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かりんのかんづめ 〜犬のクロ〜


「近所の空き地に犬が捨てられてた。ねぇ、お願い。飼っちゃダメ?」
 弟と近所の友人で外遊びをしていると、捨て犬を見つけることがあった。今の時代は少なくなったかも知れないけど、私の子ども時代は段ボール箱に小さな犬や猫がまれに捨てられていて。
 小さな子どもの我々は、すぐに抱きかかえて時間も忘れて一緒に遊んでいた。
 大体が生まれてそれほど過ぎていない子犬なので有無を言わせぬ可愛さで。その後も家から黙ってミルクを持っていくと、美味しそうに飲んでくれる。
 何度もその段ボールのとこへ行って遊ぶうち、ずっと側にいてほしくなってしまう。

 当時は、犬を飼うというのも自宅内で育てる人はそこそこ裕福な家庭の人だった。大抵は自宅の玄関前に犬小屋を設置し、犬の動ける範囲はリードの長さまでで、散歩の時間のみが自由に動き回れる瞬間だった。
 犬小屋なんて最近はほとんど見かけなくなってしまった、もしかしたら今の若い人は犬小屋を見たこと自体ないかもしれない。



 私と弟は、今までになく可愛い黒い小犬を見つけてしまった。過去に何度かダメだと言われているので、飼えないことはわかっている。

 それでも、何度もミルクを与えにその場所へ向かった。
 そのまま、なんの奇をてらうこともなく、真っ黒なその子を「クロ」と呼んで秘密で飼っている気分になった。

 そのうち、クロは私たちの自宅前に居住するようになった。
 首輪もつけていないし、犬小屋もない、もちろん家の中にも入れていない。

 母と父は、まいったなと思っていたに違いない。違う犬で何度か両親に懇願した時、経済的にも世話をする大変さを加味してもまったくとりあってもらえなかった。

 しかし、クロはあまりにも小さくて可愛かった。玄関から追い払われることはなく、そのうち、ミルク以上のものを家族で与えるようになった。
 反対していた父も率先して食べ物を与えていた。

ここから、うまくいけば飼えるかもしれない、という淡い期待を抱くようになっていた。
 
 
 気づくと夏から秋になっていた。家族の情で住み始めたクロがいきなりいなくなったのだ。
 捜しまわったけれど、なかなか見つからなかった。

 こんなに小さな田舎町で見つからないなんて。一抹の寂しさを感じたけれど、首輪もつけていないしとっても小さいし、いついなくなってもおかしくなかった。

 やがて冬となり。例年と同じように雪がしんしんと積り、日本海沿いの地元は北海道の中でも吹雪がすごかった。
 年が明けて、冬休みが終わり小学校へ登校の最中、向こうから二匹の犬がやってきた。  

 私は驚いた。一匹は大きな真っ黒の犬だった、その隣には小さな黒い犬。
 そう、クロだった。少し大きくなっていたけれど、きっとクロだ。
「クロ?クロなの?どうしたの、また来てくれたの?」
 たくさん撫でて、再び会えた喜びを笑顔で伝えた。
「あなたはお母さんなの?お母さんも来てくれたんだね」

 クロは元の飼い主に再び飼ってもらえることになったのかも知れない。二匹は、私にそのままついて来てくれ、学校まで付き添ってくれた。
「じゃあね、ありがとう」

 それ以来、クロに会うことは一度もなかった。
家に帰って、母にその話を感動いっぱいで伝えた。
「こんなことあるんだね、クロは最後に会いに来てくれたよ。親にも会わせてくれたんだよ」

 子ども心に、昔話で聞いた鶴の恩返しのようで心が温かくなった。 

 人でもありがとうの言葉も発せず、してもらって当たり前と思ってるのかな?という人もいる中で、クロがしてくれた事は一生忘れないだろうなと思う。







  余談になるが、厳しい我が家でも唯一、ハムスターだけは飼わせてもらえることが出来た。 従妹の家で飼っていたことをきっかけに飼うこととなった。
 夜行性なので、夜になると回し車に乗って
猛ダッシュをかます。カラカラカラカラ、ものすごい勢いで走るので、我が家のリビングに音が響き渡った。

 寝室は二階だったため、とくに支障はなかったけど、手のひらより小さなハムちゃんが生き急ぐかのようなその姿は凄まじかった。

 可愛くて毎日触れていた、餌やりも頑張った。

 ハムちゃんがいつもいる場所にお布団を置こうと独断で綿を敷くことにした。これで温かいに違いない。

 ある日、ハムちゃんは固く冷たくなっていた。
父はハムスターは命が短いんだよと言った。


 だが、ハムちゃんは綿を食べてしまったことが要因だったようで、それは綿100%ではなくポリエステルだったのだ。
 私は無知だった、良かれと思ってしたことが大失敗だったのだ。もうハムちゃんは飼わないと決めた。

 ハムちゃんを可愛がって遊びに来てくれていた小さな男の子がいた。右斜め向かいの家の子だった。明るくて元気いっぱいで、まんまるとした目をした可愛い子だった。
 いつものようにハムちゃん見たい、と言うのでハムちゃんはもういないことを伝えた。  

 男の子は確か、まだ小学校にあがっていなかったように思う。
 すぐにまたやってきて、大きな目をキラキラさせ、片方の手を出してこう言った「これでハムスター飼ってよ」と、手のひらを見ると十円玉が一枚。

「もう、二匹目を飼う気持ちはないよ。それに、そのお金じゃ足りないよ」
「えー、そうか。飼えないか」

私も彼も無知だった。
 
 生き急ぐかのように猛ダッシュをかましていたハムちゃんは、飼い主がお馬鹿だと気づいて、今を一生懸命生きていたのかもしれない。

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