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22.國部龍太郎 その人とvol.7 -唯一無二の存在-

真面目3、スッキリ2、残り5はリンゴ、カラーは無しで


問題。このレシピは何でしょう?






チーン


時間切れ


正解は、前回美容院で美容師さんに伝えた國部の髪型のオーダー。お店で席に着くなり、本当にこのまま伝えた。

いやいやそれじゃ伝わらんやろ。
雰囲気伝わっても変な感じになったらどうすんの。
「リンゴ」ってなんやねん。

というツッコミの声が聞こえてきそうだが、なんでこんなことになったか、今回は國部龍太郎32年の人生、美容院を軸に「美容史」を振り返ってみる。

1. 落ち着きの無さは生まれつき〜キッズサロン編
2. 血まみれの青春〜ハイチュウ編
3. 大都会の洗礼〜ヒエラルキー編
4. 14年目のビートルズ〜ワンアンドオンリー編

1. 落ち着きの無さは生まれつき〜キッズサロン編〜

突然だが僕は映画が見られない。

正確に言うと、映画館で見るならその非日常感で最後まで見ることができる時もあるのだが、友達の家などで映画を見ると100%の確率で寝てしまう

そう。僕は生まれつきじっとしていられない体質。
お酒を飲まずに昼間に見ていても、
どれだけ面白いと言われているものでも、
彼女と体を寄せ合いながら見ていても、
映画が始まって30分以降の記憶がほとんどないことが多い。

2時間以上一つのことだけに集中して座っているということができない

なのでどうしても見たい映画があった場合は、漫画や本を読みながらだったり、車の運転だったり「ながら見」という手段を取らなければいけない。1人で見るならそれで良いのだが、誰かと一緒に見るとなると「こんな奴が隣にいたら興醒めだろうな〜」と思うので映画だけに集中する。その結果、僕が寝てしまうので結局みんな興醒め。その後に感想の言い合いなんてもっての外である。

とは言え、じっとしていられなくても、寝てくれるならまだ良い。子供の頃の僕は人一倍注意散漫で、髪の毛を切っている間、美容院の椅子に座っていられなかった。親はロープで縛りつけたかっただろう。

どうしたものかと困った親はキッズサロンなるものを見つけた。家から車で20分ほど離れた巨大ショッピングモール内にあるその美容院では、椅子がスーパーカーになっており、席の前には1人1台TVモニターがあってアニメがずっと流れている。それでも泣いちゃったりグズる子供には、さらに大きなキャンディーが与えられる。

子供にとって夢のような空間だ。嫌いだった散髪が一気に好きになったのを覚えている。髪が伸びてもいないのに事あるごとにせがんだ。僕にとっての美容院は「車に乗れて、アンパンマンに会えて、キャンディが食べられる」特別な空間だった。


2. 血まみれの青春〜ハイチュウ編〜

何歳で切り替わったか覚えていないが、物心がついた頃にはキッズサロンを卒業していた。落ち着きの無さを理性で抑えられるようになった小学生の頃には、最寄りから電車で3駅先のお店まで一人で通うようになる。

ただし、そこは美容院ではなく床屋(理容院)だった。僕の中高時代の髪型は、本シリーズの過去作を見てもらうと分かるようにずっとスポーツ刈りだったので、高いお金を払って美容院に行く必要などない。

その床屋は800円という破格のロープライスで、しかも子供なら帰り際にハイチュウがもらえた。しかも1粒に小分けでパッケージされたものではなく、なんと1本丸ごと12粒。これは糖分を1mgでも多く摂取したい少年たちには最高のサービスだ。1週遅れのジャンプが読めるのも嬉しい。「火の鳥」や「ミナミの帝王」といった成人向け漫画を毎月読み進めるのも楽しかった。


そんな思い出に耽っていたら、嫌なことも思い出した。

当時成長期真っ盛りの僕の肌にニキビが多かったことが原因なのか、理容師さんの腕前がそのカット料金に見合ったものだったのか。

首とか耳とか結構流血してました。

ハイチュウは理容師さんの懺悔の気持ちだったのかもしれない。糖分には代えられない。そのためなら喜んで血を流そう。

最後にフワフワしたヤツでベビーパウダーをかけられるのが気持ち良かったな。当時は意図が分からなかったけど、あれは髪の毛が均等に刈り上げられているかチェックするためなんだって。


3. 大都会の洗礼〜ヒエラルキー編〜

時は流れ、1年の浪人時代ののち、僕は大学進学のため大都会・東京に上京することになる。新生活に胸膨らませた僕だが、何をおいても一番楽しみにしていたのは、一人暮らしとかではなくスポーツ刈りからの卒業だった。

当時住んでいたのは大田区、目黒区あたり。大学では絶対に美容院に行くと決めていた。床屋も嫌いではないが、お年頃の僕は髪の毛も染めてみたいし、パーマもあててみたかったのだ。それにもう無駄な血は流したくない

とは言え、今ほどネット検索は簡単ではないし、大学の友達も僕同様お上りさんばかりだから、誰に聞いても良い美容院が分からない。どの美容院を選ぶかは、これから大学デビューを目論む僕にとっての死活問題だった。


そして失敗した。



選んだ美容院は都内にいくつか店舗を持つチェーン店。自由が丘というオシャレタウンにあるチェーンの美容院。外しようがない選択に思えるが、あの日の悲しみは今でも鮮明に覚えている。

入店するなり、受付の女性の勢いにいきなりパワー負けする僕。ウチに来る資格があるかどうか品定めされる僕(妄想)。これが都会のパワーか。

この中から選んでください」と美容師さんの顔と名前が書かれたパネルが差し出される。名前の横には見たことのない横文字。どうやらその美容師さんのランクが書いているらしい。それだけでもカルチャーショックなのだが、ランクがあるということはつまりカットの価格が異なる。

え、都会ってそうなの?いや、美容院ってそういうところなの?

学校や職場だけではなく、美容師の世界にも生々しいヒエラルキーがあった。一体何を基準に選べば良いのだろう。当時の僕はセンスも情報もお金も経験も何も持っていない一人の大学生だったが、そこで一番低価格の若手美容師さんを選べていたらどんな仕上がりでも諦めもついただろう。

唯一持っていた自尊心が出した答えは、ヒエラルキーのトップに存在するカリスマだった。

オチだけ言うと、マツケンサンバⅡの振り付けを考えた真島さん似のクセ強おっさんに圧倒され、自由が丘のスイーツな香り漂う綺麗なスポーツ刈りにされた。頼んでもいないのに細ーく揃えられた眉毛(有料オプション)の國部は、誰もいないアパートに帰って一人で泣いた。


4. 14年目のビートルズ〜ワンアンドオンリー編〜

涙の夜を越えて、僕はリサーチの鬼になった。自由が丘の美容院を全て調べ尽くし、いくつか絞った上で店の外観を見て回り、あるお店に辿り着いた。

そこは駅から少し離れた住宅街の中にあるシャレオツなお店。そのお店のカット料金は、前回のチェーン店と比べても2倍、ハイチュウ床屋に至ってはなんと6〜7倍もする。貧乏学生にとっては敷居の高いお店だったが、背に腹はかえられない。ここでダメなら美容院は諦めようと、覚悟を決めて入店。

ただ、それはとてもいい選択だった。店内の雰囲気はお洒落でありながらとても居心地がよく、スタッフも皆良い人そうなナチュラルな雰囲気。間違っても勝手に眉毛を剃ってくる人はいなそうだ。都会に飲まれビビりまくる僕の警戒心を優しく解いてくれた担当のKさんには今でも感謝をしている。

「どんな感じにします?」

そう聞かれた僕は待ってましたとばかりに携帯の画面を見せてこう言った。

リンゴ・スターでお願いします。

これが今につながるマッシュヘアーのはじまりだ。

美容師はコロコロ変えずに、良い人に出会えたらずっと同じ人に頼んだ方が良いというのが僕の持論。利点はいくつかあるが大きく二つ。

「初めまして」の会話をする必要がない
性格、好み、趣味を熟知しているので、毎回細かい指示をしなくて良い

これに尽きる。美容師さんに限った話ではないが、初めて話す人とのやりとりに必ずついてくる自己紹介タイムが苦手だ。寝たフリや雑誌を読んでるフリでもすれば良いのだろうが、毎回1時間弱も気まずい思いをしたくない。

同じ美容師さんなら、前回からアップデートした情報だけ伝えれば良いし、気が合う人だったら趣味の話で盛り上がる。関係ができれば「今日は疲れてるので寝ます」と気を遣うことなく伝えることもできるようになるだろう。

また髪型のオーダーにしても、センスやこだわりがある人なら細かくできるのだろうが、僕みたいに髪型にこだわりはない、でもおしゃれでいたいというフワッとした人間に髪型のオーダーほど難しいことはない。同じ美容師さんなら毎回微調整をして、理想のイメージに近づけることができるし、回数を重ねるほど、自分と美容師さんの間に阿吽の呼吸みたいなものが生まれ、ちょっとしたワードで自分のやりたいイメージが伝わるようになる。

Kさんには1年ほどお世話になってめでたく産休に入られたので、同じお店のNさんに引き継がれた。「Nなら國部君に合うと思う!」というKさんの言葉通り、Nさんとの相性も良く、10年以上経った今でもお世話になっている。

Nさんは同系列の表参道店にいたので、それから僕は表参道に通うようになった。そして、僕が東京から伊豆に引っ越してからも、出張や遊びのタイミングに合わせて、伊豆から表参道に通い続けた。月一回のタイミングで必ず会う存在というのは、考えてみたら美容師さん以外他にはいないのではないだろうか。

大学での挫折芸人生活のあれこれ新天地伊豆でのチャレンジ、その全ての局面で僕はNさんに全てを話し、時には相談した。そしてNさんはいつも僕の背中を押してくれた。


逆もある。

自分のお店を持つことが夢だったNさんは、表参道の大きなお店から町田の小さなお店に転職し武者修行することを決めた。伊豆からしたら表参道も町田も変わらない。というより町田の方が近い。僕はNさんについていった。

町田に通い始めて2年、Nさんは晴れて独立し、経堂で自分のお店を立ち上げた。僕は今、三島から経堂まで片道2時間かけて通っている。

表参道〜町田〜経堂に至るまで、自分の夢だったり、家族が増えたり、コロナの影響だったり、Nさんの中にも色々な葛藤があり、いつからかNさんから僕に悩みを相談してくれるようにもなった。お互いの夢を語る1時間弱の時間が、僕にとっては何ものにも代え難い日常の一コマになっている。

Kさん、そしてNさんは、都会の洗礼を受けて落ち込んでいた僕にとって、毎回ちょうど良い距離感で接してくれて、言葉にせずとも好みを分かって形にしてくれる存在だ。美容師はその人にとっての「唯一無二の存在」になれる素敵な職業だなと思うし、そう思える人に出会えて本当に良かった。






経堂で髪を切っているという話をすると「なんでわざわざ?」ということをよく言われるのだが、その理由と経緯を今回書けてスッキリした。そして、何度も言うように今は絶賛転職活動中なのでオーダーの中に「真面目」とか「スッキリ」とかいう、今までに無かったワードが入っている。

「転職うまくいくように気合い入れて切るね!」

Nさん、いつもありがとう。僕もこれからチャレンジします。


なんか思ってたよりしんみりした内容になってしまいました。まぁいいか。

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