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「禁止郎」

最近、最近、山奥でポツンと佇む一軒家にとある少年とその母親が住んでいました。少年は赤い腹かけの服装を気に入っていつも同じ格好をしていました。しかし、近隣の学校は指定の制服以外は禁止の為、学校には制服で通いました。

家の手伝いで薪を割ることが良くありましたが、大きな斧を少年が持つことは危ないとされ、自治体から親が同席している時以外は、斧の使用を禁じられました。

少年は山の動物達とも良く遊びます。熊と相撲を取っていましたが、町に降りた熊が人を襲う事例が起こってしまい、少年は熊に近づくことを禁止されました。

ある日、山奥の取材で少年の家が取り上げられ、少年の年齢に見合わない力強さが注目され、格闘技団体の目に留まりスカウトされました。

少年は乗り気ではありませんでしたが、母親に金銭的な援助が出来ると知り、誘いを受けることにしました。

ただ、引っ越し先の街中での生活は山奥とは異なり、色々なことが制限されました。食事もトレーニングメニューも細かく管理され、少年はその窮屈さに疲弊してしまい、山奥に居た頃のような強さは失われていきました。

デビュー戦では負けてしまい、以後特に目立った成績は残せず、少年は山に帰ることになりました。

山奥に戻った少年は、今でも外部から制限や禁止を受けることはありましたが、街中に居た頃よりは伸び伸び暮らせるようになりました。

彼の才能を埋もれさせてしまった格闘技団体は後悔し、以降は選手ファーストな方針に切り替え、カウンセリングも強化することになりました。

少年はやがて大人になり、親になり、気づきました。母親が自分の選択を全て尊重して、何も禁止してこなかったことに。元少年は改めて感謝しました。

END

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