ショートエッセー 「本物は常にそれらしくない」

パリ五輪、エアピストル10m、トルコ代表のこのオッサンのシューティングスタイルはコンペティションシューターのそれではないと思っていたら、案の定、バリバリの軍人さんとのこと。

 しかもこのオッサン、オリンピック選手としての練習はほとんどしていないらしい。さらに通常の精密射撃では標準となる集中力を高めるためのギヤ(装具)は雑音を遮断するためのイヤープラグ以外一切装着していない。

 Tシャツとトラウザーというカジュアルないでたちは、散歩の途中で射的場に立ち寄ったといった感じで自然体の極致。

 しかし一旦銃を構えた後のホールドは一切のブレもなく、そして驚くのは精密射撃の常道である片目撃ちではなく両目を開けてのシューティング。実戦で片目を閉じて射撃に集中すると、敵の接近や周囲の状況変化に気づかず致命的な結果にも招くことにも成りかねない。そのことからしてもこのオッサンが実戦で鍛え抜かれたプロ中のプロであることがうかがえる。

 さらに、射撃の際の顔面の位置。セルビアの選手が照準線を見下ろす形で、やや上からのエイミングになっているの対し、このオッサンは視線と照準が完璧に一直線になるような顔面配置を保っている。これはまさに実戦射撃で言う「指差すように照準する」"Instinct Shooting"そのものであり、これまた実戦経験がなければ為し得ない射撃テクニックである。

 そして結果はほぼⅩX(テネックス)、つまりど真ん中。

 やはり本物は常にそれらしくなく、そして自然体でさりげない。

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