632146P、パワーゲージ200%と青春を消費する。
ファントムオブカオスというゲームをご存知だろうか。
ゲームをそんなにやらない人にもたぶん知名度のある名作シリーズの四作目。
所謂格ゲーと呼ばれるジャンルのゲームであり、シリーズの中でも特にキャラバランスが良くプレイヤーからの評価が高い。
ネットではファン4、PoC、ファカオ等呼ばれている。
対戦バランスが良いと一口に言っても色々なパターンがある。ファカオは単純にキャラの強さが均等というタイプではない。
全部のキャラがどこかしらぶっ壊れていて、最弱といわれるキャラでも何かの拍子に攻撃がヒットすればそのまま相手を倒してしまう、なんてことが頻繁に起きる。
コインを投入して十秒以内に決着が付くなんてことはザラで、スピーディかつ爽快。そのあまりに尖ったゲーム性に、当時の格ゲーマーたちはメロメロに魅了されたのだ。
e-sportsとゲームをスポーツとして扱う動きが最近は多いけど、プロ相手でも祈りながらレバーを半回転させれば勝てちまうなんて、そんな夢を見れるスポーツがこの世に他にあるだろうか?
スタジアムは満員だ。大歓声の中、俺は壇上へと進む。
改めて対戦相手の顔を見る。プロプレイヤー。イケメンで、しかも東大生で、テレビにも良く出演している。
この一年、病気の進行は早まるばかりで、すっかり筋力も落ちたけど、まだボタンを押すことはできる。
目の前のこいつは、きっと天才で、休日はバーベキューに友人と行ったりするようなタイプだろう。
学校が終わったらゲームするしかない俺とはエラい違いだ。
「先ずはコイツをぶっ殺してやろうぜ」
左腕が俺に言う。
俺は、一年前を思い出す。
◆
俺の体は、段々と筋力が衰える難病だ。
視線と指先でゲームをプレイすることはできる。
そんな俺にある日、チームの一員として参加しないかという誘いが来た。
俺の脳裏には、肝心なところで失敗する妄想が繰り返しよぎる。
「うじうじするんじゃねぇよ」
突然、俺の左腕が喋った。
【続く】
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