信号待ち
午前中に仕事と掃除を済ませ帰ろうといつもの道を戻る。11月とはいえまだまだ陽射しはつよく、だけど日傘もないしで日陰を見つけてはそこを歩く。
少し前まで県庁通りと呼ばれた34号線の信号待ちは長い。陽射しに耐えられず近くの建物に避難すると、おなじタイミングでおなじ考えのひとがいた。
「まだ昼間は暑いですね」
自然な感じで話しかけられた。
「はい、天気がよくて気持ちいいんですけどね」
「晩は冷えますし」
「この時期は着るものに困りますね」
「合物の出番がなくて、すぐ冬物になりそうです」
「お店のかたもそう仰っていました」
「これを機会に断捨離しようとおもって」
「わたしもそう思っています」
ひとこと、ふたことで終わると思った会話は意外と続いた。
年の頃は70代前後。
仕立ての良い紺のジャケットにベスト、抑えた赤のネクタイ。
髪はきれいに剃ってあり、色付きの眼鏡を掛けていた。
信号は青になり、いつものペースで歩き出す。
坂をくだり、次の信号に差し掛かる。
少し待つだけですぐに青へと変わった。
先ほどの男性がスタスタと歩く姿が見える。
スリーピースかと思っていたら下はデニムだった。
つい、鞄もみてしまう。
そう、わたしはおじさんが好き。
話したひとが誰に似ているかって?
うーん、俳優の綿引勝彦さんかな。
残念ながらお髭はなかったけど素敵なひとだった。
読んでくださりありがとうございます。