見出し画像

~どうする?離乳食~親子で楽しむ4つのコツ。管理栄養士の太田百合子先生に聞きました!

離乳食期の赤ちゃんといっしょに楽しめる絵本、

『あーん ぱっぷん!』(作:山岡ひかる)が刊行となりました。

付録冊子『絵本のたから箱』では、悩みの多い離乳食期を楽しむコツを、やさしくわかりやすい離乳食指導で知られる、管理栄養士の太田百合子先生にお聞きしています。

本記事ではさらに詳しいインタビュー内容をお届け!食を通した赤ちゃんの成長を親子いっしょに楽しむコツが満載です。

(インタビュー担当:くもん出版編集部)

離乳食期はなぜ大切?


離乳食期で育まれる「食べる力」とは?


―― 離乳食を食べることで、子どものどんな力が育まれているのですか?

太田先生(以下敬称略):

子どもは離乳食を通じて「食べる力」を習得します。大人だと、無意識に食べることができますが、子どもが自分で食べられるようになるには、いくつかの力を育む必要があります。

まず、固形物をかんだり飲み込んだりする力です。

赤ちゃんは教わらなくても母乳やミルクを飲めますが、固形物を「かむ」「飲み込む」ことは、離乳食を通して練習しないと習得できません。

また、体の機能に目を向けると、さまざまな食材に慣れ親しむことが刺激となり、消化吸収力も高まっていきます。

さらに味覚も大切です。日本は世界各国と比べても、いろんな食材を食べる国だと思います。いろんな食材に慣れていけば味わう感覚も育っていきます。

この、「味覚が育つこと」は赤ちゃん自身が食べ物に興味をもつことにつながります。はじめは食べさせてもらっていた赤ちゃんが、自分で食べ物を握ったり、お口に持っていったりと、自分で食べるような動きをし始めます。これが離乳食期の最終段階です。

このように、子どもはさまざまな面で成長していきながら、「食べる力」を習得していきます。大体1年くらいかかるので、保護者の方にとってもすごく大変な時期とも言えると思います。


大切な離乳食期。心がけたいポイントは?


――そんな大切な時期に気をつけたいポイントはどんなことでしょうか。

太田:

親子で食事の時間を楽しむことがなにより大切だと思います。なぜなら赤ちゃんは大人が食べている姿を見て食べることを学んでいるからです。

「うちの子、食べないんです」という相談を聞いていくと、お母さん、お父さんがいつも赤ちゃんの寝たあとに食べているとか、時間がなくて自分の食事は立ち食いですませているといったことがよくあります。

おいしそうに食べる姿を見せていない状況で、いきなり食べ物を差し出されても、赤ちゃんは怖がってしまいます。大人がおいしそうに食べる、楽しんで食べる姿をいっぱい見せることが大切です。

離乳食の時間も、食べるって楽しいね、おいしいね、ということを伝えてあげる時間にしたいですね。そんな時間を過ごすためには、保護者の方はイライラしないことが大切だと思います。

――頭ではわかっていても、食べムラや、遊び食べといったことが始まってくると、どうしてもイライラしてしまうことがあります。イライラしない方法はありますか。

太田:

子どもの行動や変化を「子どもは成長している」と捉えると見方が変わってくると思います。

たとえば、「五感」という視点で成長を見るとおもしろいです。

五感は、視覚、触覚、嗅覚、聴覚、味覚というように、食を通したさまざまな刺激から育ちます。心の成長と共に、周囲の環境に興味をもつようになり、食べムラが生まれたり、食べ物で遊んだり、食べている途中で立ち歩いたりといったことが始まるわけです。

イライラしてしまう子どもの行動は、子どもが成長しているからだと捉えると、「おもしろい」と感じられる部分が生まれ、少し冷静に見ることができるかもしれません。

離乳食期を楽しむ4つのコツ


楽しむコツ① 完璧にやろうとしない。


―― 赤ちゃんにとって、大切な時期だからこそしっかりやらなければと思いますが、離乳食に関する細かい資料や情報も多く、どのくらいやってあげればいいか不安です。

太田:

まあ、そういうものなのか」とちょっと流して見てもらい、「ああ、赤ちゃんってこんなふうにして段階を経て大きくなっていくんだな、食べられるようになっていくんだな」というのが実感できればいいのではないかと思います。

――うまく書いてある通りにいかないのですが大丈夫でしょうか。

太田:

うまくいきっこないくらい」に思ったほうがいいですよ(笑)。

たとえば、1日にどれくらい食べるというのはあくまで目安です。大人でも体型や運動量、代謝など、さまざまな要素によって食べる量は違いますし、赤ちゃんはもっと個人差が大きいと思います。

――ここだけは気をつけておきたいといった基準はありますか。

太田:

エネルギーや栄養素に関して赤ちゃんは大人より影響が出やすいため、「1日何グラムぐらい」という基準は示されています。

ただ、毎日「うちの子は少ない(多い)」とチェックしていたら、保護者の方がつかれてイライラし、別の面で悪影響です。1日ごとに見るのではなく、1週間とか、ある程度の期間の中で調整していく視点が重要だと思います。冒頭の話にも関連しますが、離乳食の目的は、1年くらいかけて「食べる力」を育てることなので、1食ごとに悩まずに、1日単位、1週間単位で必要なものがとれていればいい、大きくなったときに食べる力が育っていればいい、と長い目で見ることが大切です。

皆さん、身長と体重を測り、成長曲線を見ていると思うので、小さくても大きくても、そのラインに沿っていればまずは適量と捉えていいと思います。

一方で、食品群の中からいろいろ組み合わせることは意識したいポイントですね。

たとえば「米」には、ミネラルやビタミンなど、微量栄養素も含まれていますが、ちょっと卵を加えたり、野菜を加えたりするだけで相乗効果が生まれます。いろいろな栄養素を効率よく補えることが食品の良い点です。

また、栄養素は1つの食品にのみ含まれているわけではありません。

たとえば、鉄分。すぐイメージできるのはレバーですが、卵や牛肉や豚肉にも多く含まれていますし、大豆製品にも含まれています。大豆はカルシウムもとることができますね。納豆をすすめられた経験がある方も多いのではないでしょうか。

子どもが好きだからと特定の食品ばかりを与えていたら、栄養素はとり切れません。そういった意味でも、いろいろな食品をとることを意識することは大切です。


楽しむコツ② 完食を目指さない


――食べムラについてはいかがでしょうか。

太田:

まず、先ほどのお話にもつながりますが、子どもが成長しているからこそ食べムラが起こると捉えると良いかと思います。隣のおもちゃが気になる、テレビの音が気になる。感覚が発達して周囲の環境に気がつくようになると、いろいろな情報が入ってきます。大人にとっては当たり前の刺激ですが、赤ちゃんにとっては毎日が刺激的で目まぐるしい状態なので、気を散らさないほうが難しいですよね。食べムラなどは子ども本来の姿です。

また、赤ちゃんにとってまだ「遊び」と「食事」の区別はついていないので、つい遊びたくなっちゃう、握りつぶしたくなっちゃう。すべてが探索ですから。遊び食べも子どもが成長している証です。

加えて、赤ちゃんは食欲のムラが大きいです。変なときに寝てしまったり、起きる時間がまちまちだったり。こんな状態なので、ある程度長い目で見て、時間が来て食べ残しがあっても「今日はまあいいか」と、さっさと片づけたほうがいいですね。


――正直、作ったものを捨てるというのには抵抗がありますが、片づけたほうがいいのでしょうか……

太田:

誰しもそうだと思います。大人は「食べ物は大切にしなくちゃいけない」というようにしつけられていますし、一生懸命わが子のために作ったのに残されると悲しいですよね。

でも、赤ちゃんの場合はむしろ完食は目指さない

先ほど「自分で食べる力」の部分でもふれましたが、まだかむ力も飲む力も弱い子どもに対して、無理に大人が完食を目指すと、食べ物をのどに詰まらせるといった危険が伴います。

完食にこだわって1時間かかる、といったこともあると思います。1時間は親にとっては苦しいけれど、子どもにはもっと苦しい時間であると思います。だからさっさと片づける。そうすると親も子どもも嫌な時間が少し減り、次の食事はおなかも減ってパクッと食べられるものです。

――「これしか食べない」といった子どもの自己主張にはどう対応したらいいのでしょう。

太田:

おもしろい時期ですよね。「いやなものはいや!」「バナナしか食べない!」といった時期はあります。「これが食べたい」と同じものばかり欲しがるようになり、「もう飽きた」「もっと違うものが欲しい」と主張するようになる。

3歳くらいまでは満腹感がわからない子も多く、いちごを見たらずっといちごを食べて、1パックくらい平気で食べてしまう子もいます(笑)。

満腹感がわかってくると、だんだん残せるようになってきます。自分で「ごちそうさま」と言って食事を残せるようになるのも立派な成長なんです。とてもおもしろいですよね。

――先生の「おもしろい」という感覚が大切なのかもしれません。子どもが目まぐるしく成長しているおもしろい時期に立ち会っているという感覚で過ごしてみたいと思います。

楽しむコツ③ 嫌いだから食べないわけではない


――とはいえ、嫌いなものも少しずつ食べられるようになってほしいです。

太田:

子どもが食べないのは大体「食わず嫌い」なんです。はじめてたべるものは、子どもにとっては未知のものなので怖がるのです。だから周りの大人が「おいしいよ~」とニコニコしながら誘ってあげると、思わずつられて食べることもあります。

しかし、親がドキドキして、「食べられるかな」と眉間にしわを寄せていると、やっぱり赤ちゃんは怖さに負けてしまいますね。

――新しいものを食べさせるときは、つい力が入ってしまいます。また、家では食べないのに、保育園で食べるなんてこともあります。親の方が安心するから食べるのではと思うのですが、原因はなんでしょうか。

太田:

食べるということを通じてコミュニケーションをとるのは、人間にだけ見られる特徴で、ここからもいっしょに食べるということがいかに大事かわかると思います。一方で、どんなに大好きなお母さん、お父さんでもいつも一対一だと飽きてしまうことがあります。

これは大人でもそうだと思います。ですので、保育園でほかの子が食べているのを見て食べるとか、たまに行くおばあちゃんの家でたくさん食べるとか、楽しい雰囲気からそういう状況が生まれるのだと思います。



楽しむコツ④ 食べ物とのふれあいや、食べ物の絵本を取り入れてみる


――離乳食期に食への興味を引き出すためにできることはありますか。

太田:

保育園でも、赤ちゃんたちのクラスには、「にんじんさんだよ」と声かけしながら、離乳食で食べているにんじんそのものを見せたり、ふれさせたりするところがあります。

ご家庭でも、料理する前の果物や野菜を見せてあげたり、さわらせてあげたり、お買いものに行って、「きょうはこれを食べようね」とお話ししてあげたりといったことを、いっしょに楽しんでみてください。

――『あーん ぱっぷん!』のような、赤ちゃんのための絵本も活用できますか?

太田:

もちろんです。たとえば、遊びから食事に気持ちを切り替えるために、食事の前に食べ物が出てくる絵本を読んであげるというのもいいですね。「さっき絵本に出てきたにんじんだよ」と声をかけると、覚えていてパクッと食べたりします。寝る前に絵本を読む方が多いと思いますが、ごはんの前に絵本というのもおすすめです。習慣になると、絵本の時間だからそろそろごはんかな、とちゃんと理解するようになります。

それから、離乳食の時間を楽しくするために大切なのが大人の「ことばがけ」なんですが、絵本のことばはリズムが楽しいので、そのヒントになります。「もぐもぐ」とか「ごっくん」とか、赤ちゃんが大好きな、くりかえしやリズムが心地良いことばをつかって、促してあげるのはとてもいいことです。たとえばこの絵本の「あーん ぱっぷん!」というのを覚えて、親子の合言葉にしていくのもいいですね。

離乳食期を楽しむ秘訣とは


――最後に、あらためて離乳食期を赤ちゃんと楽しむ秘訣を教えてください。

太田:

「離乳食を食べたか残したか」ばかりにとらわれがちですが、「よく寝る」「よく食べる」「よく遊ぶ」といった基本的な生活リズムが赤ちゃんの心を豊かにするという視点がとても大切です。

食事は好奇心探求心にもつながっていますし、「自分で食べたい」という意欲や、「自分で食べられてうれしい」という達成感も育んでいきます。

そのためには親自身の食生活も大切にしていただき、親自身も食事に興味をもってほしいと思っています。そして、「赤ちゃんはどんなふうに食べているのかな?」「どこまで、どんなふうに気持ちが育っているんだろう」ということを見ていくことによって、食事の時間がもっとおもしろい発見につながっていくのではないかと思っています。

大変だな、と感じられることも多いと思いますが、まとめて作って冷凍とか、市販のベビーフードとか、大人からのとりわけとか、なにを使って良いんです。よく「手抜き」という表現が使われますが、「手抜き」ではなく「手間抜き」ですね。そういったものを上手に利用しながら、親もリラックスして親子で食事を楽しもうと思うことが大事だと思っています。

(本文中の写真提供:ピクスタ)


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!