カーコラム「ISUZU PF60型ジェミニZZ Rの思い出 Part.6」
PF60型ジェミニZZのサスペンション形式はフロントがダブルウィシュボン式独立、リヤがトルクチューブ付きの3リンク式リジッドである。
構造そのものはSOHCエンジンを搭載するLSと同一のものだが、そのセッテイングがかなり異なっていた。
特にスパルタンモデルのRはスパルタンな仕様で、フロントの高バネレート化や前後のスタビ径の変更などによりハードなセッティングが施された。
いすゞは凝性(こりしょう)というかオタッキー且つマニアックなメーカーで、変な部分にやたらこだわる癖がある。
そのいい例がジェミニのリヤ・スプリングだ。
国産車の同一クラスではほとんど使われない「不等ピッチ」を採用しているのだ。
不等ピッチとは、わかりやすく言えば一本のスプリングに巻き間隔が広い部分と狭い部分が混在するスプリングのことである。
このタイプのスプリングは、路面からの微小入力や初期ロールに対しては巻きの密な部分が受け持ち、大入力や旋回Gの高いコーナリング領域では巻きが粗い部分で対応するという「マルチバネレート」的特性を持っており、優れた乗り心地と高い操縦性を両立させることが可能となる。
このリヤスプリングの特徴はジェミニの操縦性にもよく現れており、コーナーの入り口で舵をあてた瞬間の回頭性はリニアだ。
これは操舵によるフロントのヨーの動きにリヤのスプリングがクイックに反応しているからに他ならない。
そのため、的確な進入スピードで進入し、最適な舵角とアクセル開度を保てばまさにオン・ザ・レール的なコーナリングが可能だ
ZZはリヤスプリングの特性上、コーナーリング中はリヤがやや沈み込んだ(スコート気味)のフォームとなるため、高いGがかかる高速コーナーではフロントの接地感が低下する傾向が見られる。
そのため、クリップに付く直前、あるいはクリップを抜ける直前に不用意なパワーオンやステアリングの切り足しをすると、とてつもない大アンダーステアとなってしまう。
LSDを組んでいるとその傾向(アクセルオンによるプッシングアンダー)は一段と強まるので注意が必要だ。
また、リヤのサスペンション形式独自のクセもある。
3リンク式サスペンションは、当時のヨーロッパの小型車では好んで採用された形式である。
この形式、シンプルでありながらロードホールディングもそこそこという、極めてコストパフォーマンスに優れているのだが、スポーツ走行などで攻め込んでゆくと欠点が露呈する。
斜めに配置された長いラテラルリンクは曲者。激しいコーナリング中では、いわゆる「ホチキス現象」が生じ、ワインドアップにより接地性が低下する。
ZZを速く走らせるには、まずはロードホールディング性に優れたサスペンションを生かしたハイスピードグリップ走行が基本となる。
どうしてもドリフトしたい場合には、まずはコーナリング手前できっちりと姿勢を作ること大切なポイントとなる。フェイントでもブレーキでもいいから、ともかくコーナー手前でケツを振りだす事が重要。
PF60型の中でもZZは重いG180WE型エンジンを搭載しているためフロントヘビーで、基本的に強アンダーステアなクルマなのだ。
最後に、PF60型ジェミニの足回りは前後ともストロークが少ない(要は足が短い)サスペンションなので、旋回性能を向上させるためには「固める」方向しかない。ハイバネレートのスプリングとそれを制御できる強化ショックアブソーバー、そしてハイグリップタイヤ、いわゆる「三種の神器」によるチューニングが最も効果的且つ劇的に走りを変える。そういった意味では極めてクラシカルなクルマと言えるだろう。
でも、それが80年代マシンの魅力でもあるのだ。
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