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米国株式見通し

 また、米国株式について、足元の経済や市場動向をアップデートしました。本日は以下のような内容です。

①Q4決算は8割程度の企業が発表済。ポジティブサプライズ決算は多いものの、サプライズの幅は過去平均を下回り、予想EPSの下方修正も続いている。

②一方、決算に対する市場の反応は楽観的。背景には通年でのEPS増益見通しや意外と堅調な景気があると思われる。

③70年代半ばの動向と比較すると「今回の実績EPS減少は既にだいぶ進んでいる」、「インフレは企業業績にとっては決して悪くない」、「今後FRBが利下げに転じればPERが拡大する形で株価が底を打つ可能性が高い」ことがうかがえる。

④当面インフレや長期金利に上昇圧力がかかりやすく株価の割高感も増しやすい。景気や業績に対するセンチメントが改善しても株価指数は上がりづらい。

⑤しばらくレンジ内での横ばい推移を見込むが、リスクシナリオとして深刻な景気後退入りやインフレ再加速の懸念が高まった場合はS&P500で3,300程度までの下落リスクは十分あり得る。


1.Q4決算は弱いが市場の反応は楽観的

 米国株式は今月初めの雇用統計ショック以降、一進一退の展開ですが、年初来では依然堅調です。足元のQ4決算の動向についてFACTSETのレポートを見ますと、現時点でS&P500企業の約8割が決算発表を終え、その内の7割弱の企業が事前予想を上回るポジティブサプライズ決算となっていますが、EPSのポジティブサプライズ幅の平均は+1.3%と、過去1年間の平均(+3.7%)・5年間の平均(+8.6%)・10年間の平均(+6.4%)のいずれの平均幅も下回る弱い決算となっています。予想EPSの下方修正も進んでおり、今のところ12か月先予想EPSは1年前と比べて9%超、下方修正されています(図1)。

(図1)

FACTSET EARNINGS INSIGHT 2023/2/17より作成

 一方で、Q4決算が事前予想を上回るポジティブサプライズの企業と下回るネガティブサプライズの企業の決算発表後の株価の動きを見ますと、それぞれ過去5年間における決算後の株価の平均的な動きと比べて、ポジティブサプライズ時の上昇率は大きく、ネガティブサプライズ時の下落率は小さい状況で、全体的に市場の決算に対する反応は楽観的になっているようです(図2)。

(図2)

FACTSET EARNINGS INSIGHT 2023/2/17より作成

2.市場の楽観を支える増益見通しと堅調な景気

 決算に対する市場の反応が楽観的なのは、いくつかの要因があると思いますが、一つは企業業績見通しの下方修正は進んでいるとはいえ、通年べースでは依然として増益見通しになっていることがあると思います。先ほどのFACTSETレポートでS&P500の予想EPSの推移を見ますと、今のところEPS成長予想は2022年:+5.3%、2023年:+1.9%、2024年:+11.4%と、年間ではいずれも増益見通しとなっています(図3はFACTSET、図4はYardeni Research, Inc.「YRI S&P 500Earnings Forecast」。FACTSETやYardeni Researchは適宜レポートを更新しており、多くの決算関連情報などが見れますので便利です)。

(図3)

FACTSET EARNINGS INSIGHT2023/2/17より作成

(図4)

Yardeni Research, Inc.「YRI S&P 500Earnings Forecast」より作成


 また、景気が意外と堅調なことも、市場の楽観の背景にあると思います。FRBの急速な金融引締めにより、景気見通しや業績は徐々に悪化していますが、事前予想を上回る経済指標も少なくなく、景気後退入りしたとしてもマイルドなものに収まるとの見方が相変わらず多いと思われます。

 米国景気の先行きを占う指標としてよく参考にされるのが、シティグループのエコノミック・サプライズ・インデックスですが(図5。米国の各経済指標の発表値と事前予想との乖離を指数化したもので、0を上回れば、事前予想を上回るポジティブサプライズな経済指標が多い。このインデックスは景気の先行指標と言われるPMI指数に対しても先行しやすく、長期金利とも連動しやすい)、現状は+29%と、事前予想を上回る経済指標が多い状況であり、目先は景気や企業業績に対するセンチメントは改善しやすく、また長期金利も上昇圧力がかかりやすいものと思われます。

(図5)

Yardeni Research, Inc.「YRI S&P 500Earnings Forecast」より作成

3.70年代の業績や株価動向との比較

 株価は特に長期ではEPSに沿った動きになりますが(図6)、あらためて、70年代半ばのインフレ下における株価下落時(図7)と今回の状況(図8)を見比べますと、政策金利10%超えの厳しい利上げが行われ、実質政策金利が2%を超えていた70年代半ばでは、EPS(実績値)が74年夏のピークから75年夏の底まで約15%減少したのに対し、今回はまだ5%程度までの利上げで、実質政策金利もようやくゼロ近辺まで上がってきた段階で、EPSは22年初のピークから現在まで約11%減少しており、既にEPSの減少はだいぶ進んでいる状況です。

(図6)

macrotrendsより作成
(www.macrotrends.net)

(図7)

macrotrendsより作成

(図8)

macrotrendsより作成

 また、図7からわかるように、70年代は上記の74年夏~75年夏の▲15%EPS減少以外は基本的にEPSは右肩上がりで推移しており、このことから、①インフレ環境は企業業績にとって決して悪くないこと(価格転嫁しやすいなど)と、②70年代の株価低迷の要因はもっぱら急速な利上げを受けたPERの縮小だったことがわかります。

 もちろん、当時と今の状況が全く同じではなく、単純な比較はできませんが、①からは2023年・2024年通年の予想EPSが増益見込みであることも違和感はないですし、②からは、今後FRBが利下げに転じればPERが拡大する形で株価が底を打つ可能性が高いことがうかがえます。

4.株価の割高感は残る

 一方で、景気が堅調な場合は、先日の1月CPIのようにインフレ率の上振れリスクが高まりますし、長期金利に上昇圧力が加わりやすく、金利対比の株価のバリュエーションも高まりやすいので、株価調整リスクにも警戒が必要になります(図9)。

(図9)

FREDより作成。株価は金利が反発する中でも調整せず

 イールドスプレッドや、実質金利とPERの関係からしますと、金利対比では今の株価は明らかに割高ですので、企業業績や景気に対するセンチメントが改善したとしても、株価指数はなかなか上がりづらく、「米国株式見通しVol.4」でも書きましたように、当面はS&P500で3,800~4,200程度のレンジ内での推移になるのではと思います

 また現時点では、景気後退入りした場合でも比較的マイルドなものに留まるとの見方をメインにしていますが、リスクシナリオとして、深刻な景気後退入りやインフレ再加速などの懸念が高まった場合には3,300程度までの下落リスクは十分あり得ると思われます。

 ただ、個別銘柄を見ますと、独自の成長力があり、長期的に高い収益成長や収益性が見込める一方で、割安になっている銘柄も少なくありませんので、長期的な観点で銘柄選択を行い、魅力度高い銘柄にタイミング分散を図って、売られた局面で少しづつ投資していくのが肝要と思います。

(実際に投資をされる際は、自身のご判断でよろしくお願いします。)

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