運命を紡ぐ三つの星:ヴィタリス、エルデリア、ユウキヨの物語 第18章

風花、アリアーナ、そしてテオ、レナ、蒼汰の5人は早朝、ミドラータへ向かうために出発した。まだ朝露が地面を濡らす静かな朝、5人は馬車に乗り込んだ。蒼汰とアリアーナが先頭、その後ろに風花、そして最後にテオとレナが並んだ。
馬車はしっかりとした木製の車体を持ち、中には程よく柔らかい座席が配されていた。それぞれの席には、旅の間に必要となる食料や道具が積み込まれていた。一行は馬車を引く2頭の馬に気を使いつつ、目的地へと向かった。
「ここからミドラータまで、どれくらい時間がかかるの?」アリアーナが聞いた。
「3日ほどだろう。」蒼汰が答えた。彼の声は安定感があり、旅の不安を少しずつ和らげてくれるようだった。

道中、静寂はしばしば彼らを包み込んだ。時折、風が草を揺らし、鳥がさえずる音が聞こえた。しかし、それ以外は静寂と平和が広がっていた。それは、この世界の自然との共存、そしてそこに潜む危険性を示していた。
突如、草原から巨大なモンスターが現れた。それは"ディープスネイク"と呼ばれる、長大な体を持つ蛇型のモンスターだった。口からは毒を吹き出すことができ、その巨大な体を使って攻撃を行う。
「私たちに任せて。」風花が立ち上がり、仲間に向けて言った。その目は明るく、困難に立ち向かう覚悟が見て取れた。
レナとテオも同様に立ち上がり、風花と肩を並べた。「分かった。頼んだぞ。」蒼汰は安堵の表情を見せ、馬車を降りた。
風花は先頭に立ち、ディープスネイクに向けて火の魔法を放った。その炎は激しく蛇の体を包み込み、その動きを制限した。
次にレナがステップを踏み、手に持った杖から水の魔法を解き放った。その水流はディープスネイクの炎を冷やし、さらにその動きを鈍らせた。
最後にテオが剣を振りかざし、スネイクに向かって突進した。彼の剣は炎と水によって弱ったスネイクの体を切り裂き、大きな傷を与えた。
ディープスネイクはその攻撃に抵抗できず、地面に倒れ込んだ。そして、再び立ち上がることなく、その大きな体は静かに消えていった。
一連の戦闘が終わった後、風花、レナ、テオの3人は互いに視線を交わし、小さな笑顔を見せた。それは、彼らの連携と共闘がうまくいった証だった。そして、それは新たな一歩、新たな希望を感じさせるものだった。

太陽が頂点に達し、午後の熱が草原を揺らした時、彼らの一行は一時的に馬車を止めて休憩することに決めた。風花とレナは軽い食事を取りながら、アリアーナは馬たちに水を供給した。一方で、蒼汰とテオはちょっと離れた場所で、星光の試射を行うことにした。
その星光は、黒いメタルの長い銃身、手にしっかりとフィットするグリップ、そして全体に施された細やかな彫刻と装飾が、光を反射して輝いていた。星々をイメージした模様は、その名前の由来を物語っていた。
蒼汰は星光を構え、遠くの標的に狙いを定めた。そして、銃声と共に弾丸が飛び出し、遠くの木の枝をピンポイントで撃ち抜いた。その一瞬、空気が振動し、一行の全員がその力強さに驚いた。

「すごい威力だね。銃を作っちゃうなんてお兄ちゃんらしい。」風花は感嘆の声を上げ、笑顔で蒼汰を見つめた。その笑顔は、幼い頃から蒼汰をお兄ちゃんと呼び慣れている名残を彼女に見せていた。
しかし、その反面、テオは少し懸念の表情を見せていた。「でも、これは国家間のパワーバランスを変えてしまうような威力だ。」彼は静かに、しかし深刻な表情でそのことを述べた。
蒼汰はしっかりと星光を握り、テオの言葉に頷いた。「分かってるよ、テオ。だからこそ、この星光を使うのは自分だけだ。」その言葉には、星光という武器を持つ責任と、それを正しく使う決意が込められていた。
その後、彼らは再び馬車に乗り込み、ミドラータへ向けて旅を再開した。

夕暮れの馬車内、レナとテオは二人きりでひそひそと話していた。テオがまず言った。
「ねえ、レナ。蒼汰とアリアーナのことについて、何か感じることはないか?」
レナは少しだけ考え込んだ。「何を指して言ってるの、テオ?」
「うーん、だから…二人の関係とかさ。ただの主従関係とは思えないけど、でもそれ以上にも見えないんだよね。」テオがそう言うと、レナの表情はわずかに緊張した。
「確かに、あの二人の関係は複雑よね。」レナは窓の外を見つめて言った。「でも、あの二人がどう考えているかまではわからないわ。それに、蒼汰は元々の世界の流儀に囚われている可能性もあるでしょ。」
テオは目を細めてレナを見つめた。「流儀?」
「そう。蒼汰の元の世界では、10歳近く年齢差があると恋愛や結婚はタブーとされてるみたいなの。でもアストレイアではそんなことは何とも思わないわよね。それがある意味で、蒼汰とアリアーナの間にある不可視の壁かもしれない。」

「それにしても、蒼汰と風花の関係だけど、やっぱりあの二人も異世界の流儀で、恋愛ができない年齢差なんじゃないかな?」テオはそう口にすると、レナは驚きの眼差しで彼を見つめた。
レナはテオの考えに内心で頷いた。「それはそうかもしれないわね。でも、アストレイアに来ているんだから、こっちに合わせればいいのに。」
「そうだよね。」テオは思慮深く頷いた。「それに、風花のことを考えてみると、恋愛の話題を全く聞かないんだよな。でも、一方で彼女が心に決めている人がいるんじゃないかって、どこかで思ってしまうんだ。」
テオのその言葉に、レナは思わず口元が緩んだ。「それって、もしかして、蒼汰のこと?」
テオは少し驚いた顔をしてレナを見つめた。そして、しばらく考えた後、ゆっくりと頷いた。「うーん、それは分からないけど…でも、確かに蒼汰と風花は特別な関係だよね。風花が誰を心に決めているのか、僕には分からないけど…。」
「そうね。」レナは微笑みながら言った。「でも、風花が幸せならそれでいいわ。彼女が心から好きな人が、どんな人でもいい。ただ、その人が風花を幸せにするなら。」

「そういえば、風花から異世界の話を聞いたことがあるわ。」とレナは静かに話し始めた。「異世界では、一人の男性が一人の女性としか結婚できないっていうのよ。」
テオは目を丸くした。「マジで? それなら、彼らがこの世界の習慣を受け入れられない理由がわかる気がするな。」
レナは深く頷いた。「でも、私たちアストレイアでは、一夫多妻制が普通だからね。本当は、彼らもこの世界の流儀になじむべきじゃないかしら。」
テオは少し考えた後、首を傾げて言った。「それはその通りだけど、彼らは自分たちの生まれ育った世界の習慣を捨てて、全く新しい習慣を受け入れるのは簡単じゃないかもしれないね。」
レナはふと思いついたように言った。「それなら、私たちがもっと彼らを理解して、この世界の流儀になじむ手助けをすべきかもしれないわね。」
テオは思わず笑ってしまった。「それはそれで面白そうだね。友人として、そして新たな世界の住人としての役割だと思うよ。」

テオとレナの会話は、徐々にシャドウ・エクリプスの話に移った。テオが冷静に口を開いた。
「シャドウ・エクリプスはやはりドラクシアと深い関わりがあると思うんだ。」
レナは慎重にテオを見つめ、首を傾げて言った。「何を根拠にそう思うの?」
テオは深く息を吸い込み、ゆっくりと息を吐き出した。「考えてみて欲しい。私たちは2年前、エレシア・ウィンドソングの歌の力で二人にかかった呪いを解いてもらったんだ。」
「そうだったわね。」とレナは頷き、その記憶に思いを馳せた。「でも、エレシア自身も魔王軍の幹部に呪いをかけられていて、そのせいで彼女自身が命の危機に陥ってしまったのよね。」
テオはレナの言葉に頷いた。「そうだ。彼女の歌はとても美しく、力強かった。でも、その歌を歌う度に彼女の生命力が吸い取られ、彼女自身が苦しむ姿を見て、何も出来なかったんだ。それが私たちがエレシアに何をしたのか、何をすべきだったのかを常に考えさせる。」
レナはしばらくの間沈黙を守った。その後、彼女は穏やかに話し続けた。「私たちはエレシアのことを思い、力になりたかったわ。でも、私たちはただ彼女の苦しみを見つめるしかなかった。それが私たちがシャドウ・エクリプスと向き合う理由だと思うの。」
魔王アゾゴスが治める国"ドラクシア"
ドラクシアは、大陸北部の荒涼とした山岳地帯と深い森林、そして広大な地下洞窟のネットワークに囲まれた国。ここでは、夜が永遠に続き、月が常に高く輝いている。国の中心部には、巨大な黒曜石の城がそびえ立ち、その城からは魔王アゾゴスの力が溢れ出ている。
アゾゴスは、強力な魔法とカリスマ性を兼ね備えた存在で、彼の力はドラクシアの全ての生物に影響を及ぼしている。彼は闇の軍団を統率し、自身の野望を達成するために他の国々に対する侵略を続けている。

モンスターとの遭遇はあったものの、蒼汰、アリアーナ、風花、レナ、テオの5人の旅行者は、彼らの目的地であるミドラータに無事到着した。その町は、大陸の南東部に位置し、大洋に面している美しい港町だった。
ミドラータの町は約8,000人の人々が住んでいる。町の経済は主に漁業と貿易によって成り立っており、地元の漁師が日々の獲物を市場で売り、それが内陸部へと輸送される。さらに、大洋を越えて遠い地方からの商品も町の港に運び込まれ、多様な商品が市場で取引されていた。
ミドラータの町は漁業と貿易に特化した形で構成されている。港に面している町の一部は倉庫や海産物の加工場、漁具の店などが立ち並んでいる。町の中心部には賑やかな市場が広がり、その周囲にはさまざまな職業の人々が住む住宅街が広がっていた。
また、ミドラータの特徴はその美しい海岸線と夕日で、訪れる旅行者を引き付けていた。その景色は絵になるような美しさで、人々の目を楽しませていた。そして、地元の海産物を使った料理は、訪れる旅人たちから高い評価を得ていた。

「セレスティアル号」は、見るからに圧巻の大型艦船だった。その艦船は、エルデリア王国が自国の力と威信を示すために建造したもので、その大きさと美しさはミドラータの港に停泊する他の船舶を圧倒していた。
艦船の船体は、青と白を基調とした色彩が織り成す美しいデザインで、まるで天空を舞う大きな鳥のようだった。その壮大な船体には数々のセイルがついており、風を受けて膨らむその様子は、まるで自由に空を飛ぶ鳥の翼のようでもあった。その艦首には、天空の女神とされる美しい女性の彫像が飾られており、それがこの艦の名前「セレスティアル」、すなわち「天空の」という意味を象徴していた。
セレスティアル号は、500人以上の乗員を同時に運ぶことが可能な大型艦船であり、その中にはエルデリアの王族や貴族、そしてエルデリア海軍の精鋭たちも含まれている。その中には、エルデリア海軍のベテランであり、どんな困難な状況でも冷静な判断を下し、船と乗員を守ることができる経験豊富なキャプテンもいた。その他の乗員たちも、長い訓練と厳しい選考を経て選ばれた者たちで、セレスティアル号を最高の状態で運用する能力と知識を持っていた。

この艦船は、ミドラータからエルデリアまでの長距離の航海に対応できるだけでなく、他国からの緊急脱出や大規模な移動を行う際にも使用される。そのため、セレスティアル号はエルデリア王国にとって非常に重要な存在であり、それがミドラータの港に停泊しているという事実は、エルデリア王国の存在感と力を強く示していた。
海の塩気をまとった風が通り過ぎる中、アリアーナの視線は港に停泊している大型艦船、セレスティアル号へと向けられていた。その姿は、ひときわ目を引く存在感を放ち、視線を引きつけて離さない。その存在感は、まるで遠くの星々から降り注ぐ光のように、アリアーナの心を捉えて離さなかった。

「あの船、セレスティアル号で移動するの?」と、アリアーナは視線をセレスティアル号から風花へと移し、声を掛けた。彼女の声には、一抹の不安と期待が混ざっていた。
風花は、アリアーナの質問に対して、軽く頷きながら「うん、そうだよ」と答えた。彼女の口元には優しい笑みが浮かび上がり、その笑顔はアリアーナの不安をやわらげた。「私たちはセレスティアル号でエルデリアへ向かう。心配することはないよ、アリアーナ。私たちが一緒にいるからさ。」

海風が強くなり、港の騒音が遠ざかっていく。確かな足取りで船体に続く渡り板を渡り、五人はセレスティアル号に乗船した。船体はまさに要塞のようで、堅牢な木材と鉄板が交互に組み合わされていた。その強固さには、遠く離れたエルデリアへと安全に向かう確信を持たせてくれるものがあった。
甲板に上がると、一面に広がる碧い海が目に飛び込んでくる。海風が頬を撫で、身体全体に新鮮なエネルギーを感じさせる。アリアーナはその風景に見とれ、船の甲板に立っていることの喜びに満たされた。

「さすが、エルデリアの船だ。大きいね。」とアリアーナが感嘆の声を上げる。彼女の目は、セレスティアル号の船体を上から下まで、そしてその長大なマストを見上げていた。
艦船のキャプテン、ヘクター・バレンタイン。彼の存在は、まるで船そのもののように頑丈で、しかし安心感を与えてくれる。ヘクターの顔は、無数の海風と海水に耐え抜いてきた証、風化したような肌に覆われ、深い皺が彫り込まれていた。その瞳は、遥か遠くを見つめるかのように、深い青色を帯びていた。
「キャプテン、ヘクター・バレンタイン、お会いできて光栄です」と、風花が敬意を込めて挨拶をした。彼女の声は、海風に乗って甲板を越えていった。
ヘクターは風花の言葉に微笑みを浮かべながら、頭を下げた。「風花さんたち、これからの航海でよろしく頼む」と彼は言った。その声は、荒海を越える船の帆のように、強くて、確かだった。
風花は、"風斬りの風花"としてエルデリアで名を馳せている。ヘクターも風花のことを一目置いているようだ。
彼らの旅はこれからが本番だ。ヘクター・バレンタインは彼らを乗せ、エルデリアへと向かう。

セレスティアル号が波立つ海を滑るように進む中、甲板上では月岡蒼汰と灘波風花が対話を交わしていた。海風が二人の髪を撫で、深い青色の空には星がきらきらと輝いていた。
「ねえ、お兄ちゃん。あの銃、星光って、どうやって作ったの?」風花が質問した。その瞳には純粋な好奇心が宿っていた。
蒼汰は手元の星光を見つめながら、少しだけ笑みを浮かべた。「それはね、僕の能力、"知識の吸収"のおかげさ。」

蒼汰は再び星光を見つめ、そのメカニズムを説明した。「この星光は、僕が読んだ本や情報から吸収した知識を基に作ったんだ。設計図を頭の中で組み立て、それを実体化させる。それが僕の"知識の吸収"の力だよ。」
風花は驚きを隠せずにいた。蒼汰の能力、それは彼女が思っていたよりも遥かに深淵で、そして強大なものだった。
「それなら、お兄ちゃんは何でも作れるの?」
蒼汰は苦笑しながら首を振った。「そう簡単にはいかないよ。吸収できる知識には限りがあるし、それをどう応用するかはまた別の話だからね。」
「でも、それでもすごいよ、お兄ちゃん。」風花の目には、尊敬と、そして何か切なさげな輝きが浮かんでいた。
蒼汰は何も言わずに、ただ静かに星光を撫でていた。そして、その先に広がる海原を見つめて、新たな知識、新たな力を求めていた。

風花は甲板の端に座り、ゆっくりと湧き上がる月を見つめていた。海面に映る月の輝きが、星光と同じような輝きを放っていると感じた。そう思うと、星光の美しさ、それはまるで月の美しさと同じで、なんとも言えない気持ちが心の中に湧き上がった。
「蒼汰、お兄ちゃん……」
その名をつぶやきながら、風花は蒼汰の姿を思い浮かべた。その時、心の中に浮かんだのは、知識を吸収し、それを形にする彼の姿だった。風花はその姿に感動し、同時に尊敬の念を抱いた。
だが、その感情は尊敬だけではなかった。それはまるで、彼女自身が何かを形にしたい、という願望のようなものだった。蒼汰が持つ能力、それが風花に何かを思い起こさせたのかもしれない。何か新しいものを生み出す力、それが風花にとっては何よりも魅力的だった。

ふいにセレスティアル号が激しく揺れ、風花は驚きの声をあげて立ち上がった。「どうしたの、お兄ちゃん!」
蒼汰もまた驚いた様子で船体を見つめていた。「何か、海の中から……」
二人が海面を見つめると、突如として海面が割れ、巨大な影が現れた。その姿はまるで、神話に描かれた巨大な海獣のようだった。


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