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ローマ・テルミニ駅の洗礼と、サイレント車両でやかましい動画を見る男

ローマのゲストハウスで一泊した僕らは、とうとう旅の目的地であるナポリへ移動することに。ただ、ナポリには夕方に到着する予定なので、午前中はローマ観光をすることにした。

モニちゃんがスマホを見ながら「もしかするとヴァチカンがすぐ近くにあるかも」と言い出した。僕も調べてみると、なんとゲストハウスからヴァチカンまで徒歩10分程度の近さではないか。

僕らはベタな観光に全く興味がないので、たまたまヴァチカンのすぐ近くのゲストハウスに泊まっていたことにそのとき気がついた。観光に興味はないが、さすがに徒歩10分なら行ってみるか、ということで朝の散歩ついでにヴァチカンへ足を向けた。

明るいうちにローマの街をあるいてみると、観光客のコスプレかな、と思うような典型的な観光客の集団があちこちで観光を楽しんでいた。僕らは「だいたいあっちの方角がヴァチカンだな」と、おおまかな方角だけ目星をつけてふらふらと歩いてみることにした。

するとたちまち、どこまでも続くような高い石の塀が現れた。どう考えてもこの塀の向こうがヴァチカンのようだ。石の塀に沿ってせっせと歩いてみると、入口らしき扉が見えてきた。世界一狭い国とは聞いていたが、けっこう広いじゃないか。調べてみるとディズニーシーと同じくらいの広さがあるらしい。

高い石造りの塀を辿ると入口が現れた

観光客の人波に紛れてヴァチカンに入国すると、セントピーターズスクエアというだだっぴろい広場に出た。オベリスクと呼ばれるとんがった石碑を中心に円状に作られた石畳の広場には140体の石像がオベリスクに向かって立ち並んでいて圧巻だった。

広場の中心にそびえ立つオベリスクと、それを囲む無数の石像

こういうのを荘厳というのだろうか。もしゲームだったら石像が動き出して襲ってくるんだろうな、などとくだらないことを考えていたら早くもヴァチカン観光が退屈に思えてきた。横にいるモニちゃんの顔色をうかがうと、子供用のサングラスの奥に見える瞳は石像など見ておらず、足元の鳩を追いかけていた。どうやらモニちゃんもヴァチカン観光には飽きてしまったようだ。

5分ほどヴァチカンに滞在した我々は他にやることもないので、ナポリ行きの電車が出ているローマ・テルミニ駅に向かった。テルミニ駅は「ターミナル駅」という意味で、品川駅のように多くの人の往来がある。

モニちゃんは駅に着くや否や僕に「ここからは本当に荷物と貴重品に気をつけてね」と注意を促した。いかんいかん忘れていた。僕は日本でモニちゃんのパパのエンツォにしつこいほどスリや泥棒から身を守る方法を伝授されてきたのだ。

お札は他人の目につかないように、基本的に財布は使わずカードと現金を別々のポケットに、荷物は地面に置いて目を離してはいけない。僕は心の中でエンツォの教えを反芻した。

どこの国でもターミナル駅で特急に乗るのは難しい

僕らはナポリ方面の特急電車のチケットを買うことに。慣れない券売機に戸惑っていると、足を引きずって歩くおじさんが「チケットの買い方教えてあげようか?」と近づいてきた。モニちゃんは小声で僕に「教えてもらうとお金をせびられるから無視して」と注意した。ううう、怖い。怖いし、真横でセールストークを披露するおじさんのプレッシャーを無視しながら慣れない券売機を打開しなければならないのが辛い。

なんとか目当ての特急列車を買えそうな画面まで辿り着いた。どうやら、席の種類を「サイレント」か「普通」かを選べるらしい。値段は変わらないのでとりあえずサイレントを購入。

イタリア語で「赤い矢」という意味の特急列車らしい

特急電車に乗り込むと、たしかに静かだった。日本では新幹線でワイワイしゃべっている人はあまり見かけないが、イタリアではわざわざサイレント席が用意されてるくらいなので、乗客がワイワイするのがデフォルトなのだろう。

しかし、しばらくするとサイレント席の乗客が音を出して動画を見始めた。おいおいサイレントじゃないのかよ、とびっくりしたがここはイタリアなのだ。これもイタリアではサイレントの範疇なのかもしれない。もし僕が注意しても動画を見ている彼は「おれは黙って動画を見ているだけだ」と主張するような気がする。

特急電車に揺られること1時間あまり、ナポリ郊外にある目的地の駅に到着した。駅の前にはモニちゃんの叔父でエンツォの弟であるレッロとその妻のカルラが迎えにきてくれていた。

前情報としてモニちゃんからは「レッロは日本人っぽい親しみやすさがある」とだけヒントをもらっていた。たしかにレッロは「大阪で小さな電気屋を営むおしゃべりな店主」といったたたずまいで親しみを感じる。

レッロの妻のカルラは長身でブロンズ像のように焼けた肌とギンギンの銀髪がまぶしい人で、ブラウン管のテレビの中でトレンディドラマの主役を演じていそうな迫力がある。

近所のバルでアペリティーボするもにちゃん、カルラ、レッロ

僕らはひととおりハグと挨拶を済ませると、レッロの車に乗り込んで移動することに。僕はナポリでの旅程をまるで把握しておらず、モニちゃんに任せっぱなしだったのだが、どうやら今日からレッロの家に2泊するらしい。

レッロの家はナポリ郊外のビーチからほど近い場所にあり、僕らが訪問した8月下旬はまさにビーチのシーズン真っ只中だった。近所にはホテルやB&Bが多く建ち並んでいて、サマーバケーションのお客さんで賑わっていた。

つづく。


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