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オバQたこ焼き

「大阪のたこ焼きは丸いんだよ」

と、教えてくれたのは札幌のスーパーマーケット前でたこ焼きを焼いていたオジサン。

「オジサンはね、大阪で修行をしたんだ」

わたしはオジサンが何を言ってるのかわからなかった。「丸いたこ焼き」も、「大阪で修行」も。

小学生にとっては、隣のクラスすらもう異次元。子どもの視野なんてそれくらい狭い。大阪の話なんて、テレビの中の話。てか、大阪ってどこにあるの。

そんなんだから、小学生のわたしにとっては、ココのスーパーマーケットか学校傍の駄菓子屋での買い食いがオヤツの全て。そしてココでオジサンが売ってるたこ焼きが、たこ焼きの全て。他のなんて、知らないもの。

これも丸いよ?と、わたしはたこ焼きの頭に爪楊枝を刺してオジサンに言った。

ふはっと笑ってオジサンは言う。

「違うの。まん丸なんだよ、大阪は」 

わたしが箱から持ち上げたたこ焼きは、確かにまん丸ではない。オバケのQ太郎みたいな形だ。

「この鉄板は、ほら、こうやって最後はひっくり返して焼くから丸くなんないんだ」

オジサンは、たこ焼きの鉄板と焼きそばを焼くような鉄板が繋がったそれをパタパタしながら、そう言った。

でもわからない。「丸いたこ焼き」がわからない。オジサンの言うことがさっぱりわからない。いいじゃない、おいしいんだから。

オジサンは冬になると、気まぐれでたこ焼きの型でおやき(※)を焼いた。たこ焼きを買いに来る子どもたちに、嬉しそうにでもちょっともったいぶってサービスしてくれた。

「ほしい?」

うん、ほしい。オバQ型のおやきから、アンコやクリームが溢れる。しょっぱいたこ焼きを買いに行ったのに、不意打ちで出される熱くて甘いおやきにわたしは心が踊った。

もらえるのはサービスでひとつだけ。家族分まではもらえないので、これはわたしの。今日は大ラッキーだ。家に持って帰ったら弟に取られるかもしれない。たこ焼きを抱えながらの家路で、大急ぎで飲み込んだ。

そしてある日。

スーパーマーケット前から、おじさんの小さなプレハブが無くなっていた。わたしは目を白黒させた。昨日まであったのに、なんで。

それから、たこ焼きは日常のおやつではなくなった。バスに乗って隣の駅のショッピングモールへ行かないと、熱熱のたこ焼きは手に入らなかったのだ。



札幌で育ったわたしは大人になって「大阪」かどんな町かを知り、オジサンが時折こぼした「丸いたこ焼き」「大阪で修行」の意味を知る。

下がフラットになってしまうオバQたこ焼き。きっとあの形はオジサンの本意ではなかったんだろう。

白い小さなプレハブなんて、1日あればキレイさっぱり撤収できることも理解した。


あの時、オジサンはなんで丸く焼ける鉄板が使えなかったんだろう。プレハブが無くなってからもたこ焼きを焼いていたんだろうか。それなら、今度は丸い形だといい。

わたしは、他人のしあわせを想像する。頼まれてもいないのに。

オトナはたこ焼きの味のほかに、余計なことを考えてしまう。うまいまずいだけでいいのに、わざわざ余計な解釈を加えて、思い出を複雑にしてしまう。

ちょっと、めんどう。



※おやき…今川焼、大判焼のこと。北海道地区の呼び名。










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