運命を紡ぐ三つの星:ヴィタリス、エルデリア、ユウキヨの物語 第27章

美晴と星良は炎煌城に向かう道中で突然、野党に襲撃された。荒野の中、どこからともなく現れた野党たちは、獰猛な表情を浮かべて二人に襲いかかった。
美晴はその活発さと俊敏さを生かし、次々と迫り来る野党を避けながら、星良に攻撃の隙を作り出した。一方の星良は、その冷静さと練度の高さを活かして、美晴が作り出す隙を確実に突いていった。

美晴が敵を巧みに撹乱し、星良が冷酷に刀を振るう。その戦いは二人の連携によって見事に進行していた。
しかし、戦闘が終わり、落ち着きを取り戻した美晴が星良に問いかけた。

「星良さん、どうしてそんなに簡単に人を殺せるんですか?」
星良は美晴の問いに対して、しばらく黙った。その瞳は淡々と、何も感じていないかのように見えた。そして彼女が答えた。
「私は人間に対する感情がないからだよ。」
美晴は驚いた表情を浮かべながら、その言葉を消化しようとした。星良の言葉は冷たく、感情がないとはどういうことなのか、彼女には理解できなかった。
それは星良の感情がないという意味ではなく、人に対する感情がない、という意味だった。
猫又族の美晴は特に気にした様子もなく、「そうですか」とだけ言った。

ついに、星良と美晴は炎煌城と水晶城の境界に位置する壮大な火山帯に到着した。これは一種の自然の魔法で、火と岩石が交互に隆起する大地を形成していた。炎と煙が絶えず地面から噴き出し、その独特の風景は畏怖の念を抱かせるものだった。
星良は周囲を静かに見渡した。その瞳は、広大な火山帯をしっかりと捉えていた。美晴はそんな星良を横目で見ながら、自分自身の感情を抑え込もうとしていた。火山帯は美晴にとっても初めて見る光景だったが、星良の静かな態度を見て、美晴も落ち着きを取り戻した。
「これから先は、少し難しい道のりになるかもしれませんね。」星良が緩やかに言った。美晴は少し驚いた表情を浮かべて星良を見た。
「星良さん、この火山帯を通り抜けるんですか?」美晴は不安げな声で尋ねた。

星良はうなずき、軽く笑った。「そうだよ。少し危険だけど、これが一番早い道だから。」
その言葉を聞き、美晴は緊張した表情をした。しかし、星良の冷静さと確信に満ちた態度を見て、美晴も頷いた。
「わかりました。じゃあ、私たち、頑張りましょう!」美晴は勇気を奮い立たせ、星良に微笑んだ。
そうして、二人は火山帯を通り抜けるための旅を続けた。

火山帯を進む中、星良と美晴は、一人の狛犬族の男、魂音と出会った。その姿は力強く、神聖さを感じさせる存在だった。灰色の短髪、白く尖った毛先、強く引き締まったあご、そして背中から伸びる大きな装飾。その全てが彼の種族の特性を象徴していた。
魂音は神聖な場所として崇められるこの火山帯の守護者だった。しかし、その眼差しには深い憂いがあり、口から出る言葉は星良と美晴に衝撃を与えた。
「この神聖な場所が何者かによって汚されてしまったのだ。」その言葉に美晴は声をあげた。
「えっ、でもここは... 火山帯は炎煌城と水晶城の境界...誰が、何故?」
星良も魂音に注目し、冷静な視線で彼を見つめていた。「それは、我々が調査するべきだな。」と、彼女は確信をもって言った。
魂音は2人を見つめ、「ありがとう、我々の神聖なる場所を守るため、助けてくれるとは...」と、深い感謝を示した。

火山帯の深部へ進んでいくと、魔術師影丸の存在を目の当たりにした。彼の姿は恐ろしく、人間の寿命を超えていると思われる老いた男であった。人間かつてはそうだったが、現在では何なのかすら不明で、彼が火山を汚染したのだとすれば、彼の存在はただならぬものであることが明らかだった。

星良、美晴、そして魂音は、一丸となって影丸に戦いを挑むことを決意した。
美晴はその瞬間、身軽さと敏捷さを活かし、一瞬で影临の側へと飛び出した。その動きは一瞬であり、影丸の反応を見る間もなく彼女はすでに彼の近くにいた。その優れた視力と聴力で、影丸の動きを予測し、次の行動を瞬時に考えた。
一方、星良は落ち着いて彼女の"クレイ・スプライト"を指揮し、それを彼女の視線で導いた。それらの精霊のような存在は、彼女の命令に忠実に従い、影丸への攻撃を開始した。星良の手元には刀がある。

魂音もまた、彼の神聖なる場所を守るために立ち上がった。彼の存在は力強く、その背中から伸びる装飾は神聖さを象徴するものだった。
3人はそれぞれの能力を駆使し、影丸に立ち向かった。それぞれの動き、攻撃、そして防御は絶妙に連携しており、一つの流れるようなダンスのようだった。
戦いが始まると、影丸の黒魔術はその真価を発揮し始めた。しかし、星良と美晴、魂音の力はそれに立ち向かうだけのものがあった。
「汚れた者よ、我が神聖なる場所から消え去れ!」魂音の声が火山帯に響き渡った。

影丸の攻撃はとどまることを知らず、あたかも闇が全てを包み込むかのように一行に襲いかかった。その攻撃は魔術の力によるものだけでなく、何か他の要素も感じられた。それは美晴が見つけた。彼女の鋭い目は影丸が手にしていたアーティファクトに気づいたのだ。

「あれが彼の攻撃の源かもしれないわ」と、美晴は星良と魂音に伝えた。そのアーティファクトは黒いオーラを纏い、影丸の黒魔術の力を増幅させているように見えた。
美晴はその瞬間、計画を練った。彼女の俊敏さと速さを活かすことで、彼女は影丸の手元からアーティファクトを奪うことが可能だと判断した。
「みんな、私に任せて!」と彼女は呼びかけた。そして一瞬で影丸のもとへと駆け出した。

彼女の動きは速すぎて、ほとんど目に見えなかった。星良と魂音は彼女の行動を見て、一瞬驚いたが、すぐに彼女が何をしようとしているかを理解した。そして、彼女の行動を援護するために、影丸に対して更なる攻撃を行った。
美晴は影丸の近くに到達し、彼の手からアーティファクトを奪い取ることに成功した。彼女は猫のような手つきで、それを掴み、素早く引き裂いた。

アーティファクトは一瞬で壊れ、その内部からは黒いオーラが漏れ出し、その後すぐに消えてしまった。影丸の顔からは驚愕の表情が見て取れた。
アーティファクトを失った影丸の力は劇的に落ちていた。彼の黒魔術の力は大きく減退し、もはや抵抗する力もないように見えた。影丸は立つことすら難しく、ひざまずいて地面を見つめていた。
星良は彼女の刀を抜き、影丸に近づいた。その表情は冷静で、彼女の目は決意に満ちていた。影丸へとどめを刺すべく、彼女は彼に向けて刀を構えた。

しかし、その瞬間、彼女は動きを止めた。影丸を殺すことは、目的を達成するのに必要なことではなかった。彼はかつて人間であり、かつての彼が持つ情報は彼らにとって有用かもしれない。特に、彼が炎煌城と何らかのつながりを持つ可能性があるならば、彼を生かしておくことが賢明であると思えた。
「殺さない。」星良が静かに言った。「彼が知っていること、彼が炎煌城とつながりを持つ可能性がある。それを確かめるため、彼を生かしておくべきだ。」
星良の言葉に、美晴と魂音は少し驚いたが、すぐに彼女の意図を理解した。
だから彼らは星良の提案を受け入れ、影丸を捕らえることに決めた。影丸はもはや抵抗する力もなく、彼らの決定に従うしかなかった。

全てが落ち着いた後、魂音は星良と美晴に向き直った。彼の獅子のような顔立ちは、感謝の表情で柔らかくなっていた。
「お礼を言いたい。」彼の声は深く、力強かった。「私の守る場所を汚す者を討ち、神聖な火山を救ってくれた。それに感謝する。」
星良と美晴は彼の言葉に静かに頷いた。彼らはただ目的を達成するために行動していただけで、その行動が魂音の神聖な場所を救うことにつながったのは偶然だった。

それでも、魂音の感謝の言葉は、彼らが正しいことをしているという確信を深めるものだった。
「それだけでなく、私はもっと協力したい。」魂音は言った。「星良、美晴、あなたたちの旅に同行させてほしい。」
星良と美晴は彼の提案に少し驚いたが、すぐにその意義を理解した。魂音は強く、忠実で、彼の力は彼らの旅を助けることだろう。そして彼が彼らと一緒にいることで、彼らは魂音の神聖な場所を守ることもできる。

「それはありがたい。」星良が答えた。「私たちはあなたの力を歓迎する。」
美晴も同様に魂音の提案を喜んで受け入れた。こうして、星良と美晴の二人だけだったパーティーに、新たな仲間、魂音が加わった。彼らの目指す炎煌城までの道のりはまだ遠い。しかし、魂音が彼らの一員となったことで、その道のりは少しでも楽になったことだろう。

長い旅を経て、ついに星良、美晴、魂音の三人は目的地、炎煌城に辿り着いた。遥か彼方から見るだけでも、その堂々とした姿には圧倒された。巨大な石壁が高く聳え立ち、その頂上には炎が輝いていた。これが炎煌城だ。神話や伝説で聞いてきた場所が、目の前に現実として存在している。それは驚異的で、ある意味では圧倒的な存在感だった。
「ここが、炎煌城か…」星良がつぶやいた。その声は少し震えていた。
「うん、ここだよ。」美晴も返事をしたが、その表情は明るさを失っていた。彼女の眼差しは城を見上げていた。その眼差しには恐れ、そして決意が混ざっていた。
彼ら三人は城門をくぐり、中に入った。城内は賑やかだった。多くの人々が行き交い、あちこちから人々の声が聞こえてきた。彼らの話し声、笑い声、時には怒りの声。それぞれが炎煌城での生活を切り開いているのだろう。
彼ら三人はその声に耳を傾けた。話し声から、炎煌城の現状、人々の様子、さらには潜む危険性までを掴み取ろうとした。それぞれの声が彼らに炎煌城の真実を伝えていた。

炎煌城の人々の話を聞きながら、星良はひとつの疑問を抱いていた。「なぜ彼らは焔川勇次に直接自分たちの意見を伝えないのだろう?」
そんな彼女の疑問に対し、一人の老人が答えてくれた。「勇次公に意見を言えるとすれば、彼の弟、薫公くらいじゃろう。」
老人の言葉により、炎煌城の宗主、焔川勇次の弟、焔川薫の存在が明らかになった。彼は25歳と若く、城の宗主として兄の焔川勇次と共に統治しているという。
「薫公は、いつも内省的で、穏やかな態度を持っておられます。一方で、兄公の厳しい統制に反発し、改革を求めています。」と老人は語り続けた。
焔川薫は、炎煌城で一、二を争う剣術の腕前を持つ一方で、政治に対する理解は未熟とされていた。それでも、彼は厳しい軍国主義に対する反発心を持ちつつ、城の改革を進めようとしていた。

星良は彼女の手に掛かるはずだった影丸を、炎煌城の警察組織である「焔衛(えんえい)」に引き渡すことにした。
焔衛に到着した彼女たちは、黒魔術師影丸を紹介した。星良は「この男が火山を汚染しました。彼を適切に対処してください」と声を強く出した。しかし、焔衛のメンバーたちは一様に不審な様子を見せた。彼らは影丸を見るとすぐに身を固くして、互いに薄ら笑いを浮かべた。それは明らかに、何か秘密を隠しているように見えた。

星良は感じ取った。焔衛の一員たちが何か不穏な空気を漂わせていることを。そして彼女は直感した。この人々は影丸を捕らえることになると困る、そんな事情があるのかもしれないと。
美晴もまたその異変を感じ取った。彼女の猫又族としての鋭敏な感覚が、警告を発していた。それは一種の直感であり、一種の危険信号だった。美晴は星良の腕を掴んで、ほんの一瞬だけ目を合わせた。その瞬間、二人は互いの思いを理解した。
ここは気をつけなければならない。二人はその時、それを強く感じた。しかし、それを声に出すことはできなかった。だから彼女たちは影丸を焔衛に委ね、その場を後にした。
しかし、その後ろで焔衛たちは独り言をつぶやいていた。「影丸、なんでこんなところに……これは厄介だな」それは星良と美晴には聞こえなかった。

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