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Dr. Porges ポリヴェーガル理論を自分なりに考えてみる

最近、ポリヴェーガルという言葉を頻繁に聞くようになった。

Dr. Stephen Porgesの「ポリヴェーガル理論入門」は日本語で、2018年に翻訳本が春秋社からでている。ちょうど出た直後くらいに読んで、そのあとは時々資料として開くくらいだったので、そろそろもう一度読んでみよう、、、と思っていた時、Dr. Porgesが話しているYoutubeに出合った。

書籍から受け取れなかった彼の言葉を聞けたことにより、ポリヴェーガル理論の見方も少し変化した気がするので、この動画の中で話していることを中心に一度まとめてみようと思う。

そもそもポリヴェーガル理論とはなんぞや、、、ですが。Dr. Porgesは1970年代頃からこういった分野の臨床と研究をしてきていて、紆余曲折しながらまとめてきたようです。

ポリとは多くの、ヴェーガルとは迷走

これまで迷走神経(脳神経10番)は、末梢神経系である脳神経のひとつと考えられており(細かいところは省略して、大枠で話しますが)、主に副交感神経的な作用が大きいと考えられていた。

が、Dr. Porgesは、その考え方に、迷走神経系は動物の進化の過程でそれそのものも進化してきたことにより、一つではなく多数の経路があると提唱した。

神経系は、動物が爬虫類から哺乳類へと進化する中で、人間が生存するために必要な、人を頼る(共依存)という社会性の必要に沿って進化してきた。

その社会性に必要な要素として、声(韻律)と顔の表情が必要になってきた。それらは自分の安全を判断する一つの材料として使われ、声(言葉)、表情を通して我々は、その相手との関係性における自分の安全を確認し、そして交流してきた。つまり声(韻律・イントネーション)と表情は、社会的なコミュニケーションの重要なキーとなり、言語化し、そして非言語(ジェスチャーとしての表情)もまた私たちが自己の安全を確認する重要な役割をしている。

声や顔の表情というのは、我々が安全かつ心理的な安静(Calmness)を手に入れるための大事な要素であり、その安静が恒常性(Homeostasis)を導き出すと彼は言っている。

顔の領域は、2つにわけることができて、目の周りである上半分、そして口元のある下半分はそれぞれ異なる神経系により制御されており、下に言葉は出てくるが、顔の上半分は横隔膜上迷走神経(社会交流システム)であり、顔の下半分は交感神経により制御されている。

基本、無表情というのは顔の上半分をみて我々は言っていて、口元を見て「あの人無表情だよね、、、」とは言わない。

口元は交感神経系の状態(緊張、恐怖、不安)などを表しているので、顔からもその人の迷走神経系の状態を読み取ることはできる。

生体の恒常性に必要なのが、健康発達であり呼吸の回復。

その2つが共調節(Co-regulation)されることにより、我々の社会行動が継続され、それが健康へとつながる。

我々が誰かと出会った時に、その人の声で不安や恐怖を感じたり、または安心したり、、、それは迷走神経(ポリヴェーガル)によるものであり、それを通して我々はその場に最適な反応・適応を繰り返しながら生きている。

ポリヴェーガルの話をするうえで、そこにある多重構造を簡単に説明すると以下になる。

爬虫類的な部分が働くと、不動・シャットダウンがおこる(失神など)

哺乳類的な部分は、可動であり闘争逃走反応を起こす。心拍数が上がったり、呼吸数があがったり、いつでも動ける態勢をつくる。

そして人間が進化して手に入れたものが、一番上にある社会交流システムであり、ここが働くことにより、高次脳との接続により脳幹部からの指令が下りてくると言っている。

大切なのは、このどれかが優位なのがいいのではなく、必要な時に必要なものが反応すること。

Dr. Porgesも繰り返し言っていたが、反応を見ることが大切であり、反応こそが大事なのである、、、と。そしてその反応というのは、基本Involuntary(非自発的)であり、体は調整するために生理的現象をシフト(移し変え)(Body is shifting physiological states to adjust)をし、それにより異なるふるまい・行動をすることを可能にする。それこそが大事なのだ、、、と。

自分の体が発している信号をキャッチして、それに対して調整することができるか。そこには内受容感覚がポイントになるのだろうけど。

もう一つ面白いなぁ、、、と思ったことは、

下の図の右側にある、横隔膜上迷走神経と横隔膜下迷走神経の違いについて。

横隔膜上迷走神経とは、その名の通り横隔膜よりも上を制御している迷走神経で、主に心臓や呼吸(肺)、咽頭(声)、顔の表情に関係している。この神経系は有髄神経であり、妊娠後期の胎児期に発生するもの。そのころに迷走神経が形成される中で、背側から腹側に枝を伸ばし(それゆえに腹側迷走神経とも呼ばれる)、いずれ顔の表情などと関係する核に移動していく。この横隔膜上迷走神経が関係している生理的構造により、心臓の状態が声や表情に現れると考えられる。(生理学的状態が外に出るというのは、哺乳類の特徴である)またこの神経系の枝が機能しないと、呼吸機能に影響が出る可能性も秘めているし、将来的には社会交流システムになんらかの機能不全が起こる可能性を秘めている。

一方で、横隔膜下迷走神経は、無随神経であり、背側迷走神経とも言われ、横隔膜から下の内臓へとつながっている。胃腸などの働きに影響を与える神経、胃腸などの変調が反応として教えてくれる可能性もあり、過去になにか自分の身の安全を担保するために、この神経系を作動してシャットダウンするような経験があったり、または上の層の交感神経系の状態により、下位である横隔膜下迷走神経の抑制ができなくなっている可能性も考えられる(慢性的な交感神経系優位状態)。

この理論をシンプルに語ることは難しいけど、Dr. Porgesの言葉から感じたのは、シンプルに体で起こる反応が、その環境において適正な適応反応をしているのか、、、を観察することがまず入り口にあり、我々ができる一つが、Play(遊び)を通した取り組みと、声・音を通したアプローチであるということ。(Playに関しての考察はまた今度)

そしてやはり安心安全という場の構築は、なによりも大切なのだということをポリヴェーガル理論からも感じた。

ストレス下において、我々の神経系(脳)は、Neuroception(ニューロセプション)を使って、それがいったい何なのか、、、を感じ取り、我々の認知できるさらに外側にある何かを理解し促進させるということをしている。

なんだかわからないけど、、、なんとなく、、、というのは、ニューロセプションのなせる業であり、その気づきを持って我々(の神経系)が反応し適応していくことで、安全安心を保つことができる。

そして人はストレス下において、社会的な安静/自発性⇔恐怖・闘争逃走の両極の中のスペクトラムにいる。

通常我々の心拍は、Vagal Brake(ヴェーガルブレーキ)により、抑制されている。抑制されているということは、交感神経を優位にすることなく、必要な生体の環境を維持し、このヴェーガルブレーキにより、我々は適切な呼吸、心拍などを維持することができ、交感神経の活動を過度にすることなく、社会交流システムをフルに発動し行動することができる。

交感神経系が慢性的に優位であることが、我々の生体にどのような影響を与えるのか、を、このポリヴェーガル理論はまた違った視点から教えてくれるのだと思う。

話の中で、Dr. Porgesが言っていた一つに

" Behavior is not a problem." (行動が問題なのではない)

"Justification (Rationalization) could create problem." (正当化・合理化が問題を生む)と述べていた。

つまり、体の反応そのものはニューロセプションによる脳神経系(ポリヴェーガル)の適応行動なのであるからそれはそれであって、その反応についていったい何なのかということを正当化することが問題を作り出している、と。

認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy)というものがあるが、私たちの体で起こっていることを、どう解釈するか、どう理解するか、どう正当化するか、その正当化されたものが実際の状況と合致しているのかどうか、、、それを見直すことがこの認知行動療法がおこなっていることの一つと私は理解している前提での話になるけど。

色々な人と付き合う上で、「え?なんでそんな風に反応するの?なんでそう受け取るの?」ということは誰しも経験したことがあると思うが、それはその人の中で、生体的な反応をその環境下で正当化するために出てきた解釈であり、もしその解釈が行動に影響を与え、恒常性を阻害するものであるならば、やはり丁寧に見直すことも大事なのだと思う。

会話の最後のほうで、Dr. Cedermackの " What do you for fun?" (楽しみのために何するの?) 質問に、自分のこれまでの仕事をしてきた中での様々な選択について話をしていて、年を取るうえで大切な心構えとして彼が思っていることを話していて、その一つが

"Empowering, Enabling where you support people who become who they are and not who you are." 

(力を与えるコト、私が私であるということに力を注ぐのではなく、他の誰かがその人である、その人になるということをサポートできる自分でいること)と、答えていた。

その言葉を聞いたときに、Dr. Porgesがこのポリヴェーガル理論にたどり着いた理由と、この内容が社会にとってなぜこれだけ有益なものとなったのか、その理由が伝わってきた。

書籍からも十分に彼の人柄が伝わってきたけど、彼の言葉を聞いて、もっともっとその意味合いが深くなった気がする。

私のざっくりとした考察が、なにか皆さんが考えるきっかけになればうれしいです。

今年もあと1週間を切りました。

色々あった2020年、そして色々あるであろう2021年。

皆様にとって健康な幕開けとなりますように、心より祈っております。

Have a great holidays!

Love and Peace

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