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小津安二郎「僕はトウフ屋だからトウフしか作らない」


日本を代表する映画監督といえば、小津安二郎。
だが、今までこの方の作品を観たことがない。
そこでたまたま手に取ったこの本。

ここの部分を読んで、映画を観てみようと思った。
この感性に惹かれるからだ。
鋭い感性に加え、戦争で死の淵に立った経験がある、こういう方が生み出す作品をぜひ観てみたい。

P100 
 ふと目を上げた。一面の菜の花青みわたった空、その中を蜿蜒(えんえん)と進む部隊。これは美しい風景だった。だが、その一人一人は、歯を喰いしばりすべての困苦を忍び、欠乏に耐えている。この美しい流れの一人に僕もいる。
 その時、背中に一匹の蚤を感じた。今のうちだぞ、喰っておけ。弾に当たって戦死をする。僕の体が段々に冷くなる。蚤はきっと囁くに相違ない。そうすれば何の未練もなく、僕の体を離れて、他の兵士に飛び移るであろう。
 ふと、この蚤にいい知れぬ愛着を感じた。この蚤は、きっと何処かで戦友の戦死を見とどけて来たのに相違ない。力限り、根限り、頑張って、こいつは南昌にまで、連れて行ってやらねばならぬと考えた。

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