0と1の偶像
「シャルナインが死んだ───殺されたんだ。」
シャルナインが死んだ? しかも殺されただって?
コイツは何をバカなことを言っているんだ。そんなはずがない。
シャルナインは今をときめくトップアイドルだ。
それが死んだだって?
───あり得ない。こいつは、おれを担ごうとしているのだろう。
「おいおい、馬鹿にするなよ。そんな与太話、誰が信じるかよ」
俺がこの、全身が見るに耐えない、醜い姿に変貌する奇病になってからもう4年になる。
とっくに訪ねるものはいなくなった。
残念でもない。俺はもともと愛想のないやつだったし、こんな醜くなった俺を見てなんて言って慰めたらいいか困るばかりだろう。
だから俺に客というのは、あまりにも珍しかった。仕方ないから少し話を聞いてやるつもりだった。
が、失敗だ。コイツはとんでもない馬鹿か悪人だ。
ベッドの上で身じろぎすらできないイモムシのような俺を見て、きっとこいつは俺のことをバカにする気なのだろう。
「いや、シャルナインは現実に殺された」
「だって彼女は……AIだ」
そう、『SHL-9』は架空の偶像。
2020年代から急速に発展した、芸術や芸能を代替するAI存在。
きらめく電脳の世界で、人間には不可能な歌とパフォーマンスをする奇跡の偶像。
架空の存在を、どうやって殺すことが出来るというのか。例え殺せたとしても、バックアップから簡単に復帰するだけではないのか。
「そうだ。だが、死んだ。彼女がもう、二度と元には戻らない」
男は俺の疑問に答えるつもりはないようだ。
「そこで、お前に依頼したい。お前が新たなSHL-9になって欲しい」
男はそう言うと、イモムシの俺に銃弾を二発、無慈悲に撃ち抜いた。
【続く】
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