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「ありのままキリギリス」

最近、最近、自由気ままに暮らしているキリギリスと、
毎日真面目に働いているアリ達が同じ街に住んでいました。

アリは、平日は毎日8時間の労働を行う週休2日制。
とは言え、残業も決して少なくないグレー寄りのホワイト企業。

キリギリスは、実家で日がな自分の大好きな音楽活動に没頭しており、時折ライブに出ています。音楽だけで食べていけてませんが、仕事に関してはプライドがあり、報酬が高くても仕事を断ることもあります。

夏のある時期、アリ達はいつにも増して忙しそうでした。繁忙期です。
その様子を見たキリギリスは無理に働かなくても良いのではないかと疑問を呈しますが、

「冬に向けて準備をしているんだよ。今少し頑張ると冬が楽になる。」

と答えました。どうも「少し」には見えませんでしたが。キリギリスは相変わらず夏もマイペースに楽曲作りに励んでいます。普段より頑張り過ぎることも無いし、怠けすぎることも無い。無理をしない日々を過ごしました。

冬になり、キリギリスの生活は少し苦しくなってきました。音楽の仕事が減り、どうも調子が悪いです。ただ、それでも自分の主義に反する音楽だけは演奏しませんでした。

とは言え、生活が苦しいのは確かなので、アリ達に助けを求めました。
優しいアリ達はキリギリスの助けに快く応じました。

「君達はいつも優しいね。どうしてこんなに良くしてくれるんだい?」
「君がありのままの自分を大切にしているからさ。音楽に関しては確かに融通が利かない部分はあるけれど、こうして僕らに頭を下げたり、感謝したり出来る素晴らしい心の持ち主だと知っている。」

数年後、キリギリスはついにメジャーデビューを果たし、収入が大幅に増加しました。初の単独ライブではVIP席に今までお世話になったアリ達を招待しました。アリ達も自分達の会社の改革を少しづつ進め、昔よりずっとホワイトな企業になりました。

昔より、アリとキリギリスが一緒に遊ぶ機会も随分増えました。考え方も方法も違いますが、彼らは同じ方向に進み、今日も共に歩んでいきます。

END

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