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消えた1万円を探せ!

最近、レジでの現金過不足がやけに多い。新店の準備や新入社員の教育、本部会議のための資料作成などでてんてこ舞いの中、誰かの嫌がらせかと思うくらい発生頻度が高い。

もらった金額の打ち間違えやお釣りの渡し間違えによって生じるレジ上のあるべき残高との差異。当社の場合、過不足が発生すれば、報告書を2週間以内に上司に提出しなければならないのだが、どの会計でどう間違えたのかを調査する時間は、意外とバカにならない。

もちろん、販売に際して1円たりとも間違いがあってはならないのは当然だし、金銭管理を軽んじてはならないのは十分承知している。が、このくそ忙しい時にこういった後始末的な仕事が増えるのはつらいわけだ。

「1万円足りないんです。」

そんな中かかってきた、空気の読めない一本の電話。

「あり得ない、数え直せ。」

通常のレジ取引で1万円の不足がでることはまずない。当たり前の話だが、1万円をお釣りで返すことはないからだ。さらに1万円札は小銭ケースの下に収納することになっており、意図的に取り出さない限り、何かの拍子に手に取ることもない。

「絶対にあり得ない、とにかく数え直せ。」

店長を落ち着かせたかったのか、はたまた自分自身にそう言い聞かせたかったのか、できるだけ平静を装いながら、現場へ駆けつけるべく車へ乗り込んだ。

店舗へ着くと、防犯カメラのモニターを食い入るように見つめる店長とレジ付近に這いつくばっている2名のパート従業員。

「どうだ?」

「数え間違いはありません、何度も確認しました。今、どこかに落ちてないかもう一度探してるところです。」

「返品や掛け売りは?」

「1件もありません。ちなみに両替もしてませんし、クレジット販売も異常なしです。」

「そうか・・・。」

「ただ、一つ気になることが・・・。」

そう言って店長が見せたのは、防犯カメラのモニターに映し出された録画映像。不足が分かった昼過ぎからさかのぼり、レジ作業を一つずつ確認したところ、ある会計でおかしな動作が映っているというのだ。

商品をスキャンしお買い上げ金額を告げる従業員。それを受け、1万円札をトレーに置くお客。レジにお預かり金額を打ち込み、お釣りを返す従業員。商品を手に帰っていくお客。小銭ケースを持ち上げ、トレーに乗った1万円札をしまう従業員・・・ん?

もう一度巻き戻す。お釣りを返す従業員。商品を手に帰っていくお客。小銭ケースを持ち上げ、トレーに乗った1万円札をしま・・・!

いや、しまっていない!

しまうと見せかけて、エプロンの前ポケットに入れている。近くには他の従業員がいるし、当然防犯カメラがあることも知っている。何とか気付かれぬよう、1万円札を必死に隠そうとする不自然な姿が、そこにはあった。

嫌な予感は的中した。やはり、内部不正だったのだ。私に報告をしてきた時点で、おそらく店長も考えられる原因は全て潰していたのだろう。

うん、何となく分かっていたよ、でも怖くて聞けなかったんだ。ごめんよ。

不幸中の幸いだったのは、その女性が当社の従業員ではなく短期契約の派遣社員だったことだ。本人はすでに勤務を終え帰宅していたため、派遣会社の担当者を呼び映像を見せた。

「・・・これは、やってますね。」

「でしょ。今日中に取り返してきて下さい。絶対です。」

閉店間際、レジから拉致された1万円札は、無事元の場所へ帰ってきた。くちゃくちゃになった諭吉の顔は、あいかわらず無愛想だ。

当然、派遣会社もこのままでは終わらない。今後へ向けた原因と対策を、会社としてきちんと示してもらわなければならない。もちろん2週間以内に。

この状況下で、こんなトラブルに巻き込まれるとは、やはり誰かの嫌がらせだ。一体誰だろう?いっそ、自分の家に防犯カメラでも設置してみようかと思う今日この頃である。

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