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Essay

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鳴海邦彦が思いつくままに、そして気ままに綴るフリーエッセー。
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#ショートエッセー

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緊急寄稿 「追悼 アラン・ドロン」

 いたいけな中学生だった1973年、日本で大ヒットしていたのがこの曲「アラン・ドロン&ダリダ 甘い囁き」である。  フランスの人気女性歌手ダリダと、当代きっての色男アラン・ドロンが、アンニュイな旋律に載せて甘い言葉のやりとりを繰り広げる(と、いってもドロンが一方的に囁き、ダリダがそれをガン無視して男に対する失望感を歌い上げる、と言った方がより正確)甘くアンニュイなこの曲は、多感な中学生のリビドーを激しく刺激し、ある天啓を与えた「そうだフランス語だ! フランス語で口説けば女にもてる!」。中学生ならではの赤坂、否、あさはか且つ短絡的な思考である。  その時から、いたいけな中学生は真剣にNHKのラジオフランス語講座を聞き始め、高校に進学する頃には日常会話初級のレベルにまで上達していた。不純なモチベーションほど強いものはない。 しかし、なぜか大学時代の第2外国語はドイツ語。やはりニュルブルグリンクは強かった。 冗談はさておき、アラン・ドロンの甘い囁きは男性でも鳥肌が立つ。自分がもし女性でドロンに言葉攻めされたら瞬殺状態で落されてしまうだろう。 しかし、ダリダは、「パローレ パローレ パローレ(言葉だけ、言葉だけ、言葉だけ)」とつれない。さすが酸いも甘いも噛み分けた百戦錬磨のフランス熟女は違う。 「ガ~ラメン ボンボン エ ショコラ~」甘い言葉だけ。何とも痺れる大人の男女の駆け引き。 フランス語特有の言霊は、女性の心をダイレクトに刺激する。 R.I.P アラン・ドロン 享年88歳

ショートエッセー 「ネガティブな思考」

 通常、1日の内におおよそ4000種類の思考が人の頭脳を巡るとされている。  そのうちの22~31%が、制御できずに頭に浮かんできてしまう好ましくない思考で、またそのうちの96%が何度も繰り返し浮かんでくる。  クリーブランドの健康増進プログラムによると、浮かんでくる思考の実に95%が何度も繰り返され、その80%がネガティブな思考であるとされる。

ショートエッセー 「細胞」

 肉体の細胞は、恐るべき速度で入れ替わりながら組織再生が進むようになっている。  肉体には実に37兆個ほどの細胞がある。現在知られている銀河の星の数よりずっと多いこれらの細胞は、古くなったものが死んで常に新たな細胞に入れ替わり、1秒ごとに実に81万個以上に及ぶ細胞が入れ替わる。例えば、1日あたりに体が作り出す新たな赤血球は1兆個だ。  動脈や静脈をめぐって体内の細胞に酸素と栄養分を運んでいる赤血球の寿命はおよそ4か月で、寿命を終えた赤血球からは肝臓で重要な要素が取り出され

ショートエッセー 「中華そばの至宝 "竹むら"」

   目黒 権之助坂の”中華そば 竹むら”の中華そばを食すと、改めてラーメンとは総合芸術であることを痛切に感じる。  大山地鶏や椎茸、昆布から抽出された出汁が渾然一体となり見事なまでの調和を見せるコクと旨味が凝縮されたスープ。  最高品質の国産小麦粉を数種類配合して作られる、香り高くコシのある食感豊かな自家製麺。  最高濃度の黄身が自慢の味玉。歯ごたえが楽しめる太い自家製メンマ。柔らかく、低温調理の手法により仕上げられた噛むほどに味わい深いチャーシュー。  そして作

ショートエッセー 「機能美こそ究極の美」

 基本的にEyewear(サングラス)は、最低でも米国国家規格ANSI Z87.1をクリアしたものでないと着用しない。  米国国家規格ANSI Z87.1とは、厳格で有名なアメリカ国家規格協会で定められている工業規格である。  サングラスの適用規格として下記の7点。 ① 光拡散力= 光を拡散させるレンズに対してどんな角度で光が入り込んでも、対象物を正確な位置にとらえる事ができる。 ② 不均衡な分光= 左右のレンズで光の屈折が違う場合、目に映る像が1つの像として捕まえに

ショートエッセー 「粛々と淡々と」

 情熱があって何かを始める人なんてほとんどいない。普通は何気なく始めたことに無意識のうちにのめり込んで、そこから情熱が生まれる。  自分に何が向いているか考える暇があったら、眼前にある仕事を粛々と淡々とこなしゆくことに専念すべき。  こなした仕事が実績となり、その結果が評価となる。

ショートエッセー 「P.R.S技法」

 戦争は「起きる」のではなく「起こす」のである。最近はP.R.S技法という社会工学的手法を駆使している。  因みにP.R.Sとは「問題(Problem)→反応(Reaction)→解決(Solution)」の頭文字を組み合わせたもの。  P.R.S技法=ヘーゲルの弁証法、と理解すれば間違いない。  その具体的手法は、 ① 問題をわざと作り出す。 ② 危機回避による脊髄反射を起こす。 ③ 混乱に陥れ判断力や理性を喪失させる。 ④ 彼らが望む解決策を予め用意し、早く

ショートエッセー 「非ゼロ和ゲーム」

 ゲーム理論においてはゼロ和ゲームと非ゼロ和ゲームが存在する。  ゼロ和ゲームとは、例えばAとBの対立において、最終的にはAあるいはBのいずれかが勝利を収め終息するというゲームである。これはこの世のほぼ9割にあたる事象が当てはまる。  対して非ゼロ和ゲームとは、勝者も敗者も存在せず、利害が一切生じなないゲームである。具体的な例として挙げれば、地球規模での全面核戦争や地球的規模での制御不能な感染症の拡大がそれにあたる。  現在、地球的規模で進行しているグレートリセットは、

ショートエッセー 「女神が見守る街 ニース」

 南フランスのNICEは古代ニカイア人により造られた街である。  ニカイアとは「ニケの街」という意味で、街の守護神としてギリシャ神話の勝利の女神「ニケ(NIKE)」が祀られている。  プロムナード・デ・ザングレから旧市街に抜ける海岸通り沿いの広場には、塔頂に女神ニケを頂くモニュメントがある。  因みに、スポーツシューズメーカーのNIKE(ナイキ)もリシャ神話の勝利の女神「ニケ(NIKE)」由来のネーミングであり、ロゴマークもニケの代名詞である美しい羽をモチーフにしている

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ショートエッセー「"Enter The Dragon(燃えよドラゴン)" The Art of Fighting Without Fighting. 」

ハン主催のトーナメントに赴く船上で、同じくトーナメントの参加者であるニュージーランドのパーソンズに"お前は何流だと?"と問われたブルース・リーはこう答える。 "You can call it the art of fighting without fighting." (戦わずして戦う技術と言ってもいい。) これぞまさに孫子の兵法。

ショートエッセー 「他者に畏怖と敬意を持て」

 世の中、自分のことを知っている人間よりも知らない人間の方がはるかに多い。  物凄い数の友人・知人がいると豪語する人間でも、地球規模で見ればその数は全人口のほんのわずかに過ぎない。  が故に自分は初見の相手に対峙した際には常に敬意と畏怖の念を持って接するようにしている。  翻ってみれば、日本人ほど見てくれや年齢、人相、風体、そしてなによりも肩書で人を判断する輩が多い国は他に例に見ない。  その手の輩は、いずれ致命的な判断ミスを冒し、自ら墓穴を掘ることになる。  取る

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エッセー「追憶のコリン・マクレー」

偉大なる英雄ジミー・マクレーを父に持つコリン・マクレーは、ラリードライバーになるべくしてこの世に生を受けた生粋のサラブレッド、ラリーの申し子である。  かつてコリンはこう語った「ペダルは何でも床まで踏むものだ。」  コーナーは常に真横。その豪快な走りで常にマシンを限界まで攻め立てた。  リタイアか優勝か、典型的な天才肌のドライバー。  何事にも怯まず、果敢に挑戦していゆく姿勢はまさに"ハイランダー" 、スコットランドの誇り至宝であった。  そのコリンが2007年9月15日、自家用ヘリを操縦中に自宅近くで墜落、39歳の若さで急逝した。  突然の悲報に世界中が悲しみに包まれた。  しかし、コリンの豪快な走りは今でも多くのラリーファンの脳裏に鮮明に焼き付いている。  その英雄譚は永遠に語り継がれだろう、孫子の代まで。

ショートエッセー 「Just not today」

 その昔、取材でアフガニスタンに滞在中、基地内のバーで呑んでいる時、友人のアメリカ海軍特殊部隊Navy Seals隊員が言った言葉が今でも胸に深く刻まれている。 We are going to die. You're going to die, I'm going to die, we're all going to die. just not today. 「我々は死に向かっている。君も死ぬ、俺も死ぬ、皆死ぬ。だが今日ではない。」 R.I.P. PJ

ショートエッセー 「走り屋」

久しぶりに夜の箱根を走った。 奥湯河原から大観山を経て芦ノ湖へと至る県道75号線、通称「椿ライン」。 今を遡ること30年前、毎晩のように走ったホームロードである。 攻めたわけではない。ひとコーナーひとコーナー、昔の思い出を慈しむ様に走った。 驚いたことにほぼ全てのコーナーを憶えていた。 しかもコーナリングラインがはっきり見えた。 「俺、まだいける。」 大歓山の駐車場にクルマを停め、夜空に輝く満天の星を見上げ確信した。 走りへの熱き思い。荒ぶる走りへの渇望。 「