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漫文駅伝『三浦マイルドの田舎暮らし』 第8回 三浦マイルド

第8回
「たくさんの優しさ」

どうも、三浦マイルドです。
ありがたい事に、介護について、SNSを通じてアドバイスをいただく事があります。

「一人で抱えこまないで、周りを頼りなさい」とよく言われます。

幸いな事に、色んな方達に助けてもらっています。

絶対に私一人では無理です。
行政や親戚や友人の支えがあって、何とかやれています。

月に一度、島から呉の街まで、母を病院に連れて行くのですが、従姉に車を運転してもらっています。

この母の付き添いというのが、半端じゃなく気疲れするのです。

道中に便意を催されたりしたら、その瞬間から時間との戦いがスタートします。

母は介護用オムツを履くのを拒んでいるので、一歩間違えたら大惨事になります。

コンビニの男女兼用トイレか、スーパーにある多目的トイレを利用するのですが、コンビニにトイレが設置されてなかったり、多目的トイレが使用中だった時の絶望感は言葉では言い表せません。

世の中には、排泄するのに介助を要する人が大勢います。

私も、母の介護をする様になり、よほど便が我慢出来ない時以外は、多目的トイレは使用しない様になりました。

便を出したい様な、出したくない様な、どっちつかずの人が、長時間使って良い場所ではないのです。多目的トイレは。

入り口に「その排泄、本当に必要ですか?」と張り紙しても良いと思います。

以前、某セクシー女優の子のファンミーティングにゲスト出演した時に、その子が「高校時代、彼氏と多目的トイレでSEXした事がある」と言ったら、会場が興ざめした事があります。

その時は、ファンの方々が、自分の推しの性事情を聞いて、引いたのだと思ったのですが、
もしかすると、彼女の倫理観の欠如に引いたのかもしれません。

その子は、若かりし頃の過ちですから、今更責め立てる気はありません。

ですが、良い大人が、多目的トイレで情事にふけるなど悪質極まりないです。

そんな事をした芸人さんもいましたが、万死に値すると思います。

かたや私の後輩芸人で、性欲が尋常ではなく、道を歩いていても、急に自慰行為をしたい衝動にかられる為、グラビアアイドルの切り抜きを常に持ち歩き、したくなったら公衆便所に駆け込む奴がいました(まだスマホがない時代です)。

身内に甘いと批判されるかもしれませんが、彼には幸せになってもらいたいなと願っております。

話を戻します。
従姉が車を出してくれる事で、どれ程、助けられている事か。

役割分担できる事で格段に負担が軽くなっております。

あと、同業者の仲間にも助けられています。
居島さんは、言わずもがな、
後輩達もイベントに呼んでくれたりします。

ありがたい事に今月、吉本の後輩、黒帯の主催ライブに出演しました。

配信チケットが販売されてる事を知らずに、ネタとは言え、故郷の江田島の事をこきおろしてしまいました。

「島は遅れてる、島の住人は、ソ連が崩壊した事を知らない」

「江田島の農協ではヒロポン売ってる」

「選挙が面白くない。
島の年寄りは思考停止した人間がほとんどだから、自民党にしか投票しない。」

島に帰り、何人かの方に「配信見たよ」と言われました。

私はいずれ、江田島市の観光大使になりたいと思っているのですが、また一歩、遠のいた様に感じます。

故郷の事をいじくりまわす私ですが、地元の同級生や先輩達は優しく接してくれます。

島の居酒屋で飲む時は、全額奢ってもらっています。

「芸人に金を出させちゃいけんじゃろー。」
と粋な計らいをしてくれるのです。

ご馳走にあずかるたびに「芸人には奢るもの」という慣習を作ってくれた、先人達に感謝しております。

歴史に名を残さない落語家や漫才師でも、お金持ちからタカり続けた芸人は偉大です。

その恩恵を現役世代の我々が享受しているのですから。

3月頃に、いつもの如く、中学校の先輩と居酒屋とスナックでの飲食代をご馳走になりました。

次の日、同席してた同級生からLINEが入ってきました。

「昨日の約束覚えとるか?」と。

「何?全然覚えてない。」と返信すると

「お前、ウケるのー。入団式でネタをやってくれる言うたじゃなあか。」

との返事が帰ってきました。

同級生と先輩は、地元で中学生の硬式野球チームの指導者で、どうやら私がその新入生の入団式で余興をやる約束をした様なのです。

お二人は水産加工会社を経営してるのですが、夕方から無償で子供達に野球を教えてるのです。

「二人とも偉い!教育者として尊敬する!
ワシはネタをタダでやる様な事は絶対ないけど、二人からは銭は取れん!お金はいらんよ!」

と言ったそうです。

「酒を飲んどる時のワシは別人格なんよー。
タダでネタやる様な安いマネは出来んわい。
ほいじゃあのー。」

などと言えるはずもなく、入団式でネタを披露する事になりました。

※これは、金銭の受領がないので、吉本的にもギリギリセーフだと解釈しております。

子供達も父兄の方々も、よく笑ってくれました。

最後に新入生の子達に言葉を求められ
「みんな、いい選手になるだけじゃなく、
いい人間になってね」
と言った時に、お母さん方から凄い拍手をもらいました。

R-1優勝直後、「朝の番組は主婦層が見てるので、三浦マイルドは使えない」と言われたりもしましたが、その頃より格段に成長出来た様です。

式も無事終わり、チームの関係者と島の居酒屋で打ち上げをしました。

私が用を足しに便所に向かった時に、事が起こったのです。

遭遇した中学時代の一学年後輩に
「この前、相席食堂(朝日放送のバラエティ番組)に出とったねー。全然面白くなかったわー。」
と言われたのです。

R-1優勝する以前の私なら、必殺のケンカ空手を炸裂させていました。
その後輩は、暫く病院のベッドの上で天井を眺めながら流動食しか食べられない状態になっていたでしょう。

「見てくれて、ありがとう。頑張るんでまた見てね」

と言葉を返しました。

これが王者の品格です。
頂点を極めた者は、不動の心を持ち合わせているのです。

そして私は席に戻り、一部始終を先輩に報告しました。
どんな些細な事でも、報告、連絡、相談する事が社会人の常識だからです。

「そりゃあいけんのお!
健一(私です)の事、舐めすぎじゃわ!」

先輩は激昂しました。

私は「いや、ワシはええんですがの、ワシが舐められるいう事は、この場におる、皆が舐められとるいう事ですけえ、、
わしゃそれが悔しゅうて悔しゅうて、、」
とすすり泣きしました。

映画「仁義なき戦い」で槙原政吉を演じる田中邦衛さんが乗り移ったかの様でした。

先輩は、その後輩を駐車場に呼び出し、
全面的に私に謝罪をさせました。

これにて一件落着です。

ひとりはみんなのために
みんなはひとりのために

たくさんの優しさに生かされているなと、日々、感じております。

〈続く〉


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