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『第五の季節』 ~話題沸騰の受賞作は期待を超えてくれるのか~

前例のない3年連続ヒューゴー賞受賞、ということでたいへん注目された作品がついに翻訳されました。この『第五の季節』は《壊れた地球》三部作の第一部であり、この1冊まるごとがプロローグのような感じ。

人類存続に欠かせない能力を持つ者が迫害される世界

舞台は遠未来の地球とおぼしき世界、大規模な地殻および/または気候変動により先代文明が滅んだあと、数百年ごとに不規則に訪れる過酷な〈季節〉を生き延びるために適応してきた人々の社会制度が形成されています。
人類の存続に関わる能力者にその能力を発揮してもらって災害を回避するべく、幼いうちに発見された能力者=オロジェンたちは養成施設に集められ教育されます。

自分の能力をコントロールする術を身につけたオロジェンたちは各地で任務につかされますが、うまくいくとは限りません。思いがけない事態を招いてしまえば、追われる立場にもなります。
せっかくオロジェンであることを隠して市井の人々に紛れこめたとしても、やがてまた〈季節〉がやってくると、そこも安住の地ではなくなってしまいます。そうして旅立った「あんた」を待っているのは……。

読者に「あんた」と二人称で語りかけたり、現在形で徹底している原文が透けて見えるあたりは取っつきにくいけれど、それを凌駕する壮大な世界が構築されています。
3人の女性それぞれのターニングポイントが平行して描かれているわけですが、また別の描きようもあっただろうし、そのほうが読みやすくはなったかもしれません。ただ、それではこれほど爽快に「やられた!」読後感は得られなかったでしょう。じつにうまく構成されていると思いました。

女性作家の書くファンタジーは子供むけ?

作者のN・K・ジェミシンは黒人女性でフェミニスト、とまさに今読まれるべき注目の作家のひとりであると言えます。
英米では、SF作品はともかく、女性作家がファンタジーを書くとなんとなく児童書やYAとして分類されてしまう傾向があったそうです。男性として通用するペンネームを使ったり、イニシャルだけにする作家はそれに対抗しているのだと聞いたことがあります。ジェミシンもその一人なのかもしれません。しかし《壊れた地球》三部作に限らず、ジェミシンの作品は骨太で壮大な世界構築が魅力です。
またジェミシンだけでなく、読み応えのあるファンタジーを書ける女性作家はいくらでもいるので、「子供向け」と侮られることなく、どんどん翻訳されていってほしいものです。

まとめ

着想の段階からすでに結末まで緻密に構成ができていたであろうことを思えば、まさに本作はまだイントロダクションなのでしょう。地球が「壊れる」のはこれからです(笑)。原書はすでに完結しているので、翻訳もさほど待たされることなく刊行されるものと期待しています。

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