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【#一日一題 木曜更新】 奇跡のような

山陽新聞の「一日一題」が大好きな岡山在住の人間が、勝手に自分の「一日一題」を新聞と同様800字程度で書き、週に1度木曜日に更新します。ほらいつか岡山在住ライターとして一日一題から依頼が来るかもしれないし……し…? 

姿麗しく、ぴかぴか光るその鯵には手書き札に新潟県とあった。
このスーパーマーケットには、いつも長崎か千葉の鯵が並ぶ。東京から新潟へ移り住んだ友人の年賀状に「新潟の鯵と枝豆にハマってます」とコメントがあったのを思い出した。

そのスーパーはわたしが炊事担当1年生の頃に使い倒していた東京の店で、魚売場の「調理承ります」の使い方を知ったのもこの頃。鱗を引いて内臓を出してもらうだけで丸魚の調理が楽しくなった。

で、鯵。
新潟県の鯵は、私の鯵の概念を変えた。
千葉や長崎の鯵はわりに脂がこってり、だからこそ生姜やネギの薬味たっぷり、そこに味噌だれを合わせると最高だった。けれど新潟の鯵は脂のしつこさ皆無、身に残るわずかな塩分がグッジョブ、良い香りだけが残った爽やかな味なので、薬味と味付けは最小限にして舌鼓。友人よ、新潟の鯵にハマるのも頷けるぞ。

また別のある日。
ボイルしたホタルイカのパックに「おすすめ!」札が置いてある。私にとって、ホタルイカファーストメモリーは食卓ではなく漫画で、船の上で踊り食いしていたような。(※最近は生食非推奨らしい)

いつもは兵庫のが並ぶのに、今日は珍しくも石川県。北陸出身の友人がいつぞや「やっぱり石川のじゃないと」とドヤ顔をしていたので買ってみる。

先週買ったものとは丸々具合が違う。
目玉を取り除いて口に放り込んだ。
お。これは。

ひとつ嚙み締めただけでわかった。弾力が違う。ぷりぷりの身の抵抗が心地よく、ぷつんと切れた胴体から濃厚な肝の香りが広がった。ちっともくさくなくて身が厚い。友人よ、きみの主張は正しかった。石川県のホタルイカは、兵庫のそれとはひとあじどころかふたあじくらい違ったぞ。

しかし、新潟の鯵と石川のホタルイカを見たのはそのスーパーを愛用した5年ほどでたった1度。ホタルイカや鯵を見るたびに「あの奇跡のような鯵…」と唱えたが、手に入らないからこそ美化されていた可能性は否めない。

そんなことを懐かしく思い出しながら、今日もわたしは近所で調達した瀬戸内の食材を有難く調理する。うん、いいカワハギ。この状況だって、どこかの誰かから見たら奇跡なのかもしれない。





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