運命を紡ぐ三つの星:ヴィタリス、エルデリア、ユウキヨの物語 第23章

馬車の車輪が轟音を立てて石畳を転がり、エルデリアの広大な風景が目の前に広がっていた。五人はほとんど黙り込み、窓から見える風景をただただ見つめていた。リアヌイ港を離れて、彼らが向かっているのはフェーズゲートのある都市、イリューシャだ。
馬車が進むにつれて風景は変わり、彼らの目の前に広がるエルデリアの風景は異彩を放っていた。まず目についたのは広大な農地。緑の絨毯のように広がる畑には、農夫たちが汗を流しながら耕作をしていた。彼らの顔には汗と土と労働の色が混じっていたが、それでも彼らの顔には満足そうな表情が浮かんでいた。
次に現れたのは美しい森林地帯。風に揺れる木々の間から、時折小さな生物が姿を見せる。フェアリーたちは木々の間を飛び跳ね、小さな声で歌を歌いながら楽しげに遊んでいた。その光景を見て、風花は子供のようにはしゃぎ、馬車の窓から身を乗り出して手を振った。それを見て、アリアーナも微笑んで風花に同調した。
また、彼らの旅路は山々を越えて行く。そこには頑丈な体躯を持つトロールたちが、岩石を切り出して道を整備していた。彼らは大きな手で岩を軽々と扱い、まるで遊ぶように仕事をしていた。その一方で、空を飛ぶグリフォンの姿も見えた。彼らは雲を突き抜けて空を舞い、翼を広げて自由に飛び回っていた。

馬車の旅は途中、予期せぬ遭遇によって停止した。路上に立ちはだかるのは数人の男たち。それぞれが鮮やかなバッジを胸につけ、固い表情を浮かべていた。バッジには八つの矢が交差するデザインが施されている。「オクトピア・レヴォルシオン」のシンボルだった。
「なんだ、お前たちは?」運転手の老人が無愛想に問いかけると、男たちの中から一人、立派な体躯の男が一歩前に出た。その男、彼の名はブロニス、オクトピア・レヴォルシオンのリーダーだった。
「我々はオクトピア・レヴォルシオンだ。通行するなら、通行料を払ってもらおう。」ブロニスは、男たちが立ちふさがる道を指さし、そう告げた。
それを見た風花は場所を出る。風斬りの風花であると知ったブロニスは、驚いた顔をする。
風花が毅然とした態度で通行料を拒否すると、ブロニスはあきらめて帰っていった。

風花と蒼汰は野営地で静かに座り、日中の出来事について話し合っていた。風花がオクトピア・レヴォルシオンがエクリプス・シャドウと関係している可能性について言及すると、蒼汰は興味深そうに顔を上げた。
「エクリプス・シャドウとオクトピア・レヴォルシオンがつながっているのか。」
風花は考え込みながら答えた。「噂と情報の断片を組み合わせた仮説だけど、何度かエクリプス・シャドウとオクトピア・レヴォルシオンが共同行動をしているとの情報を耳にしたことがあるんだ。そして、オクトピア・レヴォルシオンの活動がエルデリアの内政に対する反乱だけでなく、王権を揺るがす力を持つエクリプス・シャドウとの関係もあるのではないかと考えている。」
蒼汰は頷いた。「確かに、エルデリアの内政に対する反乱だけでなく、エクリプス・シャドウとのつながりがあるなら、その勢力はより大きな脅威となる可能性がある。しかし、情報が断片的なうちは確証は得られない。」
風花は眉をひそめながら言った。「そうね。彼らは一般的には非倫理的で禁じられた手段を使っていることが多い。それが彼らの力となっているのかもしれない。でも、私たちは彼らの手に負えない存在ではない。」

その瞬間、野営地に敵襲が訪れた。テオとレナが見張りをしていたが、彼らが叫び声を上げた。
「敵が来る!人の姿をしているが、何か違和感があるぞ!」テオが叫んだ。
蒼汰、風花、アリアーナはすぐに身を起こし、敵の接近に備えた。しかし、驚きを隠せなかった。敵の姿の背後には、闇の魔獣たちが忠実に付き従っているのだった。
風花が声を荒げて言った。「これはエクリプス・シャドウだ!彼らが我々に襲い掛かってきたんだ!」
闇の魔獣たちは凶暴な姿勢で迫ってきた。その姿は一般の魔獣とは異なり、暗黒の力に包まれていた。彼らはエクリプス・シャドウの手先として、恐怖と破壊をもたらす存在だった。
蒼汰は武器を手に取り、銃を構えた。「風花、アリアーナ、用心して!これは手ごわい相手だ。闇の魔獣たちは強力な攻撃力を持っている。」
風花は風の魔法を操り、旋風を巻き起こして闇の魔獣たちを迎撃した。「私たちも負けないよ!」
アリアーナは魔法の融合を使い、水と神聖の魔法を組み合わせた攻撃を放った。
彼らは団結し、闇の魔獣とエクリプス・シャドウの手先たちとの激しい戦いに身を投じた。夜空には剣や魔法の光が煌めき、闘志に燃える彼らの声が響き渡った。

エクリプス・シャドウの襲撃を退けた後、風花はまだ終わりではないと感じていた。彼女はエクリプス・シャドウの構成員が逃げる方向を見て、彼らを追いかけることを決意した。蒼汰とアリアーナは驚いた表情を浮かべた。
風花は途中で蒼汰達に話しかけた。「計画通りだったんだ。昼間、オクトピア・レヴェルシオンの構成員に風斬りの風花であることを公言した。そうしたら、オクトピア・レヴェルシオンにいるエクリプス・シャドウの構成員からその情報が伝えられたんだ。私たちは彼らを追いかけて、彼らのアジトを暴くんだ。」

蒼汰とアリアーナは驚きながらも、風花の戦略に納得した。彼らは危険な道のりを進んでいく中で、風花の指導の下で追跡を続けた。道中、彼らはエクリプス・シャドウの構成員たちとの小競り合いが何度か起きたが、風花の剣術の腕前と蒼汰の銃術の技量によってそれを撃退していった。そしてついに、風花達はアジトを見つける。
風花たちは物音一つ立てず、息を潜めながら本拠地の周りを確認する。そこには7〜8人のエクリプス・シャドウの構成員が、厳かな雰囲気を纏って立ちはだかっていた。彼らの凛とした表情と身のこなしからは、すでに戦闘の準備を整えていることが読み取れた。彼らの視線の先には、まるで暗黒の王のような、サルヴァトールの姿があった。

エクリプス・シャドウは、秘密主義で知られ、その活動は一部の魔法使いや知識層にしか知られていない強大な闇の組織だ。その目的や活動は多岐にわたり、魔法の研究から情報収集、暗殺、脅迫、そして時には国家レベルでの政治的な混乱を引き起こす事件まで、手段を選ばない。また、組織内部は層状の階級制度を持っており、その頂点には「影の主」が君臨している。

サルヴァトールの存在は、この闇の組織の中でも特に危険であることが知られていた。彼の冷酷無慈悲な性格と、獲物を追い詰めてその絶望と恐怖を引き出す戦闘スタイルは、誰もが恐怖を感じざるを得ない存在だ。そして、サルヴァトールこそ、エレシアに呪いをかけた者、レナとテオが追っている魔王軍の幹部だった。
風花は仲間のテオとレナと視線を交わし、サルヴァトールの存在を確認した。彼らの眼差しには、決意とともに深い不安が潜んでいた。しかし、彼らはエレシアを救うため、そしてサルヴァトールを倒すため、この戦いを避けることはできない。

エクリプス・シャドウの本拠地への進入が始まる前、風花たちは戦略を練り始めた。彼女たちは目の前の困難に直面し、一つ一つの局面を慎重に考えた。
風花とテオは前衛として選ばれた。彼らの力強さと勇気が、エクリプス・シャドウの待ち伏せからチームを守るための強固な壁となるだろう。彼らの任務は重く、彼らは敵からの攻撃を防ぎながらも、自分たちの道を切り開くこととなる。
一方、レナとアリアーナは魔法で援議する役目を担った。彼女たちはテオと風花が前線で困難に直面している時、魔法の力で彼らをサポートする。彼女たちの魔法が、テオと風花の背中を護り、そしてチーム全体を前へと押し進める力となることだろう。そして、蒼汰。彼は星光と呼ばれる特別な銃を持って戦う。

戦略を練り、各自の役割を確認した風花たちは、ついにエクリプス・シャドウの拠点に突入した。その足取りは力強く、心は一つの目的に集中していた。彼らの目的はただ一つ、サルヴァトールを倒すことだ。
建物に足を踏み入れると、彼らの存在が構成員たちに気づかれる。突然の襲撃に驚き、一部の者たちは逃げ出す。しかし、風花たちはそれに目もくれず、突き進んだ。彼らが求めていたのは、構成員たちではなく、サルヴァトールだった。
前衛の風花とテオは、障害となる者たちを蹴散らす。彼らの力強い姿はまるで猛獣のようで、恐怖を感じた構成員たちは彼らから遠ざかる。一方、レナとアリアーナは、魔法で風花とテオを援護し、進行路に立ちはだかる障害を消し去った。魔法の力は一瞬で周囲を覆い、風花とテオの進む道を確保した。
蒼汰はその特別な銃、星光を手に持ち、固く口を結んだ。彼の瞳は冷たく、彼が進む道に立ちはだかるものには、容赦なく銃口が向けられた。星光から放たれる弾は、その道を確保し、同時に風花たちの目的への道を示す道しるべとなった。
そうして彼らは、サルヴァトールのいる部屋を目指して進み続けた。風花たちはサルヴァトールを倒すことだけに焦点を絞った。その姿勢は、彼らの結束力と決意を如実に示していた。

風花たち五人は目の前に広がる大広間を見渡す。その中心には、目指してきた男、サルヴァトールが立っていた。男の顔は自信に満ち溢れていて、彼の存在はこの広大な空間全体を支配しているようだった。
「よく来たな。」サルヴァトールの深い声が広間に響き渡る。
蒼汰は銃を抜き、凛々しくサルヴァトールを睨みつける。
風花も剣を構え、「行くよ!」と力強く叫ぶ。アリアーナは彼女の隣で魔力を溜めていた。テオとレナも各自の戦闘準備を整えている。
サルヴァトールは大笑いする。「無駄な努力だ。ここまで来ても、お前たちは私には到底及ばない。」
だが、彼の言葉は彼らには届かない。五人は一心不乱に目の前の敵を見据え、全力で突撃する準備を整えていた。
戦闘の開始と共に風花は最初に突撃し、風を操る能力を発動させ、一瞬でサルヴァトールの間合いへと飛び込む。彼女の剣が風に乗って一瞬で男の防御を突き破る。だが、サルヴァトールは風花の攻撃をかわし、反撃の構えを取る。
その隙にアリアーナが彼女の魔法を放つ。凍てつくような氷の矢がサルヴァトールに向かって飛んで行く。
サルヴァトールはその攻撃もかわすが、すぐにテオとレナの攻撃が彼に迫る。それを防いだ瞬間、蒼汰が彼の魔弾を放つ。
「なんだろう、この違和感は…」蒼汰の心の中で一抹の不安が渦巻いていた。
彼らの戦いは上手く進行していた。
テオの剣術、風花の風の翼、レナとアリアーナの魔法の援護。すべてが計画通りに進んでいた。
しかし、それが逆に蒼汰の心を揺さぶった。
サルヴァトールは強敵なのは明らかだった。彼の知恵や力、そして絶え間なく進化する能力は彼らにとって大きな脅威となっていた。
彼の特殊な能力、"知恵の吸収"によって得た情報からは、サルヴァトールの思考や戦略をある程度読み解くことができた。
しかし、それが逆に彼を混乱させる結果となった。
「何を考えているんだ、サルヴァトール…」蒼汰の瞳が疑問を抱きながらも、彼は銃を構え、援護を続けた。
サルヴァトールは冷静に彼らの攻撃を避けていた。彼の動きは機敏で、まるで彼が狙われていることを全く意に介していないかのようだった。
その様子はまるで、彼が何かを伺っているかのように見えた。
「もしや、このままだと…」蒼汰の心に一抹の恐怖が過った。彼は周囲を見渡し、仲間たちに何かを伝えようと口を開いた。

風花の心は戦いの中での不思議な感覚に捉われていた。彼女の風の翼が自由に空を飛び、その力でサルヴァトールを攻撃している。一瞬一瞬、その動きが自身の意志と共鳴し、その攻撃が通じる感触が確かに感じられた。四大眷属の一人であるサルヴァトールとまともに戦えているという事実に、彼女は不思議な満足感を得ていた。
「まるで夢みたい…」風花が心の中でつぶやいた。
戦いの最中にも関わらず、風花の心は別の場所にあった。彼女の心の中にはある男性の面影が浮かんでいた。そう、蒼汰のことだ。
風花はふと、マーメイド族の村の近くの無人島で蒼汰と話したことを思い出した。あの日、星明りの下で二人きり、静かな波音だけが周囲を包んでいた。
「蒼汰、私、実は…」風花は深呼吸をして、少し緊張した声で話し始めた。その言葉に、蒼汰は驚いた顔をした。
彼女はその日、自分の心の中に秘めていた思いを蒼汰に伝えた。自分が彼に想いを寄せていること、そしてそれがどれほど強く、深いものであるかを。それは彼女にとっては勇気のいる行為だったが、同時に彼女はその瞬間に大きな安堵感を得た。
しかし、その告白が蒼汰の心にどのような影響を与えたのか、それはまだ彼女にはわからなかった。彼は彼女の告白に対してどのように感じているのだろうか。
風花は戦闘の最中でも、その思いが胸を締め付ける。しかし、それが彼女に力を与えていることもまた事実だった。彼女はその思いを力に変え、戦い続けた。

壮絶な戦いが続き、5人は次第にサルヴァトールを追い詰めていた。その力を結集し、一丸となった彼らの攻撃は確実にサルヴァトールにダメージを与えていた。そして、風花が最後の一撃を打つべく力を込めた瞬間、戦局は一変した。
風花の後ろから、赤々と輝く炎の矢が飛んできた。それが誰の放ったものかは分からなかった。しかし、それが向かってくるのは間違いなかった。
風花はすぐにそれに気付いた。しかし、すでにその炎の矢は彼女に向かって急速に接近していて、避けることは不可能だった。

「避けられない…」風花はその危険な状況を完全に理解していた。
その瞬間、風花の頭の中に浮かんだのは、あの島でのことだった。
そこで、蒼汰と風花はお互いの心を通わせ、体を重ねた。それはまるで二人だけの世界で、外の世界のすべてを忘れさせるような時間だった。その時の風花の心情は、「死んでも構わない」それほどの感情だった。
その感情が心の中に再び湧き上がってきた。

次の瞬間、炎の矢は風花の体を貫いた。

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