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店長代行の代償

担当エリア内の店長一人が体調不良で休んでいる。ウィルス性の湿疹が顔にでき、店頭に立てる状態ではないとのこと。いたしかたない、真夏日が到来したとはいえ、サングラス姿でレジを打つわけにもいかない。急遽、私が店長不在となった3店舗の運営を代行することとなった。

そう、意外と知られていないことだが、本部主導型の全国チェーンでは、近距離の複数店舗を一人の店長が兼任する形をとっている場合が多く、我々の会社もその制度を導入している。作業を減らし、単純化し、標準化することで、店長が常にその場にいなくとも同じレベルで各店舗を管理できるようになり、正常なオペレーションが可能となる。あらゆる指示を本部の専門部署から一括して流すことにより、日の浅いパート従業員でも簡単に理解できて・・・うんやめよう。自分で書いていて何だが、とても胡散臭い。書けば書くほど、人件費削減のため現場社員に過酷な労働を強いているブラック企業みたいだ。

もちろんそういうわけではないのだが、私が否定しても意味はないし、かと言って、ここを削除すると後の話にも繋がらないし・・・こういう時は、多くを語らずみなさんのご判断にお任せすることにする。宮崎駿スタイル。君たちはどう思うか。

そんなこんなで、約15年ぶりに一人の従業員として売場に立った。当然普段も売場に出ることはあるのだが、店舗実務を行うことはほとんどなく、想像以上にブランクという敵は手ごわい相手だということを痛感した。

レジを打つ手さばきはぎこちなく、クレジットカードの挿入方向を間違えたことによるエラーに戸惑い、釣銭を間違えては洒落にならぬと何度も確認する必死の姿をパート従業員に笑われ、お客さんの視線を浴びて震える両手を何とか隠しながらプレゼント包装を行ったはいいが、値札を外したかどうかが気になりもう一度やり直すはめになり、電話で店名がとっさに浮かばず口ごもっていたら、結局他店店長からの電話で「お客さんじゃなくて良かったっすねー」って励まされ、什器の上に積んである在庫を取ろうと脚立に上ったらキャスターをロックするのを忘れていて思わず転落しそうになり、まあ何とも、エリアを代表する責任者とは思えない無様な醜態を晒してしまったわけだ。一緒にいたパート従業員には、口止め料でも払おうかと真剣に考えてしまった。いや、今でも少しは考えている。すでに手遅れかもしれないが。

「昨日エリアマネジャーが店長の代わりに来たんだけど、レジ精算の時、お札数えるのマジ遅くてびっくり。」

「今朝昨日の作業チェックリストファイリングしてたら、サイン無い箇所3つもあったんだけど。忘れまくってるじゃん。」

ただ、久しぶりに自ら商品を補充し、レジを打ち、プレゼント包装を行い、目の前のお客さんと対峙することで、誰のために仕事をしているのかということを改めて感じることができたのも事実だ。サラリーマンである以上、上司の顔色を伺いながら仕事を進めることもあるし、自分自身のスキルアップのためだけに職場を利用することもある。競争に打ち勝つため、他社の動向ばかりに目が行きがちにもなる。しかしまず見つめるべきは、やはり目の前のお客さんだ。多くの恥をさらすことで、当たり前だがついつい忘れがちな気持ちを思い出させてくれた1日だった。

代償は大きければ大きいほど、得るものも大きい。昨日のパート従業員たちには、アイスクリームでも奢ることにしよう。口止め料ではなく、感謝の気持ちとして。

そして店長、早く戻ってきてくれ。やっぱり君が必要だ。

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