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ナポリ式サマーバケーション、夜の市街地でのお楽しみは情熱ダンスと禁断のジェラート

ナポリ東端のサマーバケーションのメッカ、アグロポリ滞在2日目。この日はモニちゃんと叔母のマリア、叔父のジジ、僕の4人でアグロポリの市街地を観光しながら食べ歩きをすることになった。市街地に到着してすぐ目についた屋台には大量のレモンとホルモンらしき肉がディスプレイされていて、マリアは見るなり「懐かしい。オムスだ」と言って目を細めた。

レモンと内臓と豚足がディスプレイされているオムスの屋台

なんだろうと思って屋台を覗き込むと、店主はサーベルのような包丁で豚足とセンマイを一口大にカットして、プラスチックの容器に移してから大量の塩をふりかけた。そこにレモンまるまる一個分を絞ったらオムスができあがった。マリアは子供の頃よくこのオムスをおやつとして食べていたらしい。日本でいうと駄菓子屋で食べれるお好み焼きのような存在だろうか。

オムスの調理工程を見届けた瞬間、これは僕の好物であろうと直感した。さっそく僕も注文すると、店主はまた手際よくオムスを完成させて僕に手渡した。ひとつ前の客と比べて豚足とセンマイの比率がぜんぜん違うのはお愛嬌だろうか。なんにせよ、僕はセンマイが大好物なので、センマイ多めのオムスにありつけたのはラッキーであろう。

一口頬張ると、期待通りの味がした。強烈な塩味と大量のレモンによるすっぱさで、思わず顔が引きつったが、確かに塩は多すぎるぐらいが美味しいことがわかった。豚足とセンマイはむしろおまけであって、美味しく塩とレモンを味わう道具、という感覚がした。面白い食べ物だ。

強烈な塩味と酸味に「スッパイ」の口になる私

オムスを堪能した我々は、アペリティーボができるバルに入った。アペリティーボの定番カクテルのスプリッツをオーダーし、しばらくするとスプリッツとともにおつまみ盛り合わせも運ばれてきた。おつまみ盛り合わせにはチーズトーストや、バケットに惣菜を乗せたもの、コロッケ、ゼッポリーネ(ナポリの揚げパン)などがラインナップされていたが、0次会であるアペリティーボでこれほどカロリーを摂取させていったいどうするつもりなのだろうか。

0次会にしてはボリューミーなおつまみ

案の定、僕らはスプリッツとおつまみ盛り合わせで満腹になってしまったので、腹ごなしに市街地を散策することに。夕暮れのアグロポリの街はキラキラとした活気があって、笑顔の観光客がまるで踊っているように観光を楽しんでいた。石畳の商店街は細かく分岐していて、そのうえアップダウンが多い。迷子になってしまうかな、と心配になったが、少し歩くとすぐに海辺に突き当たった。海辺から来た道を振り返って見上げると、市街地が崖の先っぽにあることがわかる。どうやら迷子になれるほど市街地は広くないようだ。

明るい部分がアグロポリ市街地。絵葉書のような夜景だった

商店街のメインストリートに戻ると生音らしいタンゴの旋律が聴こえてきた。音のする方に行ってみるとゲリラ的に社交ダンスのセッションが開催されていて、老若男女の「若」以外の人々が参加して思い思いのダンスを披露しはじめた。

まさに一心不乱に繁華街で踊る、老若男女の「若」以外の人々

日本ではお目にかかれない光景に僕とモニちゃんは釘付けになってしまった。汗だくの紳士淑女が身体を密着させながら踊っているのをこんなに間近で見る機会なんてそうそうない。あるカップルは「昔はもっと踊れたのにね〜」といった表情で大笑いしながらヨタヨタと踊っているし、またあるカップルは歳の差が40歳くらいあるようで、おじいちゃんダンサーが威厳を保ちながら後輩ダンサーに遅れをとらないよう必死の形相になっている。情感たっぷりにアコーディオンを演奏している男性は、そのあまりにも大げさな表情が芸人の「こがけん」にそっくりで、モニちゃんはダンスそっちのけでこがけんの顔ばかり注目していた。

極上のパッシオーネを持って演奏するこがけん

結局、30分くらいダンスを見てしまった。ダンスの御一行は一礼すると「ダンス教室をやっているので是非ご入会ください」とチラシを配りはじめた。なるほど、ダンス教室のプロモーションだったのか。

こうして僕らはアペリティーボで満腹になってしまった胃袋にわずかに隙間を作って、モニちゃんが食べたがっていた「クオッパ」というスタイルのシーフードの素揚げの屋台でビールとシーフードの素揚げ盛り合わせを頼んだ。

絶対に水槽が邪魔なクオッパ屋のレジで会計するジジ

クオッパは紙を円錐状に巻いて、そこにシーフードの素揚げを詰め込んだもののようだ。味付けは塩のみで、大ぶりにカットしたレモンが添えられていた。定番の食材はワカサギのような小魚で、ほかにもエビやイカが人気らしい。それだけシンプルなら、美味しいに決まってるだろうと思うだろう。その通りである。オムスもクオッパもそうだが、素材がよくてできたてならば大抵のものは美味しい。

クオッパ。見たまんまの食べ物。レモンをビタビタに絞って食べる

食べ歩きの締めくくりとしてジェラートを食べることに。モニちゃんは常々、「ジェラートはイタリアこそ本場」という主張を崩さないので、お手並み拝見といこうではないか。僕らが買ったジェラートのフレーバーは「ヌテラ」。日本でも人気なのでご存じの人も多いだろうが、ヌテラはヘーゼルナッツベースのチョコクリームで、悪魔的な美味しさで人々を魅了しつつ、暴力的なカロリーで人々をドン引きさせている。

モニちゃんは一時期、ヌテラの大瓶から直にスプーンですくって舐めるのがモーニングルーティーンだったことがあり、これが原因で人生最高体重を叩き出してしまった苦い経験がある。

それ以来、ヌテラとは距離をおいていたのだが、さすがに久々のイタリア訪問なので節制する理由はあるまい。というわけで、念願のヌテラフレーバーのジェラートに食いついたモニちゃんは、次の瞬間、その大きな目がこぼれ落ちそうなくらいに目を見開いて「うううう!」とうなり、続けて「ヌテラがそのままジェラートになったみたいな味だ!」と喜びを爆発させた。

この顔である

僕も一口食べてみたが、まさにヌテラがそのままジェラートになったような、とてつもなく濃厚な味に感動した。ヌテラそのままの味なら日本でも食べれるじゃないか、と言われたら返す言葉もないのだが、僕らはヌテラそのものの味に興奮した。

10分後、いくらなんでも濃厚すぎるヌテラのジェラートは食べきれずにぼたぼたと溶けてなくなってしまった。大人ふたりがかりでもピッコロ(スモールサイズ)が完食できないなんて、ヌテラの実力おそるべし。アグロポリの2日目の夜はこうして更けていったのだった。

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