昏解

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昏解

🪼/読書記録/うなぞこ絨毯店/画像素材Pixabay https://sizu.me/kurakurage

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【読んだ】やや黄色い熱をおびた旅人/原田宗典

この本を読み終えた深夜一時、私の住んでいる住宅街はいつものように静まり返っていた。時々車の走る音や犬の鳴き声がする以外は、何も聴こえなかった。空調の効いた部屋と触り心地のいい寝具、夜の静寂は、平和そのものだった。 『やや黄色い熱をおびた旅人』は、エリトリア、ユーゴスラビア、カンボジアなどの紛争地域を訪れ、実際に戦闘が行われた場所や難民キャンプ、そしてそこで暮らす人々、支援活動を行う日本人などを取材する旅行記である。著者はテレビの戦争特集のレポーターとしてこれらの地を訪問する

    • 【借りた】愛じゃないならこれは何/斜線堂有紀

      ଳ 友人との読書交換の記録です ଳ 友人から届いたこの本を、私は本棚の上にだいぶ放置していた。いや、放置という言い方はちょっと違うかもしれない。遠くに置いて眺めていた、というか、様子を窺っていた、というか、そんな感じである。なぜかといえば、帯文の恐ろしさにある。 そもそも恋愛小説にあまり耐性がなく、それでもってものすごくグロテスクな人間関係が待っていそうな「地獄」という単語に恐れ戦いていたのだ。しかしそろそろ読んで返さないと、と思って意を決して本を開いた。 読んでみると

      • 【読んだ】解答者は走ってください/佐佐木陸

        人生は選択の連続だとよく言うが、選択権を他人に委ねてしまうことがままある。今日の夕飯、旅行の目的地、将来の行く末。「最終的な決断は自分がしているのだから他人に文句は言えない」ということを受け入れられたのは、だいぶ最近になってからだと思う。そうしなければ、この世の不条理に精神が耐え切れなかったのだろう。 『解答者は走ってください』は、そんな人生の選択の話である。主人公である怜王鳴門は物語序盤ではほとんど過去の記憶を持っていないが、ある日記憶にない父親の手記から自身の、かなり波

        • 【読んだ】ムーン・パレス/ポール・オースター

          インターネットにおける偶然、というものが少しずつ減っているように感じる。パーソナライズという言葉が当たり前になって、それは不快な情報との遭遇を回避したり、無駄な調べ物の時間を減らしたり、メリットが多くてもうなかった頃には戻れないのだろうけど、偶然流れてきた情報との交錯が始まりになった時のことは、運命を感じずにはいられなくて忘れがたい。 『ムーン・パレス』との出会いの始まりは、『ファミレスを享受せよ』というフリーゲームからである。どちらかというと雑多にゲーム情報を流しているア

        【読んだ】やや黄色い熱をおびた旅人/原田宗典

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          【読んだ】ここはすべての夜明けまえ/間宮改衣

          昔から、親や連れに「話が長い」と言われる。今日あった出来事とかおもしろかった本とかについて話すとき、つい網羅的になってしまうというか、自分では簡潔に話そうと努めてはいるのだけど、長々となってしまう。話している途中で「話長いなって思ってるな」という雰囲気を感じ取ってはいるのだが、なかなか成長しない。 だから、『ここはすべての夜明けまえ』の語り口は自分みたいだなとまず感じた。肉体を機械化する手術を受け、食事や睡眠を必要とせず老化しない身体を持った主人公のわたしが、約百年の間に関

          【読んだ】ここはすべての夜明けまえ/間宮改衣

          【読んだ】聖乳歯の迷宮/本岡類

          信仰って何だろう。神や仏の存在を信じたことはないけど、お盆になれば墓参りにも行くし、正月になれば初詣にも行く。意味も理解しないまま祖父母の葬式でお経を読んだり、かと思えばクリスマスケーキにはしゃいだりする。 そんなふうに薄まった信仰の中で生きている世界に、突然「神の存在証明」が投げ込まれたらどうだろう。『聖乳歯の迷宮』はそんなところからお話が始まる。かつてイエス・キリストが住んでいたという遺跡から、箱に入った乳歯が発掘される。科学的な検証の結果、その乳歯はキリストの生きてい

          【読んだ】聖乳歯の迷宮/本岡類

          【借りた】ぼくの死体をよろしくたのむ/川上弘美

          ଳ 友人との読書交換の記録です ଳ 今月、私用で初めて福岡に行ってきた。私の住んでいる場所から福岡へ行くには電車と飛行機を乗り継がなければならず、仕事の関係もあってなかなかの弾丸スケジュールだった。行ってしまえば楽しい旅行だったのだけど、行く前は準備やらなんやらでまったく気が休まらず、そういった時は決まって読書からできなくなる。だから、先月末には友人から届いていたこの本は、ほぼ一ヶ月くらい我が家にいたらしかった。 荷解きも終わり、先週末にはようやく落ち着いたのでそろそろ読

          【借りた】ぼくの死体をよろしくたのむ/川上弘美

          【読んだ】水歌通信/くどうれいん・東直子

          少し前くらいから、iPhoneの天気予報に「あと何分雨が降ります」みたいな表示が出るようになった。通勤や体調の面で天気予報は必要だからホーム画面に表示させているが、最初にその文字列を見た時は正直怖かった。雨という自然現象だと思っていたことが、そんなに正確に予報されると、令和ちゃん的存在が人工的に操作してるんじゃないかと思えてくる。 『水歌通信』はくどうれいんと東直子が、短歌とそれに付随する短い文章を交互にやりとりする形式で進む作品である。やりとりが進むにつれ、お互いの作る物

          【読んだ】水歌通信/くどうれいん・東直子

          【読んだ】花に埋もれる/彩瀬まる

          好きな花は何ですか、と訊かれたことはないが、もし誰かが訊いてくれたら、ツツジです、と答えると思う。何の変哲もない植え込みが春になると鮮やかなピンクや白の花をつけ、短い間にぼたぼたと落ちていく。落ちた花が溜まりを作っている姿は、暖かな陽気であるほど残酷で、他人には言いにくいけれどそれが好きだ。 彩瀬まるの本は友人に借りた『森があふれる』が初めて読んだ作品だったのだが、それ以前から本棚の積読にこの本はあったらしく、最近蔵書管理アプリに一気に積読を登録した際に発掘されたのが本作で

          【読んだ】花に埋もれる/彩瀬まる

          【読んだ】方形の円/ギョルゲ・ササルマン

          散歩動画を観るのにハマっている。食べ歩きとか観光地巡りとかではなくて、どこかの街の普通の住宅街とか、ありきたりな遊歩道とか、そういう場所をただただ歩いている動画である。こうやって物を書く時やぼうっとしたい時に、街の程よい喧騒と撮影者の単調な足音がちょうどいい。どんなに魅力的でも、どんなに住みにくそうでも、なんとも思わずに眺めていられるのは、そこが自分の住む街ではないという無責任さがあるからだろう。 そんな無責任な好奇心を読書で体験できるのが本作ではないだろうか。本作には建築

          【読んだ】方形の円/ギョルゲ・ササルマン

          【読んだ】冬の植物観察日記/鈴木純

          ベランダにトチの木が植わったプランターがある。連れの育てているもので、小さいながらも夏になると葉をつけ、そよそよと風に揺れている。窓辺で読書しながら目が疲れてくると、そのトチの木の葉をぼんやりと眺めたりするのが結構好きだ。しかし、秋が過ぎて冬に落葉すると、小学生が遊ぶのにちょうどよさそうな棒が土に刺さっているようにしか見えなくなる。 そんな時期の植物たちについての著者の観察記録を日記形式でまとめたものが本作である。10月から翌年の3月までの期間、著者の周辺の植物たちがどうや

          【読んだ】冬の植物観察日記/鈴木純

          【借りた】君が手にするはずだった黄金について/小川哲

          ଳ 友人との読書交換の記録です ଳ 仕事から疲れて帰ると、二日に一回くらいは縦半分に丸められたチラシがポストから突き出している。寿司の出前、分譲マンションから溢れる光、ポスティングは良い運動になるらしいということ。乱雑に引き抜いてよく見もしないままゴミ袋に突っ込む。どうしてインターネットが発達してもこういうものはなくならないのだろう。それなりに効果のある宣伝方法なのだろうか。そうやってポストを覗き込んで、久しぶりに友人からの交換便が届いている。 開封してみてびっくり、私の

          【借りた】君が手にするはずだった黄金について/小川哲

          【読んだ】標準時/佐クマサトシ

          趣味で短歌を作ったりしている。ここに載せている文章と同じで、そんなに大層なものは作れないのだけど、その時見たものや感じたことを三十一音に残すのは蓄積しやすいし思い出しやすくもある。個人でやるぶんにはそれでいいのだろうが、他人に伝わるような短歌を、と思うと途端に難しい。状況説明に終始してしまったり、逆に抽象的になりすぎてわかりにくくなったり。すとんと落ちるための穴は思ったより狭い。 だからこの歌集を読んだ時は「こんなことしてもいいんだな」と思ったのだ。短歌の前半と後半でばっつ

          【読んだ】標準時/佐クマサトシ

          【行った】東京書店巡り2024冬

          1月6日(土) 三連休初日、昼頃にゆっくり起き出して東京へ向かう。夕暮れの空にビルがにょきにょき生えてくると東京に来たのだなと実感する。アトラクションみたいだねと連れが言う。 ホテルで小休憩を挟んでから夜の新宿へ。煌びやかなラッピングトラックが何台も通り過ぎる街が日常の人々が存在するのが不思議な感じだ。細い道を行ったり来たりして念願の紀伊國屋書店新宿本店へ。 一階から八階から全部本だ。こんなに嬉しいことはない。普段あまり足を踏み入れないジャンルもくまなく散策する。最上階か

          【行った】東京書店巡り2024冬

          【読んだ】われら/エヴゲーニイ・ザミャーチン

          なぜ「属性」は人々に安心を与えるのだろう。もちろん属性による分類が有用で必要な時は多い。しかし、それが社会的有用性の範囲を超えて、ひとりの人間のすべてに置き換わってしまうことや、ひとつの属性に対して過剰に擁護または排除しようとすることは、長い長い歴史の中で変わらずに続いているように思える。 本作の舞台は〈単一国〉という地球全体を征服したとされる国家である。国民たちは衣食住から一日のスケジュールまでを国家に厳密に管理されており、規則から逸脱した人間は直ちに排除されていく。主人

          【読んだ】われら/エヴゲーニイ・ザミャーチン

          【借りた】太陽・惑星/上田岳弘

          ଳ 友人との読書交換の記録です ଳ 友人とこの交換便を始めて半年ほど経った。大体月に一往復くらいのやりとりは早すぎず遅すぎず、膨大な書籍の海から自分では掬い上げられないような本に出会える体験はとても楽しい。今回の本と一緒に同封されていたクリスマスカードには、「来年もよろしく」との文字があり、思わず顔が綻んでしまった。 そんな、多分今年最後の友人からの本は、わりと破茶滅茶なサイエンス純文学だった。「錬金」と「不老不死」という究極目標を目指した人類の結末までを描いた『太陽』と

          【借りた】太陽・惑星/上田岳弘