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家⑮




2017年冬

深夜、中々眠れずにいた私は一階の和室に敷いた布団の中で携帯をいじっていた。
隣の娘は寝ている。

ふと、2階から誰かが階段を降りてくる気配がした。
何かではなく、誰かだ。
夫だと思った。起きて携帯をいじっていたことがバレると、機嫌が悪くなると思った私は布団を被り寝たふりをした。

夫が和室を覗くことはなかった。
目は閉じていたので夫の姿は確認していない。
でも隣のリビングから、夫の息づかいがする。

早く2階に上がってくれないかな。
そんなことを思いながら寝たふりをしていたが、ふいになんとも言い難い違和感を感じ、リビングにいる夫に声をかけた。
「お父さん…?」
返事はない。
私は目を開けて起き上がり、リビングを見た。

暗がりに夫の姿はなかった。

「今、お父さんいたよね」
いつの間に起きたのか、娘が話しかけてきた。

「うん、お父さんだったよね」
「でも、いないね…」

「寝ようか」
「うん…お休みなさい」

布団の中で私は隣の家の庭にいる、隣の奥さんの動きを真似ている異形を思って震えが止まらなかった。


我が家は時々夫の意向で、寝る部屋を変えることがある。夫が子供の頃、実家でもこんなことしてたようだ。理由は様々だが正直ウンザリしてる。

ある時、娘と息子の寝床をチェンジした夜のこと。

二階の息子の部屋である三部屋の内の真ん中の部屋で、娘が寝ていた時だった。

隣室で眠っている夫の部屋のドアが開く音がした。

娘は夫(私の夫、娘にとっては父親。念のため)がトイレに起きたと思った。だが、夫はトイレではなく娘が寝ている部屋に入ってきた。怖くなった娘は寝たふりをした。

夫はしばらくの間、ベッドの横に立ったままだったが、ふいに娘に顔を近づけ耳元で囁いた。

「…気づいているんだろ」

そして、そのまま気配を消した。

そう、娘は気づいていた。

部屋にやってきたのは自分の父親なんかじゃない。

足音も、息づかいも声も、気配の全てが自分の父親に似ていたが、決して自分の父親ではなかった。

耳元で囁かれた時は恐怖で心臓が止まるかと思ったそうだ。

因みに夫の部屋のドアが開く音は聞こえたのに、娘の寝ている部屋のドアを開ける音はしなかったし、開くこともなかったそうだ。

※これは2020年4月18日にblogにあげたものを再編集しています。

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