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【短編小説】モザイクの女

(読了時間は5分程度です)

ほんとになんも、なーんもしんじれんなくなった。としだな、としとったんだおれも。かいちゃんいまなんぼになった、私ももう還暦になりますよ。もうそんなになったか、まあしかたねじゃ、ここくるようなってもうなんねんだ、10ねんはとうになったな、はやいもんだべ。またその話ですか、いやいやなげきたくもなるべ、むすこさんはいくつになったべ、だいがくが、だから、いまだいがくさかよってらんだが、いやねぇもう働いてますよ。そうだったがな、このまえまでしょうがっこうさかよってらのに、はやいもんだな、そうか、そんなにたったが。今日は新顔さんもいますし、源ちゃん、すこし飲み過ぎたんじゃないですか?なんもまだまだ、まなぐもしっかりひらいでらさ、ほれみてみって、まだまだげんきだべ、あともういっぱいのまねばかえれね。いつもありがとうね源ちゃん、なんもなんもさ、いっぱいかねっこおとさねばな、みせっこつぶれればしゃね、おらのいくばしょなくなるべ、ははははは。お上手なんだから。
ほれ、そこのわかいにっちゃ、おとなしくしてらな、いっぱいおごっから、おらのはなしでもきいでけねが。ごめんなさいね、この人昔話を語るのが好きなの、タクシー来るまでもう少しだから、付き合ってあげてね。なにいろめつかってらのが、もうそんなとしでもねべ。そうかしら、私だってまだまだいけるでしょ、ねえお兄さんもそう思うでしょ。はははは、まいったなこりゃ。いやあねえ、冗談よ。いやわかいのもえらぶけんりってもんがあんべよ、にいちゃんはがくせいが、どごのひとだ、そうか、このへんのひとじゃねべ、やっぱすが。そういう人増えてきてますからねぇ、そうなんが、まあええじゃ。
おらのむかしのはなしだけどな、むかしっつってもあれだで、おにいちゃんくらいのねんれいだで、おらよしだてるおににてるっていわれて、まあもてたんだ。ちょっと源ちゃん、若い人には分からないんじゃない、そうかあ、にいちゃんもしってるべ、あいやぁ、しらねてが、しかたねな。そいでな、そりゃばりばりじゃんじゃんはたらいてたのさ、モーレツっていわれてたな、いまじゃきかねべどもな。モーレツしゃいん。おらもそうじゃったな、とうじはバブルで、こうどけいざいせいちょうきで、そりゃすごがったべ、このへんでもすごがったよな。そうですねぇ、お店も沢山ありましたね、それにひともたくさんいだし、まいばんあそんでかえってらもんだ、かかさ、まいばんしかられたもんだ、はははは。しごとだけでね、ひっしにおどりもおぼえだな、こうやってこしをな、おんなさぶつけんだべ、こうやって、まわすようにしてな、そしてうでもまわしてな、すごかったんだよおら。ちょっと、いやらしい話はしないでよ、そういうお店じゃないんだからね。ははは、すまんすまん、これいじょうは、もうちょっとおとなのみせさいかねばねな。はははは、もうそんなげんきもねじゃ、わかいこもあいてしてくれねしな。そんなことないでしょ、源ちゃんは昔から色男よ、はははは、ママにはまけるじゃ。
ほいで、なんにんもいるの、ひとばんだけねたっておなごがな、なんにんもいるんだよ、もてたんだおらは。あら自慢ね、まぁまぁ、でもほんとのことだべ、ははははは。それでもな、ひとりだけ、ほんとにひとりだけな、もういっかいあえねがなっておもったひとさ、そんなおんながいたのさ。そうなの、私も初耳ね、いやあはずかしくてな、だれもいえねがった、でもなんでがな、おにいちゃんさは、なにいってもいいきがすんだな、なんでだべな。にいちゃんわるいひとじゃなさそうだしな、な、わるいひとじゃねべ、そうだべ、ちゃんとおやこうこうしてらが、おくさんはいんのか、そうかそうか、たまにはおそくかえってもええんだ、おくさんも、あるていどのきょりもひつようだべ、としとったらな、はなくそほじるじかんもいっしょにいねばなんねじゃ、ほんとだべ、はははは。
そいでな、どこまではなしたべ、ああ、ひとりだけな、ひとりだけわすれられねおなごがいんのじゃ。珍しいよね、いつも色んな子とご飯食べに行ったりしてるくせに、それはあそびじゃ、そういうつきあいもひつようだべな、でもな、このひとだけはっておもえる、そんなひとにいっかいだけあって、そのひにほてるさつれでって、それきりあえねぐなったじゃ。いくらさがしてもみつからね、だからがな、おらがあんましいえにかえらねのは、さがしてんのさ、そのひとがどっかにいるんでねがってな、このとおりをあるいてるんでねがってな。あら、意外とロマンチックな話じゃない、いやいや、ちゃかなさねで、さいごまできいてけろ、そのひとな、かおがなんだかぼんやりしてて、まるであれなんだ、つねにモザイクがかったみたいなつらしてんのな。おらのまなごわるくなったのがとおもったで、でも、いくらちかくでみても、やっぱりわかんね、いつもぼやけててな、どんなひょうじょうだったのか、おもいだせねじゃ。昔の話だからじゃないの、いやそうでね、とうじから、あったときからおもいだせねつらこしてらんだ。ほんとかしら、ほんとだべ、そんなひともいるんだなと、びっくりしたのさ、それでな、いっしょにのんで、なかよくおててつないで、すんなりほてるさいってな、せっくすしたんだけどな、そういうのになれてるかんあったな、よるのしごとさしてるひとだったんでねべが。きいてみたのしゃ、これまでなんにんとねたのって、そしたらな、こんしゅうだけであなたで6にんめ、だって、ごうけいなんにんってきいたら、わすれたって、すましていうんだ、そのよこがおもきれいだった。顔がモザイクなのに、どうして分かるの、いやわかるんだ、わからねけど、でも、わかるんだ、これはいいおんなだって、にがしちゃだめなおんなだって、かおみねでも、ぼんやりでもわかんだ、でもな、そのひはてつやしごとで、からだのしんからつかれてて、けっきょくなまえもきかずにねちまって、あさになったらもぬけのからさ、だれもいねのさ。狐にでも化かされたのかしら、そうかもしんねな。お金取られたりしてない、まさか、いや、とられててもわかんねじゃ、いくらはいってるがみてねんだもん、はははは。いまもむかしも、かぞえられねくらいはいってんのじゃ、はははは。
そのひからな、ずっとずうっと、さがしてんのさ、そのおなごな、なあにいちゃん、そんなおなごさ、みたごとねべが、ねが、ほんとにねが、そうか、おらもばがだな、そんなことをずっとおもっていきてるんだ、このとしになってもだ。素敵じゃない、生きる糧って大事だわ、いや、そんなんじゃね、じごくだべ、わかんねべな、おらになってみねばわかんねじゃ、まいにちまいにち、そのことばかりかんがえて、あたまがおかしくなりそうだべ、いつかあえるんでねがって、いつまでもあさましい、きたいしてはうらぎられて、なにもしらないまま、いきてねばなんねじゃ、かみさんいきてたときはまだよかったけど、いなくなってからもっと、しんどくなった。そうなのね、はは、まるでがきんちょみたいだべ、いまになって、こいわずらいなんてな、こんなとしでするもんでねな、あ、タクシーきたみてだな、ほんじゃにいちゃん、ゆっくりしてってな、かいちゃんまたくっから。ありがとうございました、今日は転ばないで帰ってよ、ははははは、だいじょぶだいじょぶ、じゃ、おやすみ。
ごめんなさいね、長かったでしょ、お話。そう。源ちゃんね、ああいう感じで、いつも嘘ばっかりつくのよ、今日のもきっと、下ろしたての冗談だったんじゃないかしら、本気にしないでね、ねぇ、おかわりはどうします、同じのでいいかしら、え、私の顔ですか、あらやだ、なにいってるのかしら。じゃあ私も、かんぱい。

おわり


illust.ハンナさん

SPECIAL THANKS
イラスト提供
ハンナ #pixiv https://www.pixiv.net/users/38218163

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