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日々是くらげ64日目「高野秀行『謎の独立国家ソマリランド』を読み終えて驚きの連続だったという話」

「来年はいろんな本を読みたい」と昨年の日記に書いていたが、新年も10日になってようやく一冊読み終わった。

今回読んだのは高野秀行「謎の独立国家ソマリランド」だ。年末にすしざんまいの社長がソマリアの海賊を壊滅させたという話が出てきたが、この本の著者である高野秀行氏がその話を否定しているのを目にして、そういえば高野氏はソマリランドの本を書いていたなとググったら、ちょうどKindleで半額だったので衝動買いしてしまった。(メモによると12月28日に読み始めたので約2週間かかった)

ソマリランドはソマリアの北部にある独立国家だが、国際社会から承認を受けてない「自称」国家である。私も10年くらい前に「ソマリランドでは全員が協力して武器を捨てて平和を保っているらしい」という話を聞いていて、そんなすごいところがあるんだと驚いたのは覚えているが実態についてはほとんど知らなかった。

この著者はふとしたことからソマリランドの存在を知ったが、「資料を読んでもなぜ平和なのかよく分からない」と体当たりでソマリランドに向かってしまう。最初はソマリ人のあまりの忙しなさに驚く著者だが、カート(覚醒作用のある植物)をヤギのように食べながら地元の人に色々話を聞きつつソマリランドの謎を解き明かしていく。

また、なぜソマリアがそこまで混迷しているのかを日本の歴史に照らし合わせてとても分かりやすく解説している。その解説の手段が見事なので、ソマリアの混乱を遠いアフリカのことというよりも「人間のやることは変わらないな」という視点でむしろ親近感を持って読むことができた。奥州藤原家や平氏・源氏、南部家や里見家という言葉を特に説明なしに読むことができる人ならかなりすらすら頭に入ってくると思う。

しかしこの本の本番は、ソマリランドから一度日本に帰国するものも「そもそもソマリランドの前にソマリアを理解していない」と今度はソマリアに体当たり取材に行ってしまうところからだ。よりによってブラックホークダウンでも有名なソマリアの首都モガディシュにも政府軍とイスラム過激派の戦闘が激化してるときに向かったり、スクープ動画を手に入れようとして自分で海賊をチャーターして船を襲わせる場合の見積もりを計算するなど、本当に洒落にならない話が次から次へとか出てくる。ルポタージュというよりもはやスパイ小説や冒険活劇である。

後半では著者の徹底した体当たり取材によってソマリランドやソマリアの本当の姿が徐々に明らかになってゆく。その過程で見えてきたソマリランドの政治体制は驚いたことにとても建設的な民主主義的で、日本の政治体制より洗練されているように感じるところもあった。アフリカの部族社会だから政治的に劣っているだろうという無意識の見下したイメージが一気に覆されて本当に驚いてしまった。

単行本で520ページにわたる大長編であるが、次から次へと事件が巻き起こるし、小難しいところは著者の絶妙な解説力でとても読みやすくなっているので、読むのに時間はかかるが一度ハマってしまったら最後まで読みとおしてしまう魔力がある。是非皆様もうっかり手にしてその魔力にはまってほしい。

というところで今日はこれまで。では。

妻のあおががてんかん再発とか体調の悪化とかで仕事をやめることになりました。障害者の自分で妻一人養うことはかなり厳しいのでコンテンツがオモシロかったらサポートしていただけると全裸で土下座マシンになります。