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欲張りすぎて食べられなかったカニ

海岸に据付けられたカメラがバケツの中を映していた。

何を撮っているのだろう?

カメラの視線の先のバケツを見てみると、小さい丸っこいカニがいた。

そのカニはバケツの砂の中をウゴウゴしては這い上がって逃げようとしていた。

バケツはちょっと傾けてあって、カニは簡単に逃げられそうだ。

その斜面に、エビのしっぽが落ちていた。

甘海老の刺身の、身を食べて残ったしっぽの部分。生でピンクだ。

カニは気づく。エサだ。
ハサミでエビのしっぽをきゅっとはさんで運んでいく。

バケツの斜面にはほかにも点々としっぽが落ちている。

カニは立ち止まりながら、そのハサミに次々としっぽをはさんでは、バケツの外を目指していった。

カニの両手、というか両ハサミは、エビのしっぽでいっぱいだ。
きれいに、メザシのように並んでいる。

やっとバケツから脱出できた。
砂浜を移動していく。
岩の影の潮溜りにすべりこむ。

と、どういうことだろう。

そこには、両ハサミにメザシのようにきれいにエビのしっぽをはさんだカニがたくさんいるではないか。

大きいものも、小さいものも、両ハサミのエビのしっぽを大事そうにはさんで、そのハサミを差し出すようにして、波の揺らぎにゆれている。

と思ったら、どれも死んでいるではないか。

エビのしっぽをはさみすぎて、口に運べなかったのだろうか。
欲張りすぎて、食べられないまま、死んでしまったのだろうか。

さきほど脱出に成功したカニは、仲間のまわりをうろうろしている。
両のハサミをエビのしっぽでいっぱいにしたまま。

さっきのバケツを見てみると、誰かが、エビのしっぽを並べていた。

しばらくすると、また、カニが連れてこられてバケツの中に入れられた。

あのカニはたしか
スベスベマンジュウガニ、というカニだよ。

バケツの中に向けられたカメラが、ピッ、といってまわり始めた。


目覚めて追記:スベスベマンジュウガニはかわいいけど猛毒で不可食。

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