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家⑭


週に一度、2階のトイレの盛り塩を交換する。
リビングの西側の窓辺に祀っている御幣カンジョウの龍の形代にお供えしている水は毎日とりかえている。
でも怪異はおさまらない。

夜、何かが2階から階段を使って、1階の和室にいる私の処へやってくる。
ああ、来たな。
そんなことを思いながら金縛りにあう。
もう、慣れてしまったけど恐怖は変わらない。
金縛りに対する恐怖というより、何かに身体を取られる感覚。
それが
恐い。

娘はもう階段に女の人がいるとか、2階の自室の窓の外に誰かいて、間もなく部屋に入ってくるとか言わなくなった。
と言うか、そんなことを言ってたことを忘れてる。憶えていない。
けれど、私と同じように金縛りにあったりするようになった。
他にも布団に入っているときに、足を引っ張られたり、黒い影を見たりしているらしい。

そして
隣の奥さんは相変わらず男の声で歌ってる。
以前はラップみたいなのを男の濁声で歌っていた。
今は喚くように歌ってる。
朝も昼も夜も関係なく、家の中でも庭でも関係なく。
隣の家の中はダンボールで埋め尽くされている。
3人の子供達は2階の1室にいる。
御主人は歩いて5分もかからない処にあるアパートを借りて、行ったり来たりしている。
夜トイレに行くと、誰もいない隣の庭から物音がする。
得体の知れない何かが、隣の奥さんの動きを真似る音だ。

気のせいだ。

夜トイレに入ると聞こえてくるその音を、私は全力で否定してる。
耳を塞いでも聞こえてくる音。自分の声でかき消すのは恐ろしいから、私は自分の舌を鳴らす。
「チッチッ」
これが1番音消しにきくことを発見した。
「チッチッ」
誰もいないんだから、気のせい。
「チッチッ」
洗濯物が揺れてる音だ。

時々、玄関の外に誰かが立っているような気がするのも気のせいだ。
気のせい。
自分だけが感じるものに関しては気のせいだと信じたい。

※これは2020年4月14日にblogにあげたものを再編集しています。

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