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「ブラック茶釜」

最近、最近、とある寺の和尚さんは茶釜に化けることが得意な狸と出会いました。その能力を見込んで和尚さんは狸を雇い、茶釜として働いてもらうことにしました。

ただ、その仕事はとても過酷でした。寺にはひっきりなしに人が訪れ、
その度にお茶を淹れるので茶釜の狸はフル稼働です。

とうとう耐え切れなくなった狸は辞めたいと和尚さんに相談しましたが、

「その程度で音を上げるようでは他所ではやっていけない。」

とつれないものでした。休憩もまともに取れず、ついには尻尾の生えた状態の茶釜という、中途半端な変身状態で倒れてしまいました。

「仕方が無い、新しい茶釜の費用に充てるか。」

和尚さんは珍しい茶釜として、狸をリサイクルショップに売り飛ばしてしまいました。買い取った店主は、そのデザインを気に入り店頭の目立つところに茶釜を飾りました。

その後、充分な休息が取れた狸はようやく変身を解くことが出来たので、
店主にお礼を言いました。何かお礼をしたいと申し出るので店主は、

「じゃあ、客寄せとして何か芸をやってもらえないだろうか。」

狸は大喜びで、茶釜に変身しながら芸を披露しました。
狸のおかげで店は大変繁盛しました。
夕方に店主は店じまいをするから休むように言うと、

「え?まだ夕方なのにもう閉めるのですか?」

とその仕事の短さに狸は大変驚き、その驚きぶりに店主も大変驚きました。
前職の業務の過酷さが浮き彫りとなり、狸は世の中の広さを知りました。
比較するものが無いとその大変さには中々気づけないものです。

ホワイトな勤め先に就くことが出来た狸は店主といつまでも仲良く暮らしました。時折、和尚さんが訪れるとまだ少しビクッとしますが。

END

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