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株式投資 〜米国金融引締めとインフレ〜

【本格化するFRBの金融引締め】

いよいよ6月に入ってFRBの量的引締めが始まります。最初の3ヶ月は月額で米国国債300億ドルとMBS(住宅ローン担保証券)175億ドルの計475億ドルの縮小、9月からは月額最大で米国国債600億ドル、MBS350億ドルの計950億ドルの縮小と、縮小幅が拡大する予定です。

政策金利も3月の0.25%、5月にこれまでの倍となる0.5%引き上げられ、0.75〜1.0%となりましたが、先日のFOMC議事録で6、7月も0.5%の利上げが示唆されるなど、FRBは景気の先行きを配慮しつつもインフレ抑制に向けて金融引締めを急ぐスタンスです。

【気になるインフレ動向】

市場はこれまでのところインフレはいずれ収まり、景気の決定的な腰折れも回避できる、株式市場も金融引き締めのインパクトをほぼ織り込んできたという見方に傾いていますが、果たして市場はこれから本格化する利上げと量的引締め、そしてインフレの動向を本当に織り込んだのでしょうか。

以前もツイートしましたが、まず長期金利は金融引締め局面では上下に振れながらも、上昇傾向になりやすく、一時低下していた長期金利も足元反発していますが、今後も同様の上下動をしながら基本的に金融引締め局面では長期金利は下がりづらい状況が続くと思われます。

今後のシナリオを①ソフトランディング(金融引締めによりインフレは落ち着き、景気への影響も限定的)、②ハードランディング(景気後退に落ち入り、インフレも鈍化する)、③スタグフレーション(景気後退に落ち入り、インフレも進行する)に分けると、長期金利が低下傾向となるシナリオは、②のハードランディングと思います。

FRBの立場で見ると、当然①を目指していますが、①が難しい場合は②になるでしょう。これは通貨の番人である中銀として景気の前にインフレ制圧を優先すると思われるためです。FRBにとって一番避けたいのは、なんと言っても70年代の状況と同じ③でしょう。

【インフレは落ち着くか】

ではインフレは市場が見ているように落ち着いてくるのでしょうか。兆候はあります。コロナによる供給制約で抑えられた生産や物流ですが、先日上海のロックダウンが解除され、少しずつ回復に向かう可能性があります。また、OPECも原油増産を決定し、7、8月の原油供給は現在の日量の1.5倍となる予定です。さらにこれは単純な計算ですが、これまでの急速な物価上昇によってCPIのゲタも上がっていますので、今後の前年比での伸び率自体は当然ピークアウトしやすくなります。

一方で、中国のロックダウンもいつ再開するかわからず、またロックダウンが解除されたとはいえ、生産や物流が元に戻るとは限りませんし、戻るとしても時間がかかるでしょう。また、OPECも7、8月は増産しますが、今のところロシアに配慮して9月生産分を前倒しただけで、増産発表後も原油価格が上がり続けているのも理解できます。さらにウクライナ情勢で小麦粉など食料価格や木材価格の上昇も当面続きそうです。

需要サイドでは先日発表の5月米国ISM製造業指数が市場の先月比低下予想に反して上昇するなど経済は依然強く、失業率も3.6%と歴史的低水準にあってほぼ完全雇用の状況です。また中国では今秋に5年に一度の重要イベントである共産党大会があり、コロナで痛む国内景気の浮揚に向けて金融緩和や住宅ローン金利の引下げが行われています。さらにリーマンショック以後の世界的金融緩和で世界のマネーも膨張しています。

また、より構造的な問題としては、これまで冷戦終了後、約30年続いてきたグローバリゼーションの流れが止まり、新冷戦のフェーズに移ってきたことも、今後のインフレ体質につながりかねない大きな要因と思われます。このように見ると、少なくとも当面の間は「需要 > 供給」の状況が続きやすいと考えるのが自然かと思われます。また、現在市場で想定されている利上げ幅もインフレを本格的に押さえ込むのに十分とは言えないと考えます。

【米国政策金利と物価の関係】

下図は米国政策金利とCPIの動向ですが、これまでインフレ圧力が高まった際は、金融引締めによって政策金利がインフレ率を大きく上回る水準まで引き上げられることで、インフレ率がその後低下に向かうという流れでした。これは政策金利からインフレ率を引いた実質政策金利がプラスになることで、インフレ抑制効果が出るというものですが、2008年のリーマンショック以後は世界的な金融緩和の中で政策金利が、インフレ率を下回る実質金利マイナスの状況が続いています。

この実質政策金利マイナスの状況から足元のインフレ圧力を押さえ込むためには利上げ幅、量的引締め幅、そしてそのスピードを含めて、40年近く続いたディスインフレーション時代には見られなかった金融引締めが必要になるでしょう。

また、下図は最近よく議論で出てくる米国10年ブレークイーブンインフレ率(BEI)の推移を加えたものです。10年BEIは現在から最大10年後における市場が推測する期待インフレ率を表したものですが、あくまでも市場が、現時点で推測するものなので、実際に10年後にCPIがその水準になるというものではありません(たまたま結果的にその水準になることはあります)。

その市場が推測している期待インフレ率が現在3%近辺で推移していますが、米国政策金利の方も3%程度までの利上げが折り込まれていますので、非常に話を単純化すれば、政策金利が今年の残り5回のFOMCの中で現在のインフレ率の水準に届かない3%(実質政策金利マイナスの状況)まで引き上げられ、その後10年近く政策金利の引き上げが無かったとしても、10年後にインフレ率は3%近辺に収まっていることを想定していることになります。これから量的引締めも重なるため、これまでよりはインフレ抑制効果は強まりますが、この想定は先程の最初の図からすると、やや楽観的な想定に思われます。

【銘柄選択の視点】

さて仮にインフレ圧力が続き、FRBの金融引締めが加速した場合、先程の①ソフトランディングよりは、②ハードランディングか、最悪③スタグフレーションのシナリオに近づきます。どちらも株式市場にとって厳しい状況になりますが、②の場合はまだインフレ圧力が低下すれば、今後は金融緩和に転じることができるという織り込みに市場が移るため、株式市場の回復も早いと思われ、この場合は、必要以上に売り込まれた高成長株や、将来の景気回復で業績回復が見込まれる割安株(当面景気は厳しい状況ですので、単純にPER系の割安銘柄よりはPBR系(純資産系)割安銘柄か、PEG1.0倍以下の優良割安銘柄など)を投資対象にして銘柄選択を行えば良いかと思います。

また、③のスタグフレーションの場合は、ほとんどのカテゴリーの株式にとって厳しく、特に高いバリュエーションの高成長銘柄にとっては70年代でも見られたように最悪の市場環境になりますが、インフレ環境である分、それほど体力の強くない企業でも最終商品やサービスの価格を上げやすい環境となりますので、純資産に対して十分割安な銘柄(例えばPBRで1倍以下、またネットネット株といったキャッシュ系資産比割安な銘柄など)が良いと思いますし、オールドエコノミー系で割安だけどブランド力はそこそこある企業なども良いと思います。ちなみに70年代も中小型の低PBR銘柄のパフォーマンスが良かったです。ただ、割安銘柄の選択においては財務体質が良好な銘柄(借金体質ではなく、フリーキャッシュフローもプラスな企業)を選ぶようにしましょう。

個人的には株式市場も早く底を打って本格回復に向かってほしいと思っていますが、日々の相場の動きに一喜一憂せずに、中長期的な方向性を見極めながら、買いタイミングを探っていきたいと思います。

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