なる二つのものを掛け合わせることは、イノベーションのための最もシンプルなアプローチである。この点に関してはこれ以上は詳述しないが、他にも様々なことが思い当たるだろう。

また、これらのオンラインの集まりは、オンサイトの集まりに比べて、一つひとつの機会のために要する運営・参加のコストが低い。ここでいうコストには、実費だけではなく、心理的・時間的・体力的側面を含む。会を運営する側の人々にとってローコストでチャレンジできる環境が望ましいことは自明である。参加者にとってもコストの問題は重要である。ハイコストな集まりには相応の希望水準があり、その会に参加することによってどのような学びが得られるか、予測を立てる。このような参加者に対して、運営側としては、スタンダードなレクチャー形式、あるいは症候学・診断学の症例検討会などをベースに置くことで、「少なくともこれくらいの学びは得られそうである」という水準を提示しつつ、枝葉の工夫と発展によって差別化を図ることが期待される。他方、ローコストな集まりでは、希望水準自体が必ずしも高くない。したがって、どのような会であっても参加しやすい状況が生まれる。

要約する。オンラインによる勉強会が受け入れられるとともに、従来にない内容・形式を持った「創造的勉強会」が増加しているが、これは必然的傾向であり、おそらく今後もこの趨勢は続くだろう。なぜなら、勉強会の選択肢が増えるなかで個別の勉強会には独自の内容を提供することが期待されているとともに、従来にない画期的企画を実現しやすい状況、さらにはそのような企画であっても参加者を得やすい状況が生まれているからである。

ところで、ここに述べた一連の事柄は、極めて限られた人々のあいだで生じている動向に過ぎない。一年前の「医学生にとっての課外勉強会」でも示唆している通り、私が各種の勉強会に期待することの根本は、様々なレベルにおいて満遍なく機会を提供するという社会的機能である。これは単なる私見であって、人によっては全然違うことを考えているかもしれない。少なくとも、現在運営に関わっておられる皆さんには、私の個人的見解は無視していただいた方が良い。個別の勉強会においては「運営する人間が楽しむ」ことが大切であり、そうでなければ続かない。その上で、敢えて提案することがあるとすれば、現在運営している勉強会のビジョンはどこにあるのか、社会的機能はどのようなものであるか、ということについても考えてみると面白いかもしれない。この種の思索は、ますます創造的な勉強会につながるかもしれないし、あるいはオーソドックスな勉強会への回帰を導くことになるかもしれない。しかし、いずれにせよ、皆さんが(単に忙殺されるだけではなく)然るべき形で活動を楽しむための助けになる程度のことは期待してよいだろう。いささかハイコストな営みになるかもしれないので、一応、期待される成果の水準を提示しておいた。以上。

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