カーコラム「NISSAN BNR32 SKYLINE GT-R 備忘録 Part.8」
BNR32型GT-Rのこだわりは動力性能や操縦性を支える機能パーツのみならず、インテリアやエクステリアにも及んでいる。
GT-Rのデザインコンセプトはズバリ " 走り " である。
デザインワークが開始された当初は4/1クレイモデルが2台用意され、8代目スカイラインのオリジナル・デザインの発展型と、全く新しいデザインとの通りのアプローチが試みられた。
しかし、GT-Rはニュースカイラインのフラッグシップカーであり、であるが故にデザインもオリジナルの延長線上にあるべきという統一見解のもと、オリジナルの発展型での方向でデザインが進められた。
デザイングループに与えられた課題は、CD値(空気抵抗係数)よりもエンジンの冷却性能の向上とダウンフォースの確保であった。
また、フェンダー部分に関してはオリジナル・デザインとの格差をつけないという方向性がだったため、Gr.Aレースで使用されるリム幅10インチのホイールが収納可能な範囲でブリスター化する事が決まった。
エンジン冷却とダウンフォースは、フロント部分のエア導入口の開口面積とその形状に大きく影響される。
レース仕様のRB26DETTエンジンは、その出力が600PS以上と予測されていたため、ラジエーターやインタークーラー、それにブレーキといった発熱部分の冷却が重要なポイントとなってくる。
冷却性能を考慮すると必然的に前面の開口面積は広くなり、フロント部分は穴だらけになる可能も出てくる。デザインと機能との調和をいかに図るか、デザイン部門の力量が試された。
デザイン初期の段階ではボンネットやフェンダー部分のエアバルジも検討された。さらに、バンパー部分のみに穴を開け、グリルに関してはオリジナルのグリルレスも検討されたが風量が足らず、結局伝統的な2本のルーバーを持つデザインに落ち着いた。
冷却面と共に、最重要課題として重くのしかかって来たのが空力特性の向上だった。
GT-Rに要求される空力は、すべてがレース走行で不可欠なものである。その中には250km/hオーバーでの操縦安定性、高速コーナリングや急激な制動を行った際に必要な高い接地性能やトラクション性能の確保なども含まれる。
そこで採用されたのがCL(揚力係数)優先型のボディフォルムである。
GT-RはFRベースに4WDなので、前後のダウンフォースのバランスが特に重視された。
まずメインの駆動輪である後輪には、強力なダウンフォースをかけるため、飾り物ではない実用的なリヤ・スポイラーが開発された。
開発にあたっては徹底的な風洞実験が行われ、スポイラーの高さや翼形状、それに門型の脚の形状に至るまで細かくチェックされた。
当初のデザインはCLR(リヤ揚力係数)は0、つまりリフト0という形状であったが、GTS-Rの実戦データから、そのレベルでは不十分である事が判明した。結局、最終仕様のスポイラーではCLRは-0.15まで改善された。これにより、最高速度領域ではおよそ100kgのダウンフォースを発生させる事に成功した。
リヤ・スポイラーに関しては可動式も検討され電動ユニットも試作されたが、結局固定式が採用された。
リヤのCLと同時進行でフロントのCL(CLF=フロント揚力係数)の改善も行われた。
しかし、フロントはエンジンルームへ流入する空気の量が増加するほどCD、CL値とも悪化するため、効率良くエアを導入しながらCLFを下げるとう事が至難の業だった。
しかし、デザイングループは試行錯誤の末、見事にそれを成し遂げたのである。
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