見出し画像

「YUN–ROCKIN'ON WORLD」(ユンボ安藤 自作自演インタビュー)闇に消えた四番打者の章

この作品はあらゆる並行世界(パラレルワールド)において、各ジャンルで世界的成功を収めてきた希代の天才、奇跡のタイムスリーパー、ユンボ安藤氏のロングインタビューである。

今回お送りする並行世界は、日本野球界屈指のスラッガーとして数々の記録を球史に刻み、そのユーモアと無頼に富んだ言動の一挙手一投足は野球ファンのみならず愛され、その無自覚に癖になる微毒なパーソナリティは国民の記憶に強烈に埋め込まれたものの、数多の不祥事の累積の末、球界を去ることとなってしまった「不世出の天才バッター」こと、「明るい永久追放」こと、「ホッピーも言動もクロ」こと、「サインも盗めば備品も盗む」こと、「外角低めじゃないアウトロー」こと、「闇に消えた四番打者」ユンボ安藤氏のインタビューという名の『新・世界史』となる。

【選手名鑑】
◆ユンボ安藤(神奈川) 1973/4/6 内野手兼ハンデ師
東海大サラミ→練馬鑑別所→ドムドムバーガー→文化服装学院→巨人→失踪
本塁打王7回 首位打者3回 打点王5回 ワクチン接種4回 平均スヌーズ数7回
※類まれな才能を潤沢な煩悩で自ら破壊していく「ユンスタイル」は当時のヤングカルチャーに多大な影響を与えた。2010年 野球賭博、禁止ステロイド使用及び実演販売、古物商法違反の同時発覚により野球界永久追放。法廷での発言「これがホントのトリプルプレイ!」はのちに同タイトルで映画化、小説化、ボードゲーム化された。

■インタビューは、身元が判明してしまうことを恐れたユンボ氏から指定された都内某所に向かい、黒いハイエースに乗車、目隠しをされ(手で)、連れてこられたユンボ氏極秘潜伏先にて、熱海からの出張コンパニオンを交え行われた。


□ユンボ安藤(以下○)
ヤァヤァヤァ!
本日はわざわざありがとね。中野区沼袋まで。

□インタビュアー(以下●)
場所言ったら目隠しの意味ないでしょ。

○ヘリウム吸わなきゃ。

●声は変えないで大丈夫です。活字記事なんで。

○なら筆跡を。

●私が書きますし、パソコンでやりますし。
そもそも誰だかわかってのインタビューですし。

○ジョークだよジョーク。
ウェルカムジョークだよ。他人ん家だけど。

●ありがとうございます。感激です。
こんな私にわざわざ立ってお出迎えしていただき。
ユンボさん、ゆっくり腰を掛けてください。

○さっきソファにマウンテンデューこぼしちゃってベトベトなんだよ。

●じゃあこっち座ってください。

○では、膝の上に失礼して。

●どこに座ってるんですか!

○チッ。

●ユンボさん、とにかく今日はお会いできて光栄です。
ユンボさんは少年時代の僕のスーパーヒーローです。
大変緊張しています。
何からお聞きしていいものかもまだ…

○パン!パン!(手を叩く)
お〜いコンパニオンさ〜ん!

●な、何ですか?

○君が来る前にやっていた野球拳の続きをね。

●だから靴下しか履いてないんですね。
完敗じゃないですか。

○いささか冷えるねぇ。

●しかしジャンケン弱いですね、ユンボさん。
コンパニオンさんはまだダウンジャケット着てますよ。
ユンボさん、時間は取らせませんので、少しインタビューの方を…

○すまんすまん、根っからの野球小僧でね。

●いや野球拳…

○さあ、始めようか。プレイボール!

●ユンボさん、とりあえず着てください。

○この場合、着た方が自然なのか、靴下も脱いで生まれたままの姿に戻るのが自然なのか…

●着てください。

○週末だから…ネグリジェか。

●何を着てるんですか。いいですもう、そのままで。
とにかく10年ぶりです。ユンボさんのお顔を拝見するのは。

○そうかい。

●しかもあの時は裁判での法廷画だったので。

○タッチが荒いよね。

●まあ、裁判中に急いで描かなきゃいけないですしね。

○僕はキュビズムで発注したんだ。

●お顔を見た感じあまり現役時代とお変わりはないようで。

○そうだね、少し目をいじった位で。
腫れぼったくしたくてね。
頼まれ事が面倒なので、無能な感じを演出してね。
あとは頭の上にチョウチョでも飛んでくれればパーフェクトなんだけどね。

●少しお聞きしにくいのですが、ああいう形で野球界を去ることになりましたが、今でも野球は見られたりするのですか?

○もちろん、もちろん。
賭け事は辞められないよ。

●まだやってんのか!

○水原くんの連絡先わかる?

●何を企んで…

○嘘、嘘。もう賭け事はやってないよ。

●安心しました。
今、水原氏の名前が出ましたが、大谷選手の活躍は凄いですね。

○そうだね少し前までは大谷といえば大谷直子だったのにね。
直子時代の終焉だね。

●ないです、そんな時代。
ユンボさんも現役時代、2004年ですか。メジャーリーグに挑戦なんて話もありましたが。
どうして、アメリカには渡らなかったのですか?

○弁当持ちだったからね。

●はいっ?

○あっ執行猶予中ね。
弁当持ちって言うんだよ犯罪者用語で執行猶予のこと。

●いや、ヒーローから犯罪者用語は聞きたくないです。

○ほら、チームメイトの野球道具を盗んでヤフオクで売り飛ばした事件あったじゃん。あん時だから。

●ありましたね。

○売れた商品を自分でお客様に届けたのがまずかったな。

●自分で届けたんですか?

○リリーフカーでね。
どうしても直接、感謝を伝えたくてさ。
生産者の顔が見える農産物的なさ。

●…

○オレがお届けすれば出所は確かで、商品が本物だとわかるしね。

●本物かもわかるし、犯人もわかります。

○あれでアシがついた。(発言と同時に手の平でおでこをパチンと叩き「やっちまった」ポーズを取るものの思いのほか強く叩きすぎ冷えピタを貼り5分間の休憩)

再開

●メジャー挑戦というのは実際にお話は…

○あった、あった。憧れの「NYY」から誘いがあったんだよ。

●ニューヨーク・ヤンキース!

○ところが他からも目をつけてもらっててさ。

●ほぉ。どこの球団ですか?

○「FBI」

●…

○「NYY」と「FBI」

●連邦捜査局じゃねえか!

○どちらも名門ですよ。

●そうは言わない。

○ほら、前年の2003年に松井くんがヤンキースに入団してニューヨークでゴジラ旋風が巻き起こってたでしょ。

●ええ。

○だから、向こうのマスコミは「ゴジラ」の次は「ルパンだ!」なんてね。
クールジャパン!てか。

●てかじゃねえよ。ただの泥棒じゃねえか!
それはさておき、輝かしいヒーロー時代のお話をお聞きしたいのですが、ユンボさんといえば入院中のユンボファンの少年のお見舞いに訪れ、その少年との約束を果たした感動的な有名なエピソードがありますが。

○道徳の教科書にも載ったあれね。

●その後の不祥事で教科書は廃刊になりましたが。

○あの少年とのあの日のことはよく覚えてますよ。

●その感動エピソード。是非、聞かせてください。

○僕が病室に訪れた時、彼は治療の麻酔の影響で眠っていたんだよね。

●はい。

○僕は彼が眠ってる間、ベッドの横にずっと座ってさ。

●少年の麻酔が切れるのを待っていてあげたんですね。

○麻酔が切れて僕に気づいた時の彼の第一声は今でも耳に残ってる。

●少年は何と?

○「僕のバームクーヘン食べないで!」

●えっ!

○「プッチンプリンも無いっ!」

●…

○「ナボナもハーバーも無いっ!」

●はいっ?

○「ママ、誰なの?この人っ!」

●…

○そしたらママが「あなたの好きなユンボ選手じゃないの!」って。

●ええ。

○そしたらガキが、
「僕が好きなのはバルビーノ・ガルベス選手だよ!コイツじゃない!」
「ドミニカはサンペドロ・デ・マコリス出身のバルビーノ・ガルベスだよ!」

●…

○てよ。まったく。
で、ガキが暴れちゃってさ。
「君、すっかり元気になったね」なんて言っても全然ウケないしさ。
とにかくちょっとした修羅場になっちゃってよ。
院長先生まで現れちゃって。でも院長さんは流石だったね。オレを見るなり膝に手をつけて中腰で「お勤めご苦労様です」ってさ。

●…

○ほら、日本未上陸のケバブ屋を無認可で始めてしょっ引かれ、出てきたばっかだったからね。

●そんなことは教科書には書かれていなかったです。

○あんなの嘘ばっかだよ。そもそも真実を捏造して記事にしてリークしたのはオレだしな。
そもそも秘密で訪れたのを誰が見てたんだ!って話だしな。

●まぁ…

○まあ病室はそんな状況だったから、とりあえずオレは「ドリンク、ドリンク!」って。

●なぜ?

○ほら、ドリンク無しのバームは喉につっかえるだろ。ガキどころじゃねえよ。
そしたら、ガキがまだなんか吠えてんだよ。
「ザラザラのゼリーも無いっ!」って。
ママが「あら、どこいったのかしら?」なんて。
そしたらガキが「あれはいらないっ!」なんてよ。

●…

○そこですっかり意気投合だよ。
確かにあのザラザラのゼリーはオレも大っ嫌いなんだよ。
何なんだあれは。ばあちゃん家とかにあんじゃん。
記者さんもわかるでしょ?

●ちょっと、どのことだか。

○あんだろ、あの初代グミみたいな。プロト・グミみたいな。小っちぇ袋に包まれたさ。ドライなさ。そもそもゼリーというのはゼラチン、果汁、砂糖の組み合わせで、フランスではジュレと…

●ユンボさん、ユンボさん!ゼリーの話は今度聞かせてください。
では、少年との約束なんていうのはそもそも無かったと…全ては捏造だと!大嘘だと!

○あった、あった。あったよ。ちゃんと約束は守ったよ。
内野ゴロを打ったら三塁側に全力で走るという。

●…

○あれはウケた。さしずめ明治神宮演芸場ですよ。はい。

●そんな約束…

○あとガルベスのサインも。

●はぁ……そうですか。なんかショックです…

○そんなもん、そんなもん。

●ちなみにその少年とはその後…

○ハイエースで君に目隠ししてたのが彼だよ。
さっきからキッチンで民族音楽を奏でながら、ブリトー振り回して君をずっと睨んでるユーモアに富んだ彼。

●彼が……。元気なら良かったです…

○うまくやってるよ。

●わかりました。もう大丈夫です。
ユンボさん、最後に今後の目標があれば聞かせてください。

○もう一度、表舞台に立ちたいね。ジャンルは問わずね。
この闇から抜け出したい。またカクテル光線を浴びたいね。
あのキャリアハイを残した2005年のシーズンのように今一度輝きたいんだ。

●2005年は凄いシーズンでしたね。
その年の流行語大賞を受賞したヒーローインタビューでの伝説のあの発言も忘れられません。

○「ファンもいらなきゃ、女もいらぬ、わたしゃも少しステロイドが欲しい」
あれかい?

●はいっ。感動です!
ユンボさん、もう一度輝きましょう!

○ごめんちょっと電話。
「もしもし?うん、ハンデは?なるほど。じゃあジャイアンツとカープに賭け…」

●110番しました。


「YUN–ROCKIN'ON WORLD」
【闇に消えた四番打者の章】完

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?