kura

小売業界で店舗運営の管理職として働いています。 兵庫県在住の46歳。 コラム・エッセイ、ショートショートを書いています。

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小売業界で店舗運営の管理職として働いています。 兵庫県在住の46歳。 コラム・エッセイ、ショートショートを書いています。

最近の記事

風を治すクスリ【毎週ショートショートnote】

臆病風に吹かれている。 ミスチル風に言えば聞こえはいいが、単に落ち込んでいるだけだ。先週、初めての彼女に振られた。「一緒にいても楽しくない」。そんなキツい一言を浴びせられたのだ。ついでにウイルスも浴びたのか、翌日から風邪気味だ。 薬を買うためオープンしたばかりのドラッグストアに行った。レジに向かうと、白いシャツにカーディガン姿の女性が立っていた。少し年上に見える。 波風が立った。 アプリを使うと10%引きになるらしく、スマホを取り出し操作する。 「そこをタップして…

    • 不眠症浮袋【毎週ショートショートnote】

      前回の「無人島生活福袋」のアナザーストーリーです。 始まりは、父が買ってくれた冗談みたいな福袋でした。 開けるとカバの形になるテントが入っていたんです。口が大きく開いてましてね。父もこれなら中が見えるから安心だと言って、庭に広げることを許してくれたんです。 ナイフの形をしたヘアブラシもありました。母にあげたんですが、受刑者が丸坊主にしているようにしか見えなかったからやめてもらいました。 あとは、ピアスを付けたおじさんの頭を灯すキャンドルや激辛グミ、変なサングラスもあっ

      • 無人島生活福袋【毎週ショートショートnote】

        「どうすんだよこの在庫。期末までに売り切らないとまたボーナスダウンだよ」 「これとか可愛いのに…POPが地味だったかなあ」 「全部お前が仕入れたんだからな」 「そうだ。まとめて福袋にしちゃいましょう。名付けて、無人島生活福袋」 「そんなもん買う奴いねーよ」 「店長、何年勤めてんすか。『需要は創り出す』それが我が社の理念でしょ」 「今は理念よりボーナスなの」 「見て下さいこのテント。じゃーん、何とカバさんの形に」 「口開きすぎだろ。中丸見えじゃねえか」 「それ

        • 缶蹴り恋愛逃走中【毎週ショートショートnote】

          腕に巻いたスマホが鳴る。 これだ。 VKBのアヤちゃんを復活させ告白する。「逃走中」初のサプライズとしてきっと話題になる。もちろんフラれるが、その瞬間、持ちギャグ「せつねー!」をぶちかましてやるんだ。 苦節15年。賞レースでの受賞もなければ、レギュラーもない。50m走6秒芸人で一度ひな壇に呼ばれたが大ゴケした。後輩の金髪野郎ハヤテはあれでブレイクしたっけ。そう言えば最近見てないな。まあいい。 カードを見つけ、噴水広場に急ぐ。 あった。およそ50m。空き缶がトロフィー

        • 風を治すクスリ【毎週ショートショートnote】

        • 不眠症浮袋【毎週ショートショートnote】

        • 無人島生活福袋【毎週ショートショートnote】

        • 缶蹴り恋愛逃走中【毎週ショートショートnote】

          長距離恋愛販売中【毎週ショートショートnote】

          ハンドルを握る彼の横で口紅を塗り直しながら、2号線を西へ向かっている。 初めて彼と会ったのは、半年前だった。 「大学の後輩。今日から入るから」 入れ替わりが多い店のため、店長からの素っ気ない紹介も皆気にはしなかった。そんな職場だから、誰かと仲良くなることも稀だったが、彼とはシフトが重なることが多く、自然と話す機会が増えた。思うように売れない日も「ケイちゃんのせいじゃないよ」と励ましてくれた。 「車で待ってる」 いつもの一言で、仕事が終わり彼の車に乗り込むと、不思議な

          長距離恋愛販売中【毎週ショートショートnote】

          キンモクセイ盗賊団の池【毎週ショートショートnote】

          「池さん早く!」 全く何で俺が世話役なんだ。オジキの遠い親戚らしいが、身寄りがいなくなったとかで先週北海道からやって来た。75のじいさんだぞ。勘弁してくれ。 初仕事は秋葉原の家電量販店。ガラスを割って侵入すると店内のパトランプが点滅した。 「数分で警察が来る!レジから金抜け!」 「えっと、これどこに入って…」 「それキャッシュレスだ!」 「キャッチュ?」 「もういい俺がやる!売場から取れるもん取れ!」 現金をバッグに詰め込み顔を上げると、池さんは陳列してあるス

          キンモクセイ盗賊団の池【毎週ショートショートnote】

          沈む寺【毎週ショートショートnote】

          断じて認めない。ここは俺の全てだった。 広大な山を切り開いた地域最大の商業施設。隣接する寺院とともに「テラマチ」と名付けた。「古き良きと新たな発見の融合」をコンセプトに、ようやくオープン間近までこぎ着けた。 それが、地盤調査結果に誤りがあり建築基準を満たさなくなっただと。数年以内に地盤沈下が起きるだと。投資額の補償はしますだと。ふざけるな! 近隣住民に何度も頭を下げた。行政にも裏で手を回した。最新ブランドも誘致した。照明には特に力を入れた。採算も見込めていた。何より、散

          沈む寺【毎週ショートショートnote】

          この中にお殿様はいらっしゃいますか?【毎週ショートショートnote】

          今日はいつにもましてモール内が混雑している。気温が下がり冬物を求める人が多いのだろう。僕が働くおもちゃ屋もクリスマスムード一色だ。さっきから何やら館内アナウンスが流れているが、BGMがうるさくてよく聞こえない。伸びすぎた髪のせいかもしれない。 品出しをしていると、強張った顔で辺りを見回す女性がいた。 「何かお探しですか?」 「あ、いえ、あの…」 「?」 … 「お客様の中にお殿様はいらっしゃいますか?いらっしゃいましたら総合カウンターまでお越しください。繰り返します

          この中にお殿様はいらっしゃいますか?【毎週ショートショートnote】

          はるちゃんの初ライブ

          「本当はやりたくないねん」 我が家のソファーでフォークギターを抱えたまま、はるちゃんはそう言った。 はるちゃんは、保育園から仲良くしている私の娘の幼馴染だ。キュートなルックスと負けん気の強い性格で、小中学校ではリーダー的な存在だった。高校はバラバラになったが、今も時々家に遊びに来る。いや、厳密に言うと遊びにではない。練習にだ。 若い頃、少しばかり音楽をやっていた私は、娘が小学校に入るなりギターを買い与えた。叶えられなかった夢を子に託す、なんて気持ちは微塵もなく、習い事の

          はるちゃんの初ライブ

          Mr.Childrenマイベスト10

          フォローしている長瀬ほのかさんが、ミスチルの最新ツアー「miss you」についてのライブレポートをアップしていた。 相変わらずのクオリティだ。「お口に合いましたよ」と言っておく。ただ、世代的には私がほぼドンピシャなので、10歳下の長瀬さんがここまでファンだとは少し意外だった。しかもかなりマニアックな曲名も挙げており、勝手に親近感を持ってしまった。申し訳ない。 今回はミスチルについて書く。とは言っても、ライブレポートやアルバムレビューではない。思い出の1曲を語るわけでもな

          Mr.Childrenマイベスト10

          コストコでヒデになった日

          コストコとは旅であり、旅とはコストコである。 満杯のショッピングカートにもたれながらゆっくりと昇るオートスロープの上で、そんなポエムが頭をよぎった。 先週末、私は中田英寿になった。 「オイコスのヨーグルトきれたからコストコ行きたい」 妻のそんな一言で、武田砂鉄さんの新作を読むつもりだった土曜の午後は、呆気なく砂丘に消えた。オイコスはきれても、私はめったなことでキレないことをよくご存知だ。 とは言いながら、久しぶりのコストコ。入口をくぐり、異国を感じさせる独特の香りを

          コストコでヒデになった日

          その花は開こうとしている

          「コスモスがいいわ」 およそ1年前、自宅前のサビれたパチンコ屋の閉店が分かった時、妻は開口一番そう言った。もちろん、咲き誇る一面のお花畑を眺めながら優雅に暮したい、という意味ではない。ドラッグストアのコスモスに出店してほしい、という意味だ。すでに近隣に5店舗出店しており、さすがにこれ以上はあり得ないのだが、「チェーンストアっていうのは1店舗ごとに商圏っていうものが設定されててな・・・」などと理屈を述べても機嫌を損ねるだけだ。「俺はゲオがいいかなあ」と乗っかってやり過ごした。

          その花は開こうとしている

          ヤナイさんとの会話【ショートショート】

          「もしかして、ヤナイ社長ですか?」 「・・・どちらさま?」 「つぶらな瞳とおちょぼ口。やっぱりそうですよね!」 「前半は余分ですが。取引先の方?」 「ただのお客です。涼しくなってきたんで、ヒートテックでも覗きに。」 「そうですか。ではごゆっくり。」 「そうだ、読みましたよ。杉本貴司さんが書かれた『ユニクロ』。真っ赤な表紙が目立つ目立つ。つい買っちゃいました。」 「それはどうも。」 「その本屋、ユニクロの売場を真似て縦縞陳列までしてましたよ。」 「あれは1つの

          ヤナイさんとの会話【ショートショート】

          恋するパワポ

          パワーポイント、通称パワポ。マイクロソフト社が提供する会議や商談などで使われるプレゼンテーション用のパソコンソフト。 私が現在の会社に入社したのは2000年。小売業のため、入社後はまず店舗勤務となるのだが、パソコン作業といえば、本部からのメールを確認したり、従業員の勤務シフトを入力する程度。報告書はもっぱらエクセルであり、パワポなどという代物を使用する機会は皆無だった。 それが訪れたのは、入社から10年経った頃。当時、商品開発の部署に配属されていた私は、アメリカセミナーな

          恋するパワポ

          語れる空気

          大げさに言えば、私はJ-POPの虜だった。 大学生活を過ごした90年代後半、国内のCDセールスは全盛期を迎え、才能に満ちたアーティストが数多くの名曲を生み、ミリオンセラーが日本中を彩った。 当時、放送部に所属していた私は、散らかった部室へ入り浸り、誰が持ち込んだか分からない音楽雑誌を読みながら、最新のヒットチャートについての持論を先輩に熱弁した。校内放送で流す曲をどうするかで揉めることもしばしばだったが、発売日の新譜をミキサー室で鳴らす瞬間の高揚感は、いつも特別だった。

          語れる空気

          炭酸は万能だ

          炭酸は万能だ。 お酒の飲めない私にとって、飲み会の救世主となる。 「なま8つ!!」 「・・・あと、ジンジャエール・・・1つ」 下戸であることを恥じるようなご時世ではないのだが、やはりこの瞬間だけは少しの勇気が必要だ。ただ 、この一言を乗り越えれば問題ない。乾杯さえすれば、気分はもうハイボール。誰も気にしない。グラスにプカプカと浮かぶストローだけを除けば。 バーベキューでラムネ菓子をポケットに忍ばせておけば、我が子へのサプライズも可能だ。少々肉が固かろうと、大嫌いなピーマン

          炭酸は万能だ