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漫文駅伝特別編 小説『うばすて山』① ウメ

ウメです。女芸人です。現在は、ライブを中心にコントなどをやっております。
この度、こちらで何かしら書かせて頂けることになりました。
あんなに可愛らしかった私も、もうすぐ45歳になります。
3人兄弟の末っ子です。妊娠が、分かった時、実家の養豚場経営は、もう、傾き始め、人も足りず、話し合って、「もういいよ!」となり、産婦人科に、母1人で、中絶しに行ったそうです。そこで、豚舎にいた父が、いてもたってもいられず、「やっぱりやめて〜」と、手術直前に病院に乗り込み、私は産まれました。酷い難産で、母は、命がけで、私を産んだそうです。

もう、ちょっとで、堕ろす所だった。という思い出話を、帰る度に、酒の肴にする両親の神経は、もちろん、疑っております。
ただ、この歳まで、独りで、好きに生きてるおばさんを、空港で見えなくなるまで、手を振り続ける、すっかり年老いた両親に「やっぱりやめて〜」が、正解だったかどうかは、出せていないような、なんとも言えない気持ちで、毎回、里帰りを終えます。

好きに生きて、自分の老後の事を、考えない訳ではないのですが、先の事を、まだまだ両親に心配される中、現実逃避的に、こちらのお話を書きました。読んでいただけたら幸いです。

『うばすて山』

長寿という言葉が使われなくなった今、町は超高齢者と外国人労働者で溢れかえり、若者は、払いきれない税金のせいで国外に逃げ出し、政府が苦肉の策で打ち出した法案が、ハピネス計画、人々は、うばすて山と呼んだ。

日本国籍の満80歳になった者は二つの選択をせまられる。
一つは、満80歳で安楽死を選ぶ場合、国から給付金300万円が、親族または、本人に与えられ、 申請を出せばいくつであろうと、前もって受給することができる。

もう一つは、生存の道、年金制度は廃止。逆に満80歳から、年間12万円ほどの税金を納めなければならない。例え国外に出国しても払い続けなくてはならず、例外は、認められない。
金で命を買う法案に反対は多かったが、貧困層の賛成が多く、あっさり成立した。

第一章 バカ息子

私は、敬子。ハピネスに配属され、だいぶ経つ、別に最初からこの仕事をやりたかった訳じゃない。普通の公務員だ。
今まで色々な人をハピネスに連れてきた。辛くなることもあった。だけど、死は、誰にだって訪れる。だから今回も、いつも通りの業務をこなすだけ。

滋は、大学を出て2年、就職するわけでもなく、毎日フラフラ遊んでいた。
「おい滋!いつまで寝てる。起きろ!飯を食え」
「父さん金貸してくれよ」
「バカか、お前いい加減にしろ、そんな金どこにあんだよ。」
「あるだろその...300万」
「お前、それ本気で言ってんのか?」
滋は、うなずいた。
「分かった。今から役所行くぞ」
「えっ、いいの?」
「早くしろ」
父と滋は、車で役所に向かい申請をした。
「では、こちらとこちらにサインと実印をお願いします。給付金は、分割で受け取りますか?」
「一括でお願いします。」滋が、すかさず言った。
「では、こちらに銀行名と口座番号をお願いします。本日中に振り込まれます。
変更は出来ません。手続きは以上です。」

「あっさりしたもんだな。ジムの会員になるより簡単じゃん。親父悪いな。」
「いいから、もう行け。」
滋は、そう言われて、すぐに銀行に向かいその足で、国営カジノに向かった。
中は、馴染みの客で溢れている。
「どうしたんだ!久しぶりだな。」
「へへ親父の金、前借りしちゃいましたー。」
「お前最低だな、俺にもちょっと貸してくれよ。」
「バーカ」
その日のうちに、金は無くなった。

あれから35年ほどたった。滋も、なんだかんだで、就職をして、結婚をし、息子をさずかり、仕事も軌道に乗り、お金に困ることも無くなった。
父は来週で、満80になる。まだまだ若々しく元気だ。

早くに母を亡くし、男手一つで育ててくれた父。工場で働き、安月給でも、文句も言わず、遊びもせず、定年の75歳まで、勤め上げた。いくら感謝しても足りない。
滋は、今になり、何度も何度も役所に足を運び、お金を持参して、中止してもらえないかお願いした。
「しつこいですね。あなたの実印だって押されているんです。変更はできません。そう言ってありました。記録の映像だってあるんです。」
「分かってるよ。俺が悪いのは、金ならいくらでも払う。頼むよ。」
「今まで、そんな方、何人もいましたよ。あなた方だけという例外は、認められないんです。お帰りください。警察呼びますよ。」
国を相手に、訴訟も起こしたが、勝てる訳が無かった。

そして、知らない番号から、父親の元に、一本の電話が鳴った。
「はい…」
「あ、私、ハピネスの長野敬子と申します。書類の方も来ていると思いますが、来週5月5日の朝9時に、お迎えにあがりますので、その時に、ご本人様と、ご本人の身分証を用意してお待ち下さい。その時点で、そちらにいらっしゃらない場合は警察のほうが動く形になりますので、お気をつけ下さい。それでは、当日よろしくお願いいたします。」
敬子は、淡々と、そういうとすぐに電話を切った。

「親父、国外に逃げよう。手配してあるんだ。」
「バカ野郎!お前が犯罪者になるんだぞ!無駄だ。みんな捕まって殺されてるじゃないか。知らない土地で犯罪者として殺されるより、安楽死のほうが良い。」

「俺のせいなんだ。俺のせいで、」
「これ以上生きて、みんなに迷惑かけるほうが俺は辛い。こうして一緒に暮らせて、孫の顔も見られて十分だよ。」
「俺は最低だ。あの金を遊びで使ったんだ。」
「何に使おうといい。どうせそうするつもりだったし、お前にやるつもりだったんだから」
「俺が親父を殺すんだ。」
「バカ、父さんは誰にも殺されるつもりはないぞ、勝手なこと言うな!もう寝る。」
「なあ、親父、俺に何か出来ることないか?」
「ない。しつこいぞ!…ああ、そうだ。明日の朝、ちょっと出かけるから起こしてくれ。」
「分かった。」
そういうと父は、自分の部屋に入っていった。
次の朝、滋が起こしに行くと、父は穏やかな顔で旅立っていた。ハピネスに行く前に。

〔続く〕

2023年10月24日(火)
新宿ハイジアV-1にて単独ライブを開催

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