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私と猫

2023年10月18日

私は私に刃物を向けた。
うっすらと直線に伸びた赤黒い血はそのまま手首の裏まで垂れていった。
「こんな感じなんだ。」思いえがいていた以上に痛みも悲しみも苦しみも感じることはなかった。

自室に1人でいたはずだったが、足音をたてずに、そっとその様子を遠くから見つめて何をどう思ったのかは分からないが足元にスリスリと近寄って小声で愛猫は鳴いた。

そこから私は、1人になる時間をつくり、リストカットを繰り返した。
傷口も深く大きく開いたところは血が止まらずその傷口をバレぬように隠し続けた。

ガーゼや包帯を買えば、疑われる。それでも止めることは出来ない行為。母が入浴している間に自室へ走り傷を増やしてその傷をトイレットペーパーでぐるぐる覆いドアを開けると、またしても愛猫が目の前に座って鳴いた。

母がリビングへ戻るタイミングに合わせて私が浴室に逃げ込み流血を流した。バスルームと排水溝が真っ赤に染まり、水をかけても一向に止まらない。バスタオルに血液が付かぬよう細心の注意を払って、隠し持ってきていた厚手のキッチンペーパーを当てて、救急セットに余っていた短い包帯でなんとか固定をした。部屋着で隠しリビングへ戻ると、私の椅子に愛猫が座りムスッとした顔で大きくひと鳴きした。

自室や、トイレ、入浴時、母が外出中など私は自傷行為を繰り返した。
理由を問われても言葉では表すことが難しいけれど、決して死にたいからではない。
「生きていたくない私は、それでも生きる私にここで生きているという実感をわかせるため。」

もちろん、辛くて苦しくて息がつまるような
そんな感情に似たものを想うときの方が多い。

あの山の橋に足をかけたあの瞬間も、自傷行為をし続ける私も生きている事実が怖いんです。

先ほどから、1人で苦しみ、1人で隠し続け、1人で悲しんでいると表現していたし、そう綴っている。
そんな私は大切なことを忘れていました。

私が行動をする時、必ず愛猫は私に伝えてる。
鳴き続け、その瞳で訴える。

私がひとりぼっちの時、泣いている時、腐敗してしまった感情で腕を切っている時、必ず彼女は現れます。そして何かを伝えるように鳴き、コツンと私の足におでこを擦り当ててくるのです。

猫には表情筋がなくて感情があまり表せないというけれど、我が家の猫はちょっと違くて。
とても悲しそうな顔で私をみて鳴き続けます。
自傷行為をするために鍵を閉めて行っている時には、ドア越しにずっと鳴くんです。

そんなある日、唐突にも母に偶然出会してしまい私の今までがバレてしまった。

白状している私を責めないでとばかりに母と私の間を行ったり来たりとする彼女。

それからは、私が1人になると彼女は必ずついてきて
トイレから出てくると外に座って待っていて、
1人で泣いていると擦り寄ってきて、
私専属の監視猫になっています。

私の複雑な感情を汲み取り、彼女の包み込んでくれるその優しさ。

そんな彼女の本性は、
おいでと言ってもほとんど寄ってこない。なんとなくてきとーに撫でてれば急に噛み付く。食べ過ぎだと判断してごはんを入れないと肩を叩いて、ごはん用のベルを力強く何度も鳴らして訴えてくる。猫じゃらしを出すとじゃれずに逃げる。ちょっかいを出すと本気で飛びかかってくる。カメラを向けると必ずそっぽを向く。可愛いところをおさめたいと動画を撮ると何事もなかったかのように立ち去る。

そんな君に私は敵わない。

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