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あの虹の下でモッシュを

『MOSH UNDER THE RAINBOW』というハイスタの1曲がある。
「虹の下でモッシュしよう!」⇒仲良くしよう、ってことらしいけど、
直訳のが私は好きだ。
(モッシュとは、ライブにおいて観客たちが密集した状態で身体をぶつけあったり、ダイブする人がでたりする、とにかく盛り上がっている状態だが、
危険とされており今ではほぼ禁止されている)

生きてくって心配や不安もあるよね。でも、こっちにおいでよ。雨上がり、大きな虹の下でみんなでモッシュしようよ。そんな広場がある。
そんな若い時のあの感じがギュッと入っていて大好きだ。
(収録されている『MAKING THE ROAD』もご存じの通り、当然ながら名盤中の名盤。是非)

まだ若かった私はライブでモッシュは何度か巻き込まれたり、友達とワイワイ混ざったことあるがとにかく暑かった。友人はメガネがズレてしまったりもあった。
バンドの客層によって全然違くて、でもとにかくみんな笑顔だった。

アルバムが出た当時高校生だった私は、数少ない邦ロック好きの友人数名でタワレコやHMVに行っては新譜を買っていた。
クラスで一番頭が良く、静かだったMちゃんが実は洋楽大好きで、パンクやロック好きだったのだが、このアルバムを貸したらドハマってくれて、そこから仲良くなった。
「こんなかっこいいバンドが日本にもあるんだね…!」
とキラキラした笑顔で言ってくれたのが嬉しくて。
ハイスタのライブには行けなかったけど、当時デビューして勢いがついていったバンドやアーティストがたくさんいて、すでにベテラン勢も多くて情報を雑誌で漁ったり友達と交換しては、ライブやフェスに行くようになっていった。

イエモン、くるり、ミッシェルガンエレファント、DragonAsh、スーパーカー、Pre-school、トライセラ、GRAPEVINE、BackDropBomb、MAD、椎名林檎、UA、サニーデイサービスあたり。
今の時代では想像つかないと思うのだが、最寄りのチケットぴあに日曜とかの早朝から建物前に並んで…店が開くと同時に、電話もかけだしてカウンターに駆け込んだり、チケット取るだけでも大変だった日々。
ぴあのスタッフさんが手際よく手配してくれた時のうれしさ。
その後友達と成果と報告しあったりして喜んだり。
よくやってたなあ…と今では思う。

ある日、錦糸町のマルイに入っていた洋服屋さんでTシャツを見つけた。
うすめのピンク色に、虹と飛行機のイラストがあり
『Mosh Under The Rainbow』をプリントがあって、迷わず買ってしまった。
ブランドの雰囲気からして、ハイスタの曲のことではないと思うけど、
Tシャツで着られるのは嬉しく、それからよく着ていた。

ライブにいっては会場でツアーTシャツを買ってたので実家には溜まっていっていき、雑誌のロッキンオンJAPANの愛読者でもあったので、
ハガキ投稿していて、1回だけ採用されて本誌に載りロックンロールTシャツももらったことがあった(高校の制服の下に着て行ったり)
みんなライブTシャツってどうしてんだろ?

あれだけ熱中していた音楽と一時期疎遠になっていた時期がある。
大学入学から就職してからつい数年前まで。
一時期の音楽離れについては、こないだ話題の『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読んで同じ原理だったと理解できた。
毎日とにかく忙しくて、人生の9割が仕事だった時代。やっぱり若くて体力あったから出来てたんだろな。
出産後の復帰してからはまた別の忙しさで潰れそうだった数年。

今はもう仕事は4割くらいになっている。他に大切なものと重要なことが増えたから。
けど、今の生活を築けているのは昔がむしゃらだったお陰なのも事実。

その空白の20年ほどで、当時のバンドやアーティストは多くが今や解散してしまった。メンバーが亡くなってしまったりも。
ハイスタもだが、先にあげたバンドたちも残っているほうが少ない。

が、まだ続けているバンドもあって今、私が熱を上げているのがGRAPEVINEだ。彼らはメンバーがひとり減っているが、代わりにサポートメンバーが2名加入して今は5人になっている。
私が最後に買ったアルバムからもう何枚もコンスタントに作品を出し続けていて、ライブもしている。
すぐにファンクラブに入会し、空白の間の音源を辿りつつ東京でのライブに一人で通っている。最高に楽しい。
バインのライブは、年齢層も上で取っても落ち着いてBARのような雰囲気が最高に心地良い。
「おかえり、待ってたで。饂飩食わしたる」
って大きく手を拡げてくれていた。
(ほんとにこんな歌がある)
あの時26歳くらいで塩顔元祖の田中が、声が低くなってんだけど色気増してるし、とんでもない歌声と演奏を聴かせてくれる。
そうそう、これが好きだったよね私。

もうずっと使ってなかったCDコンポを引っ張り出し、PLAYボタンを押す。歌詞カードをじっくり追いながら、アートディレクションを楽しむ。
適当に寝っ転がって、家族に迷惑にならないくらい大きくして音楽を聴く。
イヤホンはリモート会議中と移動時間だけでいい。家ではこれがいい。
CDはやっぱり、お店で選んで買ってホクホクしながら電車にのって持ち帰るのもいいよね。
あの時の、熱。

リビングではBTSが好きなムスメが、スマホで音楽を聴いている。風呂上りに着ているのはあのピンクのMosh Tシャツだ。
もう生地もぺらぺらなんだけど、どうしても捨てられなくて。

ずっと見ようとしてなかっただけで、ずっとあの虹の広場はずっとあった。
だいぶ歳を重ねてしまったけど、またそこに行くことができた。
いや、仕事と育児と家事をしながらバタバタと忙しなく、
でもなんだかんだワイワイと楽しんでモッシュしてたような気もする。
場所が違うだけだ。


「おーい!」
17歳の私が手を振ってきたから、こちらも大きく振り返す。
あのTシャツ、この先であなたの中学生のムスメが着てるよっていったら笑ってくれるかな。

#創作大賞2024 #エッセイ部門





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