知らぬは我ばかり

事務所のある古いビル周辺には地域猫がいる。

すべて柄ちがいの猫はバラバラで見かける事が多い。

ある日、自動ドアの前に茶トラがちょこんと座っている。私が近づくと少し避ける程度であまり動かない。いつもは俊敏にいなくなるというのに。明らかに誰かを待っている様子だが、エレベーターで職場へ向かう。

いくつかの事務仕事を終え自動ドアの前まで来た。茶トラはいない。外へ出るとひとりの女性が器をもってうろうろしている。

隣の建物の1階は駐車場なのか何時みても空きスペースで、たまにカブに座ったおじさんがタバコを吸っていたりする。そこへ入っていく女性が気になりちらっと覗くと猫たちが勢揃いしていた。覗かれているのにも気付かず、ご飯を食べている姿はなんとも愛おしい。

あれから何度かお世話をしている女性を見かけた。いつもひとりでいるその人へ挨拶しようとしてやめた。フレンドリーを発揮するのも程々にしよう。

夏の暑い夕暮れ。
エレベーターから降りると階段を降りて来た男性と鉢合わせになった。ふと前を見ると建物の中になぜか茶トラがいる。そのまま作業着の男性についていき外へでた。またまた気になり様子を見ていると古いビルの駐車場へ一緒に歩いていく。男性がおもむろに何かを取り出す。茶トラは釘付け。次の瞬間、ひとりと一匹はダンスするかのように舞っていた。灯りがなくて暗いのではっきりと確認できないが、あれは猫のすきな伸び縮みする遊び道具だ!えーっ、うらやましい〜。私も遊びたい。ここでも声を掛けたりフレンドリーを発揮することなく、帰ることにした。

仕事の行き帰りには、必ずあの子たちを探すのがルーティンだ。草むらに寝ていたり日向ぼっこをしていたり。居ないと勝手に心配したり、見つけると写真を撮ったりするだけの女。私以外はみんな猫たちと仲良しに見える。毛並みのきれいな理由を知って安心もしたけど、少しさみしくなった。勝手だね。

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