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漫文駅伝『三浦マイルドの田舎暮らし』 第4回 三浦マイルド

どうも、三浦マイルドです。

たまにX(旧ツイッター)に江田島の写真を載せると、「のどかで良いところですね」とのコメントをいただきます。

良いところではありますが、のどかではないかもしれません。島には島の騒がしさがあります。

この前、島の居酒屋で飲んでいたら、客と店員が揉めてる声が聞こえてきました。

客「おい、兄ちゃん、穴子丼、作ってくれえや。」

店員「すみません、メニューにないので、、」

客「メニューにのうても、単品で、穴子も白飯もあるんじゃけえ、作れようが!」

店員「メニューにないものを、お出しできないんですよ」

客「何でなら!?ちいと店長を呼びんさいや!」

20分後、そのお客さんのところに、美味しそうな穴子丼が運ばれていました。

広島弁で書き起こしているから、さぞガラが悪く感じるでしょうが、この穴子丼を注文してる人は、ヤクザではなく、見た目は完全に一般市民でした。

今の時代、こういうお客はカスハラだとか、悪質なクレーマーだとか言われると思うのですが、島にはそんな概念はありません。

私と一緒に飲んでいた同級生達も
「あの店員、要領が悪いのお。客商売ちゅうもん、解っとらんのんじゃなあんか。ちいとバカなんかのう?」と、完全に穴子丼を注文した人側に立っておりました。

この様に、地方にいけば都会とはまた違う価値観があるのです。

これは、呉の屋台で飲んでた時の話です。

コの字型のカウンターの店で、その場で居合わせた夫婦同士が会話をしておりました。

ご婦人が、お酒のせいか饒舌になり、延々と喋っていたところ、その旦那が
「女がでしゃばるな!」
と制しました。

ご婦人はしゅんとなり
「トイレに行ってくる」
と言い席を離れました。

残された旦那が
「うちのがうるさくてすみません。それにしても、貴方の奥様はおしとやかですねえ」
とお世辞を言うと、言われた方の旦那が
「ええ。結婚して最初に教育しましたけえ」
と答えました。

屋台で飲んでた事もあり、昭和にタイムスリップした様な気分になりました。

フェミニストが発狂しそうなやり取りです。

この町で「ジェンダー平等」と言おうもんなら
何じゃそりゃあ?
ジェンダー兵藤?
全日本プロレスのレスラーか何かかいね?
てなもんです。

広島市内のお好み焼き屋でも
「お前に子供が出来んのはメンタルの問題じゃ!」
という話し声が聞こえてきた事があります。

中々酷い発言だと思うのですが、広島弁が言葉の酷さを倍増させてる様な気がします。

広島弁にはそういう魔力があります。

喫茶店でモーニングコーヒー飲んでる時に、他のテーブルに座っていたお爺さんが
「岸田は売国奴じゃけえのう」と言っていました。
やはり、耳に残ります。

広島県民は皆、仁義なき戦いの登場人物になる瞬間があるのです。

私も都会暮らしが長かったせいか、広島や江田島の風土に戸惑う事が多々あります。

島の焼き鳥屋で、お坊さんと飲んでいたところ、お店に40代位の男性が数名入ってきました。
私を見て
「ほんまじゃあ!おるおる!三浦マイルドおるよ!」

困惑した私にその男性は言いました。
「いや、知り合いがねえ、三浦マイルドが、この店に入るの見たいうて、LINEで送ってきたけえ、来たんよね」

続けざまに「一緒に飲もうや」と隣に座り、お酒を注文しだしました。

凄く応援してくれてる感じだったので、その方に嫌悪感は持たなかったのですが、一緒にいたお坊さんに悪いのと、行動を島の人達に見張られてるんだなという恐怖を感じました。

一度、島のドラッグストアで
「ここでいつもチップスター買いよるねえ」と声をかけられた事があります。

何を買っているかも見られてるのです。

会った事もないおばさんに
「昔よりちいと太ったんじゃないん?」
と言われた事もあります。

韓国の情報機関が常に金正恩の健康状態を調査する様に、私は島の人間達に体重の増減も監視されているのです。

島の中の、切串という港がある町で
「三浦マイルドがこの辺りに出没するて噂になっとるよ」
と言われたりもしました。

出没て、野生動物やないんやから。

いつか江田島の人に、猟銃で撃ち殺されるかもしれません。

ツラツラと島での嫌な出来事を書いていますが、心温まる話もあります。

早朝に港の周りを歩いていると、小学校低学年位の女の子が、停留してるバスに向かって走っていました。

「乗り遅れそうなんだな、間に合えば良いな」と祈る様な気持ちで、その子を見ていたのですが、無情にもドアは閉まり、バスは出発しました。

言わずもがな、島のバスの本数は極少です。
この子は遅刻が確定しました。

しかしここで、ヒーローが登場するのです。

50代位の中年男性が現れ、
「あのバス乗りたいんか?」
と尋ねると、女の子は黙って頷きました。

この男性は全速力で走り出し、バスが旋回する車道に飛び出し
「待ってくれえやあ!この子、乗せちゃってくれえやあ!」と叫びました。

バスは停まり、その子は無事(?)乗車出来ました。

ルール的には完全にアウトな行動です。

ですが、とても美しい行動だなと思いました。

引き返してきたその中年男性に
「お疲れ様でした」と声をかけると

「乗れんかったら、可哀想じゃけえのう」と簡素な言葉が返ってきました。

そのたたずまいは、菅原文太の様に渋かったです。

この島では、都会では味わえない事が、幾つもあるみたいです。

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