かりんのかんづめ 〜ギャルになった日〜
小・中学校が同じで、高校では異なる学科となった友人のAちゃんがいた。母親が飲食店を経営する肝っ玉母ちゃんで、彼女も背の高いサバサバした性格だった。
高校に行くときは中学時代の友人とAちゃんの三人で登校していた。
当時、やまんばギャル等の名称が出るほどギャル最盛期時代で、あゆの曲が常にランキングをしていた。
私は、中学から仲の良い子たちがAちゃんと共に違う学科でギャルになっていたため、影響を受けてスカートの長さが短かった。確か自分の学科では一番短かったことを覚えている。
ギャルの友人たちと同じ学科なら浮かないのに、明らかに自分の学科では浮いていた。
クラスで友人を作ろうと、隣に座っていた子が見学で気に入ったという吹奏楽部に入部することになった。
夏休みもほとんど部活に明け暮れていたこともあり、徐々にAちゃんとは一緒に登校しなくなり廊下で会ったときに声を掛け合うくらいになっていた。夏休みあけ、Aちゃんと廊下ですれ違うと完全なボスギャルになっていた。
その後も、私は大学生、友人は美容専門学校とそれぞれ違う道に進んだ。
とは言え、同じ札幌市内在住ということで再び遊ぶようになった。
彼女はすすきのにあるマンション在住で、専門学校生とは思えない広い部屋に住んでいた。
大学時代は、飲みに行くとしたら大体はすすきので。
いつもの仲が良い大学の友人ではなく、なんとなく仲良くなった大学の子と飲みに行くことがあると。中心者の子がマウントをとってくる面倒な子だったりしたら、二次会には行かずにAちゃんの家に遊びに行ったりしていた。
女子特有の面倒なところがなく、姉御肌で一緒にいて楽だった。
嵐のライブDVDを午後9時から午前3時まで見させられた時は死ぬかと思ったけど(笑)
やっぱり楽しかった。
あれは大学二年、20歳の夏休み。
「あのね、学校の宿題で友達の髪をカットして、その画像を提出するの。モデルになってもらえる?」
Aちゃんからのお願いだった。
よく周りにもカットモデルなどをしている子がいたので、軽い気持ちで良いよ、と答えた。
当時、おしゃれに特にこだわりのない私は、すべて彼女にまかせた。
ゼミの先輩お姉さんがCOACHのお財布やバックを持っている中、大学生にもなって水色のスヌーピーのお財布を持っているような女子大生だった。
大学受験がきつすぎてオシャレへの興味が崩壊し、高校一年時代のミニスカートを履いていた頃の私ではなくなっていた。
「持ってる洋服の中で一番大人っぽいやつ、全部持ってきて」
「へ?大人っぽいのなんてないよ」
色々抵抗したけど、乗りかかった船なので言われた通りにいくつか洋服を持って、いつものすすきのマンションへ向かった。
「今の姿を撮るから」
beforeとAfterで画像が必要なようだった。
首を通す部分だけ切った大きなゴミ袋を頭からかぶり、カットがスタートした。
「髪の毛は、もともと色がかなり落ちていい具合に派手になってるから」とAは言いながら手を動かした。
カットはそれほどせず、ブローに時間をかけていた。
ギャル雑誌eggにたまに出ている、ロングでもセミロングでもない短い髪のお姉さんと同じ巻き髪にされていった。
メイクがはじまると、いつもは日焼け止めしか付けない肌にこってりとファンデーションが塗られた。
カラコンこそしなかったけど、まつ毛はバサバサ、アイラインはえらい太くて長かった。アイシャドウとリップを塗ると、かなり大人の女性になっていた。
声にはしなかったけど心の中は「え、思ってたのと違う。やばいやばい。完全にAの好みだ」と困惑していた。
最後は持参した洋服の選択。
「ああ!これ良いじゃん」とAが手にしたのは白地に黒のタータンチェック柄の短めワンピースだった。肩の部分以外は袖のないタイプで、夜の店でお姉さんが着てそうな感じだった。
「それ、し〇むらのバーゲンで1000円だったんだよ!衝動買いしたやつ」
「だからか、かりんっぽくないもんね」
なんて、貧乏学生トークをしながら最後の仕上げにかかった。
「かりん、良いよ!すごく良い!!」
そう言って、全体写真と顔のアップの写真をAは撮っていた。
私も、自分の携帯に画像を送ってもらった。
「こ、これは!」
20歳の夏、ギャルデビューしたのだ。
ギャルになった自分を、私は初めて見た。
意外にイケる、と調子にのった。
もう、スヌーピーのお財布をこれで持っていては逆におかしいだろう、という感じだった。
Aの家を出て、その姿ですすきのを歩いて帰るとまるでこれから出勤するお姉さんのようで、興奮した。
家に帰っても、何度も全体を鏡で見て、写真に撮っていた。
本当に良い経験だった。
〜番外編〜 (お暇でしたら見てください)
でもやっぱり、彼女との一番の思い出は中学校の登校事件だと思う。
校則が厳しいため、セーラー服のスカートはひざ下10センチくらいで、田舎の中学生まるだしな感じだった。もちろん、Aもすっぴんだった。
ある日、いつものように三人で登校していた。もうあと10分くらいで学校に着くかという頃に、Aが青ざめた表情で「トイレに行きたい」と言い出した。
これは、もう直前まできているやつだ。しかも、この顔はシャレにならない方のやつだ。
我々はすぐに状況を察した。
とにかく、違うことに考えを巡らさせようと“遠くを見て”“少し早歩きして”など言いながら一番危険な事態を招かないよう必死になった。
だが、彼女は生と死をさまようかのような雰囲気になっていた。
当時、少しお笑いよりだった彼女は変な表情をしてごまかそうとしたりしていた。
もう、いつものようには笑えなかった。
少し歩くと、彼女の大好きな男子生徒の家が見えてきた。彼はジャニーズ系の顔立ちの大きなクリッとした目をして、中分けのツヤツヤ髪が似合う男子だった。
我々は、もうあの家に頼るしかない。と決断し、勇気を出してお手洗いを貸してもらうことにした。
やがて、彼女はなんとも言えない笑顔で家から出てきた。
さっきまで、大好きな男子の親御さんに必死の形相でお願いをして済ませた後とは思えない。
なんだか、綺麗な青春時代ではないけれど。意味もなく馬鹿みたいに楽しかったなと思い出す。
ギャル画像は、二つ折り携帯時代に撮ったのでもう残っていない。でも、今見たら眉毛とかめっちゃ細いんだろうな(笑)
もし、おばさんとなった今、あれだけの化粧をしたらミッツ・マングローブさんの仲間かと思われるはず。
あの時やっておいて、本当によかった。
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