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2/10 講演でいただいた質問への回答

2月10日(土)、国立市さくらホールにてJikkaが主催した講演「行政と民間の協働~女性支援新法施行により何が変わるのか、何を変えるのか」には、約50人の方々が来てくれました。最後の質疑応答では、講演者の遠藤良子(Jikka)と吉田徳史氏(国立市市長室長)に、たくさんの質問が寄せられましたが、時間の都合で一部しか答えることができませんでしたので、遅くなりましたが、こちらに回答いたします。(遠藤への質問のみ)


■ 質問① 縦割り行政との連携について

行政は縦割りになっている状況で、なかなか連携がスムーズではないと私が住んいる市でも感じます。どうやったら、横断的な連携、支援ができるのでしょうか。国立市が努力していることなど教えて下さい。

回答:
行政の縦割りは、それぞれ専門性をもった分野に、良い仕事をしてもらうためには必要なことでもあります。組織になれば、役割分担はどこにでもあることです。問題は、その役割分担を言い訳にして、相談者の側に立ちその人の抱えた課題を根本的に解決しようとせず、相談者の持つ部分的課題だけを取り出してそれだけに対処する(たとえば、生活困窮で生活保護の相談にきた人に経済状態だけきいて判断しようとする傾向等)やり方が許されていることです。
その人の生活困窮の原因は何なのか。DVで夫から生活費をもらえない、職場でパワハラやセクハラを受けて仕事をやめたため収入がなくて困っている、病気で仕事を失い困っている、息子や娘と同居し自分の年金と貯金だけで生活していて貯金がなくなりそうだ、といったように、「生活困窮」になるにはさまざまな理由があります。そこまでちゃんと話を聴き、背景にある問題も含めて総合的に解決しなければ、同じことの繰り返しになってしまう。そのことに思いが至らないまま、行政措置がされてしまうのは問題です。
さらに、女性の場合は、根深いジェンダー規範による自己否定感や恥辱感から助けを求めることがとても苦手です。そうした女性は、自分の困難を「自己責任」だと思い込み、つぶれそうになっています。そこをエンパワメントし、精神的サポートも含め支援するのが女性相談員です。4月から施行される女性支援新法が規定する「女性相談支援員」の存在が必要なのです。女性相談支援員は、それぞれの分野の専門性をつなぎ、コーディネートし、具体的な生活基盤の立て直しのための関係機関と連携協働し、その人の支援チームを作る役割を担う必要があります。
国立市には4人の女性相談員がいて、夜間の電話相談もあります。Jikkaにも2人の相談員がいます。また男女平等参画ステーション「パラソル」にも相談室があります。その4者が連携協働して、情報交換を密にしながら、相談者を見守り続けることで相談者は孤立せず、必要な時に必要な支援を受けられることで、相談者自身が問題解決しようとする意欲を持てるようになります。

■ 質問② 新法に実効性をもたせるには?

女性支援新法の内容は理念的だが、そこにどうすれば実効性をもたせられるか。特に、行政の限界を打開するにはどうしたらよいか(タテ割りの利点と欠点をふまえて)

回答:
質問①でもお答えしたように、まずは自治体に女性相談支援員を配置してもらう必要があります。そしてその女性相談支援員を、相談者(当事者)を中心にしたケースワークを行うための庁内連携の要的存在として確立させることが重要です。女性支援のケースワークにおいては、関係部署全員がジェンダーの視点をもたなければならないと考えます。

■ 質問③ 女性支援で頑張っている自治体は?

女性支援で、遠藤さんが「がんばっているな」と感じている、国立市以外の自治体はどこかあるでしょうか? またどの点を評価されているか教えて下さい。

回答:
国立市以外の自治体の情報は、報道などから知る程度なので詳しくはわかりません。ただ、多摩地域は、東京都が婦人相談員の配置を引き上げたときから、女性支援は形骸化しているように感じます。一方、23区内には、売春防止法の時代から、困難を抱えた女性の支援をしてきた婦人相談員の先達たちの思いや活動を継承し続けている婦人相談員や、過去相談員だった方々がいます。私はその方たちに多くのことを学びました。
自治体として頑張っているところ、という話は耳に入ってこないわけではありませんが、実際にその中に入り、見たわけではないので何とも言えません。女性支援法ができた今こそ、自治体に働きかけてどの自治体でも同じ支援が受けられるようにしたいものです。

■ 質問④ トランス女性への支援について

今日の資料の中に「“女性”を自認するあらゆる人々が」とありました。
困難な女性の中には、性被害や夫からのDVに遭った女性もいて(男性器を初めとする男性性への恐怖心が強い人もいます。)←私もその一人です。
女性を自認する人の中には、「トランス女性は女性です」と、手術(外観)要件撤廃を求め、強く主張する人たちもいます。(トランス女性にもいろいろな状況スタンスがあるので難しいです。)
生理や妊娠に伴う生理学的女性の困難は大きい性自認の問題も別の困難がある。そのあたりを女性支援、特に居住支援においては、どのようなお考えで支援をしていらっしゃいますか。(「性自認」そのものがもっと検討されないといけない状況だと個人的には思っています。)

回答:
私たち支援者は、相談者ご本人の自認について何か言う立場にはないと考えています。その方の自認を尊重し、求めていることに応じられれば応じるというスタンスです。公的シェルターは特にそうした当事者の受け入れを拒否することが少なくないようですが、Jikkaでは住居(シェルター含む)は基本的にはアパートの一人住まいとしているので、支援を求められて、部屋が空いていれば利用は可能です。また、相談者が住居探しで制約があり、ご本人の名義で借りられない場合は、Jikkaの名義で借りてお貸しする(転貸)ことも可能です。つまり、理由の如何は問わず、住居に困っている方が女性を自認する方であればお部屋の提供はできるということです。これまで実際にそのようなご相談はありませんが、このように考えています。

■ 質問⑤ 問題行動を起こす人への支援について

女性を一時保護(宿泊)支援する側として、(警察を呼ぶほどではないが)あばれる人、ぬすむ人、こわす人。ふおんになる人、大声奇声をあげる人、同伴児のめんどうをみない人(母子分離させるほどではないが)などをどのようにしたらよいのか。

回答:
程度にもよりますが、まずは、そのような行動をとってしまうきっかけは何か?どんなときにそうなるのか?ということを知る努力をします。そして、そういう場面を作らないようにはしますが、それでも防ぎようがなく突然起きることもあるので、スタッフが怪我をしそうになったこともあります。暴力暴言や破壊行為があまりに長時間にわたるときや、明らかな器物破損、窃盗にあたるときには警察に通報し来てもらったり、被害届を出すこともあります。しかし基本はその状態がおさまったあと、話し合いをすることを目指します。すぐには無理でも少し時間がたってから話すことができる人もいるし、まったく話し合いができない人もいます。スタッフだけでなく、ほかの利用者さんに恐怖感や不安感を与える場合は、福祉事務所と連携し、精神しょうがいのせいでそうなっているなら入院につなぐ場合もあります。
ただ、私たちは、そうした問題行動に対し、「出て行ってください」とは言いません。行くところがなく漂着して来る人たちなのでそれだけは言いません。「何かをする」というより、「何もしないけど可能な限り付き合う」というだけです。時間がかかりますが、何があっても追い出されないことがわかると、本当に少しずつですが、落ち着いてきて、穏やかになる人もいます。とにかく私たち自身の思い込み(この人は危ない人、無理な人)と決めつけないで、長い目でみて可能な限り付き合い続けるしかないのだと思います。
とはいえ、万引きや窃盗で逮捕されるなど、自分から出ていく羽目になる人もいます。そうした場合は、帰ってくることはほとんどありませんが、手紙やメールが来たりというつながりが続く場合もあるし、その後どこへ行くのがその人にとって最善なのかを関係者と一緒に考えて行先を探し、つないでいきます。

■ 質問⑥ Jikkaスタッフについて

Jikkaで支援にかかわっていらっしゃるスタッフの方々の概要を教えて下さい。

回答:
コアスタッフは全員週1回以上当番に入ります。それぞれが得意なこと、やりたいことを自分で決めてその活動をします。その合間に入居者・利用者さんへの対応をします。月曜日~金曜日の11時~16時はそのコアスタッフが1~2名入ります。
そのサポートとして、ボランティアスタッフがいます。入居者・利用者さんのうち、回復したので何かしたい、手伝いたい、という意欲をもつ方たちです。週1~3回当番に入ります。おもに昼食作りを担当してもらい、オープンやクローズの作業、来客対応、清掃や片付けなど、11時~16時の間にできることをできる範囲でやってもらいます。少ないですが時給も払っています。
また、市民ボランティアの方々もいます。フードパントリーのお手伝い、入居者さんの部屋の清掃、イベント時のお手伝い等、ご自分の都合のつく範囲で自由にお手伝いいただいています。
Jikkaは、それぞれの個性を活かし、自分のしたい活動を主体的に行うことを大切にしています。やらねばならない仕事もありますが、「自分のやりたい活動をするためにJikkaに関わる」ということを大切にしています。

■ 質問⑦ 医療機関へつなげる対応について

医療機関へつなげた方が望ましいと考えられる場合は、どのように対応をしていますか。

回答:
その方の様子を見て、体調が悪そうだと感じられれば、面談し、通院を勧めます。眠れない、食欲がないなど、身体に影響があるような状態ならそれを改善するために行ってみようと話し、行くとなったら同行します。本人が望まない場合に無理強いはしませんが、様子を見ながら折々話すようにします。
また、暴力・破壊行為が止められない状態にある場合は、行政、福祉事務所、ケースワーカー、警察等関係機関と協議し、救急を使って入院してもらう場合もあります。

■ 質問⑧ ひきこもり女性への支援について

ひきこもり支援に関わっています。女性の40歳代のひきこもりの方が多く、解決していくのに難しさを感じています。当事者が、支援の必要性を感じていないことから、どのように対応していくのが良いのかアドバイスを頂けたら嬉しいです。

回答:
本人が支援の必要を感じていなくても、同居の家族や周囲の人たちが困難を感じている場合には、その方たちが本人から離れた方がよいと思います。周囲が困難を感じていなくてそのままでよいというなら、それはそれで生活が成り立っているとも言えるので、他人がとやかく言うことではないと思います。離れたいと思うなら離れればよいことです。支援する側がもたないなら支援をやめればよいと思います。無理していることは危険です。
よく「困難事例」と言いますが、一体だれが困難を感じているのか?をはっきりさせることから始める必要があります。本人が困難を感じて相談している人がいるなら、その人との長期的な信頼関係を作り、本人が外に出たいという時がやってくるのを待ち、チャンスがきたら一気に躊躇なく行動を押すことです。それで出てきたら安心できる環境と支援を整えていくことです。
困難を感じているのが周囲の人なら、その困難を手放す方法を一緒に考え実行していく計画を立てます。意外と、周囲が手放せずに困難を長期化している場合が多いと感じられます。義務感から解放されることが必要です。

※トップ画像はJikka利用者さんが描いたイラストです。

くにたち夢ファームJikkaはDVや虐待などの被害者、生活困窮者など女性支援を行うNPOです。
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