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猿原真一について本気出して考えてみた

猿原真一のこと本編からずっと考えてきたけど、実際よくわからないキャラではあります。だってなんも教えてくれないもん。どでけぇ家に住んで俳句を嗜むお金が触れない中卒の21歳の風流人という謎の情報しかない。ほんっとに猿原真一の事を考える度に中の方ほんとうにすげぇなって思います。何にもないんだからキャラ解釈のしようがないもん。

彼の過去を構成する具体的なエピソードは一切ないんだけど、そう言ってても話が進まないので、彼の色んな要素から猿原真一を切り崩して行こうと思います。

えー、まずは格好から。のっぽさん帽子、足袋シューズ、作務衣、ねじねじ。彼は大体これですね。
のっぽさん帽子は探偵要素としての金田一の残滓でしょうね。で、他のアイテムってなんとなく日本を感じさせるような気がしませんか?ねじねじは……まぁ一旦置いといて。そんで格好以外にもなんとなく猿原さんを構成する要素って日本感があるんですよね。

亀田に言われた案山子、事あるごとに口にしている侘び寂び、OPの時に背景にしているにも関わらず本編で一切猿原さんに関わる要素として出てこなかった謎の鳥居。それから俳句もですね。あとは飲み物もそう。日本酒とほうじ茶ね。最初普通にコーヒー飲んでたけど、いつの間にかほうじ茶にシフトしてたね。

さて、これらの日本っぽい要素ですが、突き詰めていくと日本の神様に関係するキーワードやアイテムが多いんですよね。

■案山子
公式ブログでも言われてたけど、神の依代。田の神、農業の神、土地の神なんだって。あと、かかしは田の中に立って一日中世の中を見ていることから、天下のことは何でも知っているとされるようになったらしいです。

■作務衣・侘び寂び
作務衣は禅宗の僧侶が作業をするときの作業着ですね。で、禅と言えば侘び寂び。侘び寂びの生まれは中国の道教かららしいんですが、日本独自のわびさびを確立し禅仏教に取り込まれたようです。侘び寂びってのは「不完全さ」と言われていて、不完全なものこそが想像力を掻き立てるってことみたい。月も満月では無く、少し欠けた十三夜月のが侘び寂びなんだって。
ちなみにおでんの時によく出てた「まる、さんかく、しかく」の言葉も禅とちょっと関わりがあって。○△□だけ描かれた禅画があるんですね。これ調べたときすげぇ好きだなって思って今待ち受けにしてます。

■鳥居・ねじねじ
鳥居は神聖な場所(神域)と人々が暮らす外側の場所(俗世間)の境界や結界を示すもの。ドン家や脳人など、人ならざるものを常に警戒してる猿原さんだから、ちょっとそれっぽいなって。で、ねじねじに関してはほぼこじつけですが、しめ縄っぽいなって。しめ縄も鳥居同様、神域と現世を隔てる結界の役割を持つらしいです。

■俳句
「禅と日本文化」っていう本に禅と俳句って項目があったから、俳句も禅なんだなって。この本を私はドンブラザーズを観る前に読んだんですが、これ読んで「俳句ってこんなにかっけぇんだ!?」って思ったんですよね。これまでおじいちゃんの趣味としか思ってなかったけど、もっとこう、本質を一太刀で斬り込むようなかっけぇ文化としてあったんだなって。だからその後に猿原真一見た時びっくりしました。俳句詠んでる!?って。

■日本酒
日本酒は清酒の一種で、清酒を造ること自体が昔の日本では神事として行われていたみたいです。神様へのお供えも大体が日本酒ですしね。これなんでかちょっと調べたんですけど「水、塩、お米」などの人間にとって必要不可欠なものを神様にも召し上がって頂くことで、神様への感謝を表しているんだそうです。日本酒は水とお米から出来ているので、神様との繋がりが強いってことみたい。
あとは飲酒の起源が「祭り」にあるらしくて、日本酒を神様にお供えして、そのお下がりを人間が飲む。みたいな意味合いで、正月やら成人式やらに日本酒を飲んだりするんだって。初めて知った。


えー、なんでこんなこと調べ始めたかというと、ドン家について考えているときに「猿原さんってちょっと日本の神様っぽいな」って思ったからです。お金に触れないって設定も過去がないことも、後付けでぎりドン家設定を生やすことができそうだなって思って。

日本って無宗教と言われてはいますが、神道ってのが当然のように浸透しているんですよね。教えとかは特になくて普段意識せずに、自然にやってることです。神社行ったりとか、でかい岩とか大木に神性を感じたりとか、道ばたのお地蔵さんにお供えしたりとか。なんかそういう感じの民間信仰みたいな。
で、神道っていつから生まれたのか正確にはわからないらしいんですよね。この間読んだ本にそんな風に書いてあった。すごい頑張って神道ルーツを探ってた本だったけど、結局わからんみたいな感じで。

猿原さんもそれっぽいなって。生みの親も過去もどう育ってきたのかもわからないけど、なんか当たり前のように信じられるものとしてそこにいる感じが。

神道って民間信仰なので、神様主体ではなくて常に民衆の味方なんですよね。猿原さんもさ、常に人間の味方だからさ。つか人間に対しては本当に怒らない人というか。ドン家と脳人には怒るけど。あ、ににんばおりの時に東さんにはちょっと怒ってたか。でもあれは俳句を貶されてたからなぁ。しかも怒りの矛先はジロウくんだったし。超八つ当たりで。

……神道で考えると、ドン・キラー・キラーもちょっと繋がってくるかな。ボタンがあった寺崎さんとこが仏教で、禅が中国から伝わったものだとするとそこで繋がりが出来るから。ボタン押したのもジロウくんだし。まぁでもあれは本当に井上先生の美学な気がするからなんとも……。神様を殺す概念と、神様を殺す概念を殺そうとする八百万の神の概念。

って感じで色々考えてたんだけど、ただ神道ってドンの存在がいないんだよね。いないというか、ドンだらけというか。八百万の神様だから。米一粒にも七人のドンがいる。岩も巨木もお地蔵様もあるいはドンだDON!神道には教祖や創始者もいないから、象徴となるドンらしいドンってのがいないんですよね。

だからこう……あくまでも猿原さんは神様に近い人間って感じ。日本酒も空想の酒だったからね。

えー、はい。ここまでくだくだ語りましたが「そんなんこじつけじゃね?」って言われればそれまでなんですよね。何もかもがはっきりと言い表せないのが猿原真一という男。句集の発売おめでとうございます!


なので、ここからはちょっと概念から離れて事実を詰めていこうと思います。どでけぇ家に住んで俳句を嗜むお金が触れない中卒の21歳の風流人、という事実をね。

重い設定をつけようと思えばつけ放題ではあるよね。本格的な妄想になっちゃうけど。一個確実なのは、両親について一切本人が言及していないってことですね。はるかちゃんもそうだけど。ただはるかちゃんに関しては、小さい頃にご両親が亡くなっておばさんに引き取られている可能性がなくもないなって。知らないから語れないっていう。でも猿原さんに関しては、なんとなくだけど、知っているけど話したくないの方にいる気がして。

ドンブラザーズ以外での生活ぶりから、なんか、あんまり大切な人を作らないようにしてる感じがちょっとあってさ。ラーメン屋さんや白井さんとの関わり方を見てると、慕われてはいるんだよね。慕われてはいるんだけど、あんまり受け取ってはいない感じがして。空想のラーメンだから。気持ちは受け取ってるけど、実際には食べてないから、生きるエネルギーとしては変換されてないような感じがあるんですよね。

お散歩しては子ども達を助けてはいるけど、でも子ども達の輪の中にいるって描写もなかったし。相談者の人たちとお外でにこやかに談笑している描写もない。すげぇありそうなのに、ないんですよね。相談されたり、困っていたら助けるというスタンスでしか人と関わってないなって。

これなんなんだろうなって思ったんだけど、雲を理想として雲のように流れて消えるのを望むのって、つまりはこの世に未練がない状態。浮世におさらばとか運命を受け入れているって言葉もそうだけど、言い換えると「いつ死んでも構わないと思っている人」なんですよね。

この世に未練を残したくないから、人とあんま関わらないようにしてるんかなって。

そういうとすげぇ寂しい生き方だけど、でもわからなくもなくて。例えば亡くした家族がすげぇ大事だったとすれば、もう二度と失う気持ちを味わいたくないから大切な人を作らないようにしようって思うのも理解できるから。

あと考えられるのは、自分と同じような人間がいないって孤独かなぁ。中卒で年上相手に相談のって教授って呼ばれるぐらいには、頭がひとつふたつ飛び抜けてたってことでしょ。多分教授としてはそういうものだって受け入れてたんだとは思うけど、ただ浮世には彼を引き留めるようなものが見つからなかったから、雲のようにいつ消えてしまっても構わないって思っていたわけで。

そんな猿原さんに初めてできた未練が、タロウとはるかちゃんなんじゃないかなって。だって彼の軸ってこの二人だもの。はるかちゃんは本編で大切にしてるのがわかるけど、タロウも多分そう。ただタロウに関してはすごい、なんか、複雑な感情が色々と混じってそうで。

猿原さんは雲にはなれないけど、タロウは雲なんですよね。タロウは本来求めていた理想の姿で、でもその雲の孤独も関わっていく内に知ってしまって、死んだとわかったときにあれだけ取り乱して。だからなんか……見えざる熱量は一番すげぇんじゃないかなって。

……これは私が勝手に思ってるだけなので全然信じてくれなくていいんですけど、井上先生、猿原真一のこと相当好きなんだと思う。好きというか、特別枠というか。描き方が一人だけおかしいもん。他のキャラにもすげぇ愛情注いでると思うんだけど、猿原さんには魂込めてる感じする。戦隊という枠組みじゃなくて、人生という枠組みで猿原真一を描いてる感じがして。

まじで見たことの無い手口なんですよね。ひとつの物語、ひとりのキャラクターとしての向き合い方ではない気がする。だから猿原真一を追うのすげぇ好きなんですよね。猿原真一という生き方と、演者さんの熱量と、井上先生の価値観が同時多発的に味わえるから。一人で色んな味がするのに、コミカルまでこなせるパーフェクト仕様だから参ったよ。早くはるかちゃんと一緒にインチキ霊能力者のいる村に行ってくれ。


これでキンドンできびだんごとほうじ茶出されなかったら、私は全力でむせび泣くよ。一年後、映画館で。大の大人が、みっともなく。

頼むから私を社会的に殺さないでくれよな、キンドンさん!!