運命を紡ぐ三つの星:ヴィタリス、エルデリア、ユウキヨの物語 第24章

「風花!」
風花は激しい衝撃と共にその場に倒れ込んだ。炎の矢が彼女の体を貫き、熱を帯びた風が舞い上がる。それは一見すると致命傷に見えた。しかし、彼女はまだ息をしている。それは小さな希望の光だった。
「風花!」アリアーナは驚きのあまり声を失った。彼女の瞳からは驚愕と絶望が混ざり合った感情が溢れていた。その一方で、テオは声を上げてサルヴァトールに向かった。その目には強い憤りと決意が燃えていた。
レナは優れた魔法使いとしての本能に従って、直ちに風花の方に向かった。彼女の手からは水色の魔法の光が放たれ、回復魔法を風花にかけようとした。

一方、蒼汰は状況を理解しようとしていた。風花が撃たれたこと、それが見えない何者かによるものであったこと。それらを整理し、その答えを見つけ出そうと、彼は限られたわずかな時間で知識を総動員させた。彼の能力、"知識の吸収"は、数多くの情報を蒼汰の脳に送り込む。
そして、その中から一つの答えを見つけ出す。不可視の魔法。それは自分自身を透明にする魔法で、見る者から姿を消すことができる。この魔法によって不可視となっている別の敵が、風花を撃ったのだ。
そして、その敵はサルヴァトールと同じく四大眷属の一人、イグニシアである可能性が高い。彼女以外に不可視の魔法を使った記録はないからだ。サルヴァトールとイグニシア、二つの脅威が彼らに迫っている。その事実を蒼汰は理解した。

状況は一変し、戦局は混沌とした。しかし、蒼汰はその中でも残された僅かな道を探しつづけた。1つだけ、彼には今の状況を打開する手段がある。
サルヴァトールは、蒼汰が気づいたことに気づいていない。
「テオ。」蒼汰は彼に声をかけた。「時間を稼いでくれ。どんな手を使ってでも、何とかしてくれ。」
テオは蒼汰の声に反応し、頷いた。彼はもう一度剣を構え、新たな敵に立ち向かう準備を整えた。
次に蒼汰はレナに声をかけた。「レナ、僕が風花に回復魔法をかけるための時間を作る。それまでテオの援護に徹してくれ。」
レナは驚きつつも、蒼汰の言葉を信じて頷いた。彼女は水の魔法を使い、テオとサルヴァトールの間に強力な水流の壁を作り上げた。それは彼女の得意技、ウォーターバリアだ。それによりテオには少しの間だけ呼吸の余裕が生まれた。
最後に蒼汰はアリアーナに向かった。彼女はまだショックから立ち直れていなかった。風花の突然の落命、その情景が彼女の心を揺さぶっていた。しかし、今は立ち直る時間などない。蒼汰は力強く彼女に声をかける。
「アリアーナ、立ち直って。今、君の力が必要だ。風花が戦えない分、君が代わりに戦わなくてはならない。君ならやれる、信じてる。」
アリアーナは蒼汰の言葉に少しずつ反応し始めた。彼女の瞳には戸惑いと恐怖がまだ残っていたが、徐々にそれが決意に変わっていく。

サルヴァトールは、蒼汰が手にしているその武器―銃に興味津々だった。彼の世界ではまったく見かけない、異世界の武器。その銃から放たれる魔法のような力は、彼の知っている弓や魔法とは全く違う。
その威力、その形状、そしてその使い方。全てが新鮮で、彼の探究心をくすぐっていた。そして何より、それを手に入れたいという欲望が彼の心を支配していた。
だが、その前に一つ一つ障害を取り除かなければならない。彼の最初の目標は剣を振るうテオだった。彼の剣技は見事で、強大な敵を相手に立ち向かう勇気もまた彼を魅力的な存在にしていた。
彼らは事前に風花たちの来襲を察知していた。そして、サルヴァトールとイグニシアは、風花を確実に殺す方法を考えていた。。
彼らの策略は、風花の能力、風の翼の最大の長所であるその速度を逆手に取るものだった。通常の方法では風花の速さについていけず、追い込んでも彼女に逃げられてしまう。それを防ぐため、彼らは風花がとどめの一撃を放つ瞬間に、イグニシアの炎の矢で彼女を討つという作戦を立てていた。

そしてその作戦は、見事に成功した。風花はその場に倒れ、彼女は止まった。
しかし、それは一時的なものだけで、蒼汰たちはまだ戦い続けている。
サルヴァトールは、次の行動を決めるために少し考えた。
彼の決断は、テオを倒し、次に蒼汰を討つというものだった。
サルヴァトールは再びイグニシアに合図を送った。イグニシアに。四大眷属の一人で、彼女の炎の力は一度風花を倒した。今度はテオが狙われた。
イグニシアはその指示を受けて、不可視の魔法に守られたまま炎の矢を準備した。魔法の力が身体中に広がり、指先から炎の矢が生まれてきた。その矢はテオの命を狙う。
だが、その瞬間、何かが起きた。

蒼汰の銃がイグニシアの方向に向かっていた。その瞬間、全てがスローモーションになったかのように感じられた。
炎の矢が飛び出す直前、蒼汰の銃からも光が放たれた。それは星のように輝き、闇夜を照らす光。その光は彼女を貫いた。
不可視の魔法が解け、彼女の姿が露わになった。
イグニシアの叫びが闇夜に響き渡った。彼女の炎の矢は空中で消え、風花と同じく彼女もその場に倒れた。
サルヴァトールが驚愕する中、蒼汰は再び彼に向かって銃を向けた。それは彼の次のターゲットがサルヴァトールだという明確なメッセージだった。

不可視の魔法には明確な三つの弱点が存在した。
一つ目は、詠唱に時間がかかること。一度に多大な魔力を必要とするため、その準備には時間が必要となる。二つ目は、攻撃されると解けてしまうこと。石にぶつかっただけでもその魔法は解ける可能性があった。そして三つ目、電磁波の流れを変えるという特殊な動きのため、高度な集中力が必要だった。
蒼汰はこれらの弱点を見抜き、その知識を利用することを決意した。イグニシアとサルヴァトールがまだ状況に気づいていないことを確信していたからだ。

イグニシアがテオを狙うその瞬間、反撃することが可能だと蒼汰は考えた。
炎の矢による攻撃を放つその瞬間、一瞬だけ不可視の魔法の集中力は揺らぐはずだ。その一瞬を狙う―その計画は成功した。
蒼汰はその一瞬を見逃さず、イグニシアを見つけ出し、最大限に充電した星光閃を放った。

星光閃は、蒼汰の全ての魔力を放つ最終手段だった。その力は膨大で、一瞬で大量の魔力を解放することで、光の爆発を引き起こす。それは強大な敵を一撃で倒すための力だが、使用後は一時的に魔力を使えなくなる代償があった。
しかし、その代償は意味をなさなかった。イグニシアは倒れ、サルヴァトールは一時的な混乱に陥った。

一瞬、全てが止まったように感じた。サルヴァトールがその場で固まり、驚きと困惑の表情を浮かべている。四大眷属の一人、イグニシアが倒れた。その一瞬の隙間をテオは見逃さず、その全身に力を込めて攻撃を仕掛けた。その強大な剣は空を切り裂き、サルヴァトールに向かって突き進んだ。
蒼汰はレナに向かって叫んだ。「レナ、走って!」彼女は蒼汰の声に反応し、風花のもとへと全力で走り始めた。レナがかける回復魔法は、一般的な回復魔法とは全く異なっていた。それは蘇生に近い魔法で、莫大な魔力を必要とする。それは人間の生命力を再び呼び戻すための大きな代償を払う魔法だった。しかしレナは一瞬もためらうことなくその魔法を唱え、風花の命を救うために全てを捧げた。
蒼汰は次にアリアーナに声をかけた。彼女はショックから立ち直れないでいたが、蒼汰の声に気を取り直し、神聖魔法を放った。
その魔法はサルヴァトールに向かって放たれ、彼に迫った。

レナの魔法で、風花の身体はやっと動くことができるようになった。
しかし、彼女の身体は未だに深刻な状態で、全力を出すどころか、普通に動くことすらままならない。
彼女は起き上がり、自身の身体を見た。まだ完全に回復していない。戦える状態ではない。
しかし彼女は、仲間たちがサルヴァトールに立ち向かう姿を見て、何とか自身を奮い立たせようとしていた。

一方、戦場の片隅で、イグニシアの身体が少しずつ再生していくのを蒼汰は見た。イグニシアの身体に開いた穴は徐々に塞がり、傷も消えていった。その様子を見て蒼汰は思った。イグニシアはまだ戦闘可能だ。そして、サルヴァトールもまだ倒されていない。
現状を評価し、思考を巡らせる。このままでは、時間が経つにつれて戦況は逆転してしまう。
イグニシアが完全に回復した時、サルヴァトールとイグニシアの二人に対し、風花はまだ戦えない。
考えた末、蒼汰は結論を出す。「撤退するしかない。」と。
もはやこれ以上戦うことは自殺行為でしかない。
今、優位に立っているこのタイミングで撤退するしかない。
そして、仲間たちに指示を出した。仲間たちはそれに従い、戦場から離れる準備を始めた。

戦闘の前、風花はアリアーナに、一つのクリスタルを託した。
それは、彼女たちがかつて海底遺跡で見つけたフェーズゲートクリスタルだった。このクリスタルは、遠くまで瞬時に移動できるという、驚異的な力を持っている。
この珍しいクリスタルは世界に数十しか存在しないと言われている。
そのような貴重なものを、一度の戦闘で使うことになるとは思ってもみなかった。
風花は「それでも、仲間の命を救う手段としては仕方がない」と考えた。そして、アリアーナにフェーズゲートクリスタルを託した。
ついにその時が来た。アリアーナはフェーズゲートクリスタルを使用することになった。
しかし、そのクリスタルを使うための時間を稼ぐのは容易なことではない。
サルヴァトールとイグニシアの二人が彼女たちを追い詰める。

その役目を負ったのがテオだった。彼は自分の身体を盾にし、仲間たちがフェーズゲートクリスタルを使う時間を稼ぐため、サルヴァトールとイグニシアの前に立ちふさがった。
テオの勇敢な行動により、アリアーナはついにフェーズゲートクリスタルを使う準備が整った。
事前に打ち合わせていたかのように、アリアーナの詠唱が完了すると同時に、テオが猛スピードで全員の元へ戻ろうとした。彼の目はまっすぐに仲間たちを見つめ、唇からは小さな笑顔がこぼれていた。
しかし、その笑顔は一瞬で凍りつく。サルヴァトールの剣がテオの体を、冷酷にも無慈悲にも貫いた。同時に、イグニシアの手から熱線の魔法が放たれ、その一撃もまたテオに命中した。テオの体はひどく揺れ、彼の足元が不安定になる。

「テオ!」と風花が叫んだ。彼女はすぐさま風の翼を使い、テオを連れ戻そうとした。しかし、風花の体は未だに重傷で、力を出すことができなかった。風花の目には悔しさと絶望が交じり合い、涙がこぼれた。
だが、フェーズゲートクリスタルの力は容赦なく彼らをその場から消し去った。4人は無事に離脱した。しかし、テオの姿はそこにはなかった。

テオがいない。その現実が彼らに突きつけられると、その場はしばし静寂に包まれた。それは、仲間を失ったことへの絶望感と、残された者たちの心に生じた無力感が混ざり合った、重い静寂だった。
「テオ…」風花は声を絞り出した。その声には、深い悲しみと、悔しさが込められていた。テオは最後まで仲間を守ろうとした。しかし、その代償が彼自身の命となってしまった。
4人が移動した先はリアヌイ港だった。彼らは胸を締め付けるような絶望感を抱えていた。風花は唇を噛み締め、テオを救いに戻ることを提案した。「テオを見捨てていいわけがない。戻るべきだ」と彼女は言った。

しかし、風花自身が体力的にも精神的にも限界だった。彼女の体からは大量の魔力が消耗され、その顔色は青白く、目も虚ろだった。それでも、風花は「まただ」と呟いた。それは彼女自身が、仲間の犠牲を背負うことになったという自責の念の表れだった。自分が生きるために仲間が命を捧げたという事実に、風花は悔しさと共に深い悲しみを感じていた。

風花とレナはリアヌイ港の治療所に運ばれた。この場所は街の中心部に位置しており、多くの病人や怪我人が治療を受けるために訪れていた。治療所の建物は古風でありながらも、その中はきちんと清潔に保たれていて、患者たちにとって最善の治療環境が整えられていた。
風花の状態は重症だった。彼女の体はまるで布切れのように薄く、小さくなっていた。しかし、風花の心は未だに強く、彼女はいつでも戦いに備えているかのような眼差しを見せていた。治療師は彼女をすぐに療養室へと案内した。
しかし、より深刻だったのはレナの状態だった。レナは風花に蘇生魔法をかけるために、自身の魔力を限界まで使い果たしていた。その魔力の消費はとてつもなく、彼女自身が持つ魔力の限界を越えてしまっていた。そのため、レナの体は魔力を使い果たした反動で弱りきっていた。
治療師は風花たちにその状況を告げた。「レナさんの魔力は限界を超えて消費されてしまいました。今後、彼女が魔力を回復できるかはわかりません。もしかすると、二度と魔力は戻らないかもしれません」
この事実は風花たちにとって、深い衝撃となった。レナは彼女たちの戦闘を支えてきた重要な仲間だった。彼女の魔力が戻らないとなれば、これからの戦いは厳しいものとなるだろう。

リアヌイ港の宿屋の一室で、アリアーナと蒼汰は互いの顔を見つめ合っていた。部屋は暗く、ただ外から差し込む月明かりだけが二人の姿を照らしていた。
その日が終わり夜が訪れると、自分たちがどれだけ大きな損失を被ったのかを思い知ることとなった。テオの生死は依然として不明だった。風花は重症で、その命が危ぶまれていた。レナは彼女の魔法の力が二度と戻らないかもしれない状況に置かれていた。
それは彼らにとって完全な敗北だった。
テオのことは特に二人にとって重い影を落としていた。彼が倒れたその瞬間、アリアーナと蒼汰は自分たちが何もできなかったことに打ちのめされていた。その絶望感は、彼らの胸に鋭いナイフのように突き刺さり、彼らを苦しめていた。
アリアーナは、怖がりながら蒼汰に告げた。「私、怖い……。こんなに死が近いのを感じたことなんて、なかったから……」
その言葉を聞いた蒼汰は、彼女をそっと抱きしめた。その抱擁は彼女の心に柔らかな安心感を与え、少しでも彼女の恐怖を和らげることを試みた。
「怖がらなくていい。僕がここにいるから」と、蒼汰は囁いた。彼はアリアーナの髪をなで、彼女が感じている不安や恐怖を理解しようとした。アリアーナは彼の胸に顔を埋め、涙を流した。

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