運命を紡ぐ三つの星:ヴィタリス、エルデリア、ユウキヨの物語 第33章

「…これは難しい問題ね。」風花は息を吹きかけながら、手元のエーテルウェーブ通信装置に表示されたメッセージを眺めた。それは月岡蒼汰からの一通の緊急連絡だった。内容は驚愕のもので、エルデリアとユウキヨが共闘してドラクシアを攻める計画を求めるというものだった。風花は思わずため息をついた。エルデリアとユウキヨ、両国は過去に何度も衝突してきた歴史を持つ。そのために敵対心は決して薄れることがなかった。そんな両国が共闘するだなんて、誰が聞いても信じがたい話だ。

しかし、蒼汰からの連絡は間違いなく事実だ。それは風花が受け取ったエーテルウェーブ通信装置の震える音と、画面に映し出された文字から明らかだった。
「これが本当にできたなら…」
風花は少し考え込んだ。エルデリアとユウキヨが共闘してドラクシアに立ち向かう。そのシナリオは、彼女たちが異世界ヴィタリスに召喚されてから考えてもみたことのない未来像だ。しかし、それが現実になる可能性があるとしたら、風花はどう行動すべきなのだろうか?

「ユウキヨとエルデリアが共闘するだなんて、誰が考えたのだろう。」アレイスター・デ・ヴァリスは考え込む。彼はエルデリアの騎士団長で、風花からその話を聞いた時、彼の表情は曇った。
「だけどそれが現実になる可能性があるとしたら、どう思う?」風花はアレイスターに尋ねる。
彼は一瞬考え込んだ後、深いため息をついた。「それは難しい問題だ。ユウキヨとエルデリアが共闘するというのは、我々にとってもリスクが高すぎる。しかし、ユウキヨからの要請ではなく、我々自身の判断であれば可能性があるかもしれない。」
風花は驚いた。アレイスターの言葉は、彼女が考えていたものとは違った。「エルデリアが独自の判断でドラクシアを攻めるだなんて、それは…」
「戦争をしかけることだ。」アレイスターが静かに言った。「しかし、私たちが何もしなければ、ドラクシアはこの世界を侵略し続けるだろう。それは我々にとって、また、この世界にとっても容認できる事態ではない。」
彼の言葉には説得力があった。風花も同じことを思っていた。ドラクシアの侵略は止めなければならない。しかし、そのために戦争を引き起こすというのは、風花にとって心に響くものではなかった。

その翌日、アレイスターは風花を自身の事務所に呼び出し、彼女の肩に重い役割を預けることを決意していた。彼女が部屋に入ると、彼は立ち上がり、風花に深々と頭を下げた。
「風花、我々エルデリアは君に重大な任務を託したい。」アレイスターの声は堅く、重々しく響いた。
風花は驚きの表情を浮かべながらも、彼女の目には固い決意が灯っていた。「どんな任務であろうと、私は受けます。」
アレイスターは頷き、彼女の決意を評価するような視線を送った。「良い。私達はエクリプス・シャドウの勢力をエルデリアから追い払った。そして今、我々が新たなる挑戦者として立ち上がらねばならない時が来た。」
風花の眼差しは少し驚きを含んでいたが、彼女は静かに聞き入った。アレイスターは一息つき、言葉を続けた。
「ドラクシアへ行って欲しい、風花。」
風花は少し身体を引いたが、すぐに自分を奮い立たせ、アレイスターに向かって言った。「わかりました、アレイスター。私はその任務を全うします。ドラクシアに行き、我々の存在を示し、反転攻勢を始めます。」
アレイスターは満足げに微笑んだ。「私達の期待を裏切らないで欲しい。風花、君ならきっとやり遂げてくれると信じている。」
それが風花の新たな旅の始まりであった。彼女はエルデリアの旗印として、未知の地ドラクシアへと向かうことになった。しかし、彼女の前に待ち受けているのは、彼女が想像する以上の困難だった。

風花はエルデリアを後にし、ヴィタリスの首都、タルバロス・シティに向かった。彼女の心は高ぶりつつも、その中には深い決意と苦悩が混ざり合っていた。過去の因縁、サルヴァトールとの決着。そのためには新たな仲間が必要だと感じていた。
タルバロス・シティは剣闘士たちが集まる場所で、風花はそこで新たな仲間と力を見つけることを期待していた。しかし、その道のりは決して容易なものではない。タルバロス・シティには数々の試練が待ち受けており、それらを乗り越えることで初めて真の力を得ることができる。

風花がタルバロス・シティに到着したのは、ちょうど「ライオンハート・グランプリ」と呼ばれる年に一度の剣闘士の大会が開かれる日だった。風花もその大会に参加することにした。サルヴァトールと対等に戦うための力を手に入れるためだけでなく、大会での勝利は彼女の名声を上げ、タルバロス・シティの戦士たちに自身の目的を理解してもらう良い機会だと考えたからだ。
ライオンハート・グランプリは厳しいルールと過酷な試練で知られていた。戦士たちは真剣勝負を繰り広げ、生き残る者だけが次のラウンドへ進むことができた。風花は自分の力を試す場として、この大会を選んだ。
風花の参加が決まると、大会のオーガナイザーは彼女を特別な待遇で迎え入れた。エルデリアの騎士であり、エクリプス・シャドウを退けた勇者という風花の名声は、既にタルバロス・シティまで届いていたのだ。
大会が始まる前夜、風花は自分の剣を手に取り、月明かりの下で独り練習を始めた。その剣の輝きは、彼女の心の中にある決意と希望を象徴するかのようだった。サルヴァトールへの挑戦、そしてテオのこと。そのすべてを胸に秘めた風花は、タルバロス・シティの闘技場に向けて、その一歩を踏み出した。

ライオンハート・グランプリの初日、風花は見事に初戦を制した。相手は硬派な戦士で、二刀流の剣士だった。風花はその速攻に対し、風の力を活用した巧妙なフットワークで立ち向かった。結果的に、風花の冷静さと直感力が彼女の勝利をもたらした。
次の戦いでは、風花は巨人族の戦士と対決した。彼女は巨人の強大な力に圧倒されながらも、風の力を利用してその攻撃をかわし、剣で反撃した。風花の機転と技術は観客を沸かせ、彼女の名声は一層高まった。
次の相手は、荒々しい野獣のような戦士だった。その戦士は乱暴な攻撃を繰り出すが、風花は風の力でそれを避け、相手の体力が尽きるのを待った。そして、決定的な一撃を放ち、勝利した。
その後、風花は準決勝までの戦いを通じて疲労と傷を抱えながらも、勝利を重ねていった。彼女の戦闘スタイルは見事なまでのバランスとテクニックを持っており、それが彼女の勝利の鍵となった。

ついに、風花は準決勝の舞台に立つこととなった。そこで待ち受けていたのは、荒々しい野獣のような戦士だった。一戦を前にして、彼女の目には覚悟の光が輝いていた。
ヴィタリスの戦士たちは、まるで巨大な獣が闘技場に入場したかのように観客から賞賛の歓声を受けていた。彼らの身体は筋肉で覆われ、その表面には無数の闘争の証が刻まれていた。しかし、その肉体の下には一層深い力が秘められていた。
それは彼らが生まれつき持つ特殊な力だった。ヴィタリスの戦士たちは生まれながらにして身体強化魔法の素質を備えており、これが彼らにとっての「魔法」だった。彼らは日々の厳しい鍛錬を経て、その能力を磨き上げ、自然と身につけていく。そして、この力は彼らに圧倒的な身体能力を与え、他の何者にも勝る強さを保証していた。
風花は自分のスタイルとは異なる彼らの戦闘スタイルに驚きながらも、深く興味を持っていた。彼女は風の魔法を使って戦うが、魔法を使用しない彼らの身体能力と素早さは彼女のスタイルとは全く異なっていた。彼らの中には、彼女がサルヴァトールに立ち向かうために必要としている力があることを、彼女は痛感していた。
ヴィタリスの戦士たちの生き様は風花に新たな視点を提供し、彼女の闘争への考え方を深めていく。彼らは魔法を使わずとも、身体を鍛え上げることでその差を埋めていた。風花はその事実を頭に叩き込み、サルヴァトールとの対決に向けて新たな覚悟を決める。

闘技場の砂埃が舞い上がる中、風花の前に立つ巨大な戦士がいた。その名はグリフォン、身体を強化する魔法を使いこなし、闘技場のみならず戦場でも無数の敵を倒してきたヴィタリスの戦士だった。
戦いが始まると、グリフォンはたちまち風花に向かって猛烈な攻撃を仕掛けてきた。巨体が地を蹴って加速し、手にした大剣が風花の頭を直撃しようと躍動した。だが風花は風の魔法で身体を軽くし、グリフォンの攻撃をすばやく回避する。
風花は風の魔法を使ってグリフォンを攻撃した。風の刃が彼の肉体を切り裂いたが、彼はそれをほとんど気にせず、自身の攻撃を止めなかった。だが、風花はあえて近接戦に持ち込み、彼の攻撃範囲内に入った。
戦いは一進一退の攻防となり、次第に風花が優勢になった。風の魔法と肉体の鍛錬、二つを融合させた戦法で風花はグリフォンに立ち向かった。彼女の剣技は鋭く、風の魔法は破壊的だった。
最終的に、風花は風の刃でグリフォンの防御を突破し、直接彼の体に傷を負わせることに成功する。風花の勝利で闘技場は静まり返り、その後大きな歓声が湧き上がった。
勝利した風花は、戦いの中で自分自身を新たに見つめ直すことができた。

「剣闘大会の準決勝戦、優勝候補の剣闘士ディミトリウス・ガレオンと、無名の若き剣闘士アレクセイ・ザラトフの対決の時間です!」
アレナ中央でアナウンサーの声が響き渡る。全ての視線が一点に集まる。二人の男がアレナに立っている。ディミトリウス、無骨な肉体と経験に磨き上げられた技術を持つ剣闘士。そして、アレクセイ、荒々しい闘争心と無尽蔵のスタミナを秘めた新星。
会場には不安と期待が入り混じる雰囲気が漂っていた。だが、アレクセイは構わず、彼の闘志が炎のように燃え盛る。
試合開始の合図が鳴り響き、それと同時にディミトリウスがアレクセイに向かって一閃した。しかしアレクセイはその攻撃を見切り、軽やかに身をかわし反撃。その荒々しい剣撃はディミトリウスを押し込み、観客たちは息を呑んだ。
戦いは次第にアレクセイのペースで進んでいく。彼の野性味溢れる戦い方と、力強く迫る剣技にディミトリウスは苦しんだ。そして最後は、アレクセイの猛烈な斬撃がディミトリウスをアレナの地に倒し、彼の勝利を決定づけた。
「無名の若き剣闘士、アレクセイ・ザラトフの勝利!」アナウンサーの声がアレナを包む。観客たちは一瞬の沈黙の後、大きな歓声を送った。アレクセイは深く息を吸い込み、勝利を確認するように自分の剣を見つめた。そして、彼は次の試合、つまり、風花との戦いに思いを馳せた。

タルバロス・シティの夜は、喧騒から一転、静寂が広がっていた。しかし、その静けさは長くは続かなかった。アレクセイ・ザラトフが街の闇に巻き込まれ、その現場に風花が遭遇したからだ。
アレクセイは剣闘大会の後、疲れを癒すために地元の酒場に立ち寄った。しかし、そこで酔っ払った男たちと言い争いになってしまった。アレクセイが酔っぱらいたちを一蹴すると、その場はさらに乱れ、男たちは道具を使って攻撃を始めた。
風花は、その騒ぎを聞きつけて現れる。風花はアレクセイが自業自得だと思いつつも、男たちの危険な行動を止めるために割って入る。彼女は風の魔法を使って男たちを吹き飛ばし、場を一時的に沈静化させた。
しかし、アレクセイは風花の助けを喜ばず、むしろ怒りを見せた。「私は君の助けなど求めていない。私の問題は私が解決する」と言い放つ。
風花はアレクセイの怒りに驚く。「あなたが困っている人を助けただけよ。その感謝の意味もわからないの?」と彼女は反論した。

風花はアレクセイの態度に失望した。彼が大会で素晴らしいパフォーマンスを見せたことを考えると、その振る舞いは予想外だった。しかし、彼が街の喧嘩で自分を助けるために駆けつけたことを思い出すと、アレクセイに対する感情は複雑だった。
一方、アレクセイもまた風花について深く考えていた。彼女が自分を助けるために危険に身を投じたことに感謝していたが、彼のプライドはその感謝を上手く表現できなかった。

それから数日後、遂に剣闘大会の決勝戦が始まった。風花とアレクセイが闘技場で対峙する時、互いに対する認識は少なからず変わっていた。勝利への渇望、そして互いへの新たな感情、それが闘技場に張り詰めた緊張感を一層高めていた。
大会の主催者は戦闘の前に二人を中央に呼び出し、大声でアナウンスを始めた。「これより剣闘大会の決勝戦を開始します。我々タルバロス・シティの誇り、二人の最強の剣闘士がここに立っています。彼らが戦うのは栄誉、名誉、そして我々の前に立つことの証です。」
観衆の歓声が闘技場を揺らした。風花とアレクセイはお互いに目を合わせ、黙って手を握った。そして、その瞬間、最終戦が始まった。

金刃が闪き、肉体がぶつかり合う音が闘技場に響き渡った。風花とアレクセイは互いの弱点を探りながら、慎重に攻防を繰り広げた。風花は風の魔法を巧みに織り交ぜた剣術で攻撃を仕掛け、アレクセイは生まれながらに持つ身体強化魔法を駆使して反撃した。
闘技場では、その見事な剣技に観客たちが息を呑んだ。風花の剣術は華麗で優雅、それでいて鋭い。一方、アレクセイの剣術は力強く、粗暴な一面もあるが、それだけに一撃の重さは凄まじいものがあった。
戦闘は長時間続いた。しかし、最後は風花の勝利に終わった。アレクセイの最後の攻撃をかわし、風花は風の刃で彼の防御を切り裂いた。観客席からは惜しみない拍手と歓声が上がった。
剣闘大会の終了後、風花はアレクセイを探しに行った。彼の無礼な態度とは裏腹に、闘技場で見せた彼の剣術は風花に深い印象を残していた。彼女は彼とともにサルヴァトールに立ち向かうことを決意していた。

風花がアレクセイを見つけたとき、彼は闘技場の片隅で一人で剣を振っていた。「アレクセイ」と彼女が呼ぶと、彼は驚いたように振り返った。
「お前、勝ったんだろう?」彼は笑った。「おめでとう。それにしても、お前の剣術、見事だったよ。」
風花はほっとした。「ありがとう、アレクセイ。でも、それだけじゃない。私、君に頼みがあるんだ。」そして、彼女はアレクセイに、共にサルヴァトールと戦うことを提案した。

「お金か。」風花の声には失望が滲んでいた。「それが君の求める全てなの?」
アレクセイの表情は一瞬で硬くなった。「何が問題だ? お金なんて生きていくために必要なものだ。」
風花は彼の目をじっと見つめた。「でも、それだけ?」
アレクセイは口を開けたが、何も言わずに閉じた。彼は首を横に振った。「話したくない。」
「わかった、それでいい。」風花は深呼吸した。「お金を求める理由があることはわかる。だから、それに応えよう。でも、それと引き換えに、私たちと一緒に戦って欲しい。」
アレクセイはぎょっとしたように風花を見たが、すぐに目を細めて微笑んだ。「了解だ、風花。君たちと一緒に戦うこと、受け入れるよ。」

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