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【アーカイブ】1976年のサモ・ハン③

1976年、ゴールデン・ハーベスト作品『秘龍拳/少林門』のOPシーン追加撮影のため、これまで縁の薄かった台湾の地に立ったサモ・ハン(洪金寶)。しかし、彼がこの地を訪れたのはこの追加撮影のためだけではなかったのです。
実はサモには台湾で撮る初主演映画の企画が舞い込んでいました。タイトルは『燃えよデブゴン出世拳』。明王朝を建国した朱元璋の若き日の武勇伝を描いた時代劇で、日本では1984年にテレビ東京のスペシャル枠で放送されました。その後ジャパンホームビデオから「デブゴンの太閤記」の邦題でビデオが発売されています。

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本作が香港で公開されたのは、1978年のクリスマスシーズン。代表作である『燃えよデブゴン』よりも後の公開でした。ただ本編を見ると明らかですが、サモのルックスが『燃えよデブゴン』の時より明らかに若く、アクションも『燃えよデブゴン』に比べ、クラシカルでかなりもっさりした動作なんですね。そして括目すべきは本作のロケ地が台湾という事実。公式なアナウンスこそありませんが、この作品こそが名実共にサモの初主演作と言うことになるのです。
しかしながら、本作の1976年撮影説に疑問を呈する意見もあります。まずは本作に出演したディーン・セキ(石天)の容貌です(下のオリジナル・ロビーカード)。ジャッキー・チェン(成龍)がブレイクした『蛇拳』や『酔拳』(共に78年)と変わらないからだというのです。しかし1975~76年のディーン・セキの出演作を見ると、既に同様の長髪スタイルであり、この髪型は彼がシネマ・シティ(新藝城)を設立する直前の79年まで続けています。

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また、このロビーカードにはウェイ・ピンアオ(魏平澳)とクー・シャオパオ(葛小寶)のカットもあるのですが、ふたりのシーンにサモは出てきません。つまり別撮りで、同時撮影かリテイクなのかは不明なのです。しかしだからといってサモの撮影時期が公開と同じ78年という証拠にはなり得ないのです。
本作の悪役は.、70年代始めにゴールデン・ハーベストでサモと苦楽を共にしたカーター・ワン(黃家達)です。当時ゴールデン・ハーベストでカーター・ワンはスター候補でサモはサポートする立場だったのですが、彼の主演作は興行的に結果を出すことはかなわず、実質ゴールデン・ハーベストを追われる形となったカーター・ワンは失意のうちに台湾へ渡ります。そこでジョセフ・クオ(郭南宏)監督と出逢い、『少林寺への道』(75年)に抜擢されブレイクを果たすことになるのです。サモが台湾を訪れたのは、まさにその直後でした。そしてサモが本作で初主演を果たし、その作品でカーター・ワンは本格的な悪役として彼を迎え討つ立場での再会となったのでした。
本作は当時のサモとしては珍しい台湾での主演作となったため、当時台湾で活動していたショウ・ブラザースのスター俳優だったユウ・ファー(岳華)との共演など、後年のゴールデン・ハーベスト作品では見られない顔合わせが実現しているのも見どころです。

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ちなみに日本で放送された元素材は、80年代後半に香港・台湾・東南アジア諸国の配給期限切れや権利関係が宙に浮いた娯楽映画を二束三文で買付け、白人の俳優が出演する新撮シーンを再編集した大量の”ニンジャ映画”を欧米圏中心にリリースしたジョセフ・ライ(黎致平)率いる独立プロ「IFD」配給による英語音声の「国際版」でした。ですので、タイトルもオリジナルの「臭頭小子/Filthy Guy」ではなく「Return of the Secret Rivals」という別の英語題が付けられています。

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サモの台湾での"仕事"はこれだけに留まりませんでした。日本では劇場未公開の「大太監/The Traitorous」(76年)という作品では、カーター・ワンが主演を務め、サモは副官クラスの悪役として対決しています。しかも共演がシャン・カン・リン・ホー(上官靈鳳)やチャン・ユー(張翼)といったゴールデン・ハーベストで現場を共にした俳優陣だったのも、サモにとっては励みとなりました。シャン・カン・リン・ホーはサミュエル・ホイ(許冠傑)とダブル主演したコメディーで多少爪痕を残したものの、チャン・ユーはゴールデン・ハーベストで思うような結果を残せず、前項でご紹介したジミー・ウォング(王羽)と共にカーター・ワンより先に離脱して台湾へ渡り、サモが訪れた当時はアクション巧者の悪役俳優として、台湾で地位を確立しつつありました。

「大太監/The Traitorous」(76年、未公開)のフル動画(中英字幕、國語、日本語字幕無)↓

『燃えよデブゴン出世拳』同様、ゴールデン・ハーベストと関連のない台湾の独立プロ作品で見せるサモのアクションは非常に新鮮ではあるのですが、武術指導を自身ではなく他者に任せているため、やはりもっさりした印象、というか『燃えよデブゴン出世拳』と同じような立回りのテンポということに気付かされます。しかし、短時間ながら披露される三節棍を使ったレベルの高い殺陣や、やられる際アクロバットを駆使したリアクションのキレはさすがとしか言いようがありません。(この項・おわり)

※本稿は、SNS「Facebook」ホームへ2019年7月寄稿した内容を大幅に加筆・修正したものです。

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